コロナ禍で注目を集めるオンライン葬儀や、物議をかもしたお坊さん手配サービスなど、仏事や神事のあり方も時代によって変わる。では、縁起物の「ふろく」はどうだろうか。
先日、本屋で「塩」を売っているのを見つけた。それも神聖なる「伊勢神宮奉納塩」を使った盛り塩だ。
「無病息災」「災厄消除」などと書かれているが、よくデアゴスティーニの創刊号などで使われる、外から中身がわかる透明ボックス。思わず「カジュアルすぎだろ」とツッコミたくなったが、これも時代なのかもしれない。どれ、ひとつ買ってみよう。
・『超開運 伊勢の盛り塩 BOOK』(税込2178円)
タイトルは『超開運 伊勢の盛り塩 BOOK』(宝島社)。発行人や発行所の記載があるので、まぎれもない刊行物だ。盛り塩に必要なものがセットになっている。
盛り塩を形づくるための陶器カップと陶器皿。ちょうど薬味皿くらいのサイズ。小さいけれども手ざわりがよく、意外にも高級感がある。
奉納塩14gと「産地・製法・流通」に関する証明書。印刷ではあるが、シリアルナンバーが入っている。三重県熊野灘の深海で採取した海水を煮詰めたもので、化学反応で製塩するよりも時間がかかる伝統的な方法だとか。
伊勢神宮の内宮にも奉納したことから「伊勢の盛り塩」というネーミング。ちょっと紛らわしいが、伊勢神宮の証明書ではない。
盛り塩の由来や使い方に関する8ページのブックレットつき。これが本誌ということになる。
・盛ってみる
使い方はいたって簡単。スプーンなどを使って、陶器カップの中に塩を詰める。
陶器皿をあてがって、逆さにしたらそっとカップを外すだけ。ちょっと押し込みが足りず表面がポロポロこぼれたが、きれいな円すいになった。もちろんカップは何度でも使えるので、塩が古くなったら交換できる。
あとは玄関の内外や台所、トイレなど好きなところに設置する。盛り塩には穢れ(けがれ)を清める意味もあるが、同時に縁起物でもある。ブックレットによると商売で盛り塩をするのは、平安時代に牛車を呼び寄せるために牛用の塩を玄関先に置いたのが由来(諸説あり)なんだとか。
筆者は無神論者だが、こういった土地の歴史や文化に根ざした風習は好ましい。それに、人の目には見えない「気」のようなものはあると思うので、日頃から空気がよどみやすいと感じていたクローゼットに置いてみる。
・あなどれない
最初は「ふろくかw」と少々冷笑していた筆者だったが、意外や意外、作業しているうちに、それなりに厳粛な気持ちになって塩を盛っていた。いくら霊験あらたかな奉納塩だって、たくさんの人の手を介して生産、輸送、陳列されているうちに運気も落ちそうと思っていたが、こういうのは「気持ち」の力なんだろうと思う。
要は信じる心と、ちょっと立ち止まって縁起を担いだり、居住まいを正すことが幸運を呼び込むのだ。「物」はたぶんきっかけに過ぎない。そういう意味では、そのうちお札やお守りも書店で売られるかもしれないなぁ。