突然だが、あなたは他人のトイレを見たことがあるだろうか? 「ない」と答えてくれることを祈りたい。コロンブスだろうとマゼランだろうと、どんな偉大な探検家でも決して立ち入ってはいけないのが他人が入っているトイレの個室なのだから。
だが、見る者がいないということは、もし作法が変でも正す者がいないということ。先日、友達のトイレの作法に衝撃を受けた話をしたい。
・ブッチさん
私(中澤)に自分のトイレの作法を教えてきたのはBUTCH (ブッチ)さんである。毎年iPhone行列に参加しているブッチさんは、行列マニアの間では知られた存在。iPhone日本初上陸だった3G行列のテレビ特集での発言「乗るしかない、このビッグウェーブに」は、全国のお茶の間にiPhoneの勢いを印象付けた。
ネットでは『ビッグウェーブさん』としても知られているブッチさんだが、見た目ほど世紀末な人間ではない。というわけで、先日カフェでお茶していたところ、う〇この話になった。
・衝撃発言
キッカケは私が書いたコラム『オシャレすぎて重要な機能を失ったトイレ』をブッチさんが読んだこと。詳細はコラムを読んでいただければと思うが、簡単に言うと、「トイレの照明がオシャレすぎてトイレットペーパーにう〇こがついているかどうか判別できなかった」という内容である。
しかし、これを読んだブッチさんはいまいちピンとこない様子。というか話がうまくかみ合わない。そこで細かく話を聞いてみると……
ブッチ「別にトイレットペーパーが見えなくてもよくないか?」
中澤(私)「じゃあ、どうやってケツにう〇こが残ってないか確認するんですか?」
ブッチ「感覚」
中澤「えッ」
ブッチ「そもそも俺は普段からケツを拭いたトイレットペーパーを見ない」
中澤「えッ!?」
──なんとブッチさんは、拭いた瞬間の指先の感触のみでう〇こが残っているかどうかを判別しており、目視確認はせずにトイレを終えるというではないか! なぜそんなにリスキーなことをするのか?
・目視しなくなった理由
ブッチ「あれは俺がガキの頃だった」
中澤「はい」
ブッチ「ばあちゃん家に泊まった夜、便所でう〇こをしたんだ」
中澤「事件の匂いがしますね」
ブッチ「当然、ケツを拭くわな」
中澤「そうですね」
ブッチ「あの頃は俺もまだ若かった。ケツを拭いたトイレットペーパーを目視で確認しようとしたんだ。そしたら……」
中澤「そしたら……?」
ブッチ「握ってたはずのトイレットペーパーがなくて、手に直でう〇こがついてたんだ。いつの間にか落としてしまったんだろうな。若気の至りってヤツさ」
中澤「キツイですね……」
ブッチ「それ以来、ケツを拭いた後トイレットペーパーを見るのが怖くなった」
中澤「でも……! でもそれだとケツが綺麗になったか結局確証は得られないじゃないですか!! 不安じゃないんですか!?」
ブッチ「落ち着けよバディ。確かに、ケツにう〇こがついてないって保証はない。でも、ついてるって証拠もないんだぜ? 誰も観測できない以上、誰にも言い切ることはできない。言わば、シュレーディンガーのう〇こなのさ」
中澤「そんな……!」
ブッチ「俺が見るのは明日だけだ。dude」
──とのこと。明日を見続けて生きてきたブッチさん。穏やかに語るその瞳には優しい光がともっていた。
自分の個室トイレでのふるまいが完全に正しいと思っていた私。しかし、ブッチさんの話を聞いて、常識が足元から崩れていくような衝撃を受けた。
正しさとは何か? その問いにはきっといろんな答えがある。それらすべてを受け止めて、ブッチさんは変わらず優しい眼でつぶやき続けるのだ。
「パワーハグ」と──。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.