新潟県燕市……ここにボーイズラブ漫画も顔負けの、妖艶な日本画が飾られた寺院があるという。その名もずばり国上寺「イケメン官能絵巻」! ネーミングからしてびっくりするが、実物を見たらいろいろな意味で本当にすごかった。

発表当時から市民の賛否両論を呼び、ニュース等でも報道されたのでご記憶の方もいるかもしれない。ぜひ今一度、一緒にご覧いただきその意義を考えてみたい。


・話題をさらった日本画

いざ境内に入ってみると、古刹(こさつ)と呼ぶのにふさわしい、実に趣のある寺院である。池があり、石橋があり、木々が色づき始めている。どこもきれいに掃き清められ、深呼吸したくなるすがすがしさ。

開山1300年。本堂も相当に古く、薄暗い堂内に入るとゾクゾクするような神秘的な雰囲気がある。


しかし視線を脇に転じると……


思わず二度見の色鮮やかな男性画! 題材になっているのは阿弥陀如来さまと上杉謙信、良寛、酒呑童子、源義経、弁慶。

時代は違うが、この5人の共通点は国上寺にゆかりがあること。もし5人が同時代に生きていたら……というのが発想の出発点だという。

そのままゲームのキャラクターになりそうなビジュアル! セクシーな衣装にご注目。


作者の木村了子氏は、エロスあふれる男性画を得意とする現代日本画アーティストだ。


日本画は東西南北の4面にわたって掲げられている。


弁慶が肩を抱いているのは、実は義経ではなく謙信。その理由はぜひ現地で確認していただきたいが、それぞれの人物や場面には、ちゃんとキャラづけがあり、バックストーリーがある。

最大の見どころであり、議論の的となったのは北面にひっそりと描かれた入浴シーンだろう。


5人が仲良く露天風呂に入っており、巧みに隠されてはいるが基本全裸。


酒呑童子、美人すぎる!!!!


想像力を働かせればBLのカップリングにも見えるし、そうでなくとも親しげに遊んでいる偉人たちは微笑ましい。意外なほど違和感なく本堂に馴染んでいる、というのが筆者の印象。

卑猥(ひわい)かどうか、は人によって受け取り方が違うので一概にはいえないが、筆者はいやらしいというよりも、モデルやアイドルなどの美麗な男性画を見るような感覚だった。扇情的なだけでなく、物語の背景を想像させるような深みがあり、なにより絵画として美しい。

しかし当然というか想定内というか、これらの壁画は「寺院にふさわしくない」「教育上よくない」などと相っっっ当に物議をかもした。国上寺は燕市教育委員会の文化財に指定されているために事態が複雑化。ここに「お寺は誰のものか」という問題がある。


・奇抜な企画には理由がある

実はこちらの国上寺、以前にもSNSの炎上事例を供養して災難を払う「炎上供養」で注目を浴びた。越後最古の由緒正しい名刹(めいさつ)でありながら、とがった企画ばかり打ち出す異端の寺院だといえる。

いま日本では檀家の減少、いわゆる「お寺離れ」が進んでおり、現在約7万7000ある寺院のうち今後25年以内に約4割が閉鎖される予想だという。

たしかに御朱印集めをはじめとする「観光地としての寺院」は人気だが、生活に根づいているかといわれれば心許ない。現に筆者は「墓なんていらん。遺灰は好きにしてくれ」くらいに思っている。

このままでは未来がない。その切実な思いから、新しい世代が寺院に魅力を感じるような企画を打ち出しているのだそう。実際、筆者はこの絵を見るために同地を訪れたので、試みは成功しているといえる。

一方で、文化財は「みんなのもの」という考え方がある。失ったら2度と戻らない貴重なものだから、所有者が勝手をしてはいけない、という考え方だ。

けれど文化財の維持には、たとえ多少の補助金があったとしても莫大な費用がかかる。いざ補修や整備のために資金が必要になっても「みんな」は助けてはくれない。

筆者もテレビなどで「○○を取り壊し」なんていうニュースを聞くと「えぇ~、もったいない!」と思うくせに、足しげく通うわけでも費用を負担するわけでもない。まさに「口だけ出して手は出さない」親戚のおばちゃん状態で、こんな外野が何人いても問題は解決しないだろう。


・どちらも理解できる

歴史ある寺院は公共物、という考え方と、新しいことをやらなくては存続できない、という考え方、どちらも理解できる。

燕市教育委員会から原状回復を求められているという情報や、今秋に予定されていた御開帳が済んだら絵を移動するという情報もあった中、今後の予定について山田光哲住職にうかがった。


「寺院周辺は湿度の高い環境のためカビや虫食いを心配しており、今秋の御開帳までの掲示というように当初は考えておりました。

しかし諸事情から御開帳を5年後の午年に延期しました。5年後まで、このまま飾っておいては絵がボロボロになってしまうという懸念から、来春をめどに取り外しを考えているところです。GWが終わるころまではご覧いただける予定です」


とのこと。取り外しは予定しているが、あくまで壁画の保存のためで、反対の声があったからではない。そもそも反対意見は想定内で、「寺院の在り方」を議論することにこそ、ねらいがあっただろう。そこに山田住職の新しい時代に残る寺院としての強い意志が感じられる。あなたはどう思われるだろうか? 


・今回ご紹介した寺院の詳細データ

名称 国上寺
住所 新潟県燕市国上1407番地
時間 通常 8:30~16:30 / 冬季 8:30~16:00(12月~3月末日)
備考 冬季閉山 2月~3月お彼岸まで


参考リンク:PR TIMES
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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