高い……高すぎる。出だしから唐突で申し訳ないが、腕時計のオーバーホール料金はなぜあんなにも高いのだろうか? 真面目な話、私、P.K.サンジュンはいま、オーバーホール破産の危機に瀕している。
果たして世の中のみなさんは、オーバーホールの料金に納得しているのだろうか? それとも私が知らないだけで、もっと安く済ます方法があるのだろうか? それともそれとも「そういうもの」と割り切っているのだろうか? 腕時計のオーバーホール……マジで高すぎる。
・本当に腕時計は必要か?
21世紀も20年が経過したこのご時世。時間を知るための道具としての腕時計の価値は、もはやゼロに近いのかもしれない。純粋に時間だけ知りたいならばスマホや携帯電話で事足りるし、なんならそちらの方が正確だからだ。
おそらく、現在の腕時計はファッションやステータスとしての価値、そして何より「人類が長らく腕時計をつけ続けた習慣」の上に成り立っているのだろう。固定観念を捨てて冷静に考えた場合「あってもいいけど、別に無くてもそこまで困らないモノ」これが2020年の腕時計の立ち位置ではなかろうか?
とか言いながら私はここ15年以上、それなりの愛着を持って腕時計をハメ続けている。私の腕時計は「Sinn(ジン)」というドイツのメーカー製で、なんと価格はおよそ30万円──。いつも全身ユニクロの私にとっては、ズバ抜けて高価なアイテムだ。
・15年以上の相棒、Sinn(ジン)
ただし、これは貰い物である。あれは確か17年ほど前のこと。私がスーツを着て仕事をするようになったタイミングで、経済的にも気持ち的にも太っ腹な友人が「そろそろサンちゃんも1つくらいいい時計してた方がいいよ」と言いつつ、自身のコレクションの中からSinnを気前良くプレゼントしてくれたのだ。
それまでは中学生や高校生の頃、せいぜいスウォッチやG-SHOCKを着ける程度だった私は純粋に嬉しかった。30万円という高級感にもドキドキしたが、武骨でシックなSinnのたたずまいに、着けるだけでちょっぴり大人になった気がしたからである。
以来、Sinnは相棒としていつも私の左腕に巻かれている。Sinnを貰い受けたその日から、私が他の腕時計に浮気したことはタダの1度きりもない。出会った時からずっとカッコいいぜ、Sinn。これからも俺と一緒にいような、Sinn。信頼してるぜ、相棒──。
……と言いたいところだが。
もしかしたらそう遠くない将来、私とSinnは別々の道を歩むかもしれない。そう、冒頭でもお伝えした通り、とにかくオーバーホールの料金が高いのだ。Sinnに愛着はあるものの、聞けば真顔にならざるを得ないほどSinnのオーバーホール代はマジで高い。
・過去2回オーバーホール済み
私の手元に来て以来、Sinnは2度のオーバーホールを受けている。1度目はSinnを貰い受けて2年ほど経ったときのこと。1日に30分近くも時間がずれるようになり、日本にあるSinnの代理店に相談したところ「オーバーホールの時期ですね」とあっさり言われたのだ。
当時はオーバーホールに関する知識が無かったため「10万円を見ておいてください」と言われた時は心底ビビった。また「ドイツの工場に送るので3カ月かかります」と言われダブルで目が飛び出した。
結局はセール割引きなどもあり金額は約6万円、期間も2カ月足らずで済んだが「オーバーホールはシャレにならない金額が飛んでいく」と、当時30歳手前だった私は初めて学習したのである。とはいえ、このときは「貰いものだし、自分が買ったと思って」料金を支払った。
月日は流れ、2回目のオーバーホールは2018年のこと。1回目のオーバーホールから10年以上が経過している。この時も1日に30分近く時間がずれるようになり、まずはヨドバシカメラに持ち込んだところ「オーバーホールですね。おそらく10万円以上はかかります」と宣告を受けた。
ヨドバシの店員さんの説明は実に明快で「開けてみないとわからないですけど」と前置きしつつ、Sinnなのでベースが何万円、クリーニングが何万円、時間がずれるということはおそらくAとBとCというパーツを取り寄せるのでこれで〇万円。合計で10万円以上です、というものである。
・10万円はあたり前
私はうなだれるしかなかった。Sinnに愛着はあるにせよ、10万円オーバーか……。だったらその10万円で新しい時計を買った方がいいのでは? いや、むしろ腕時計なんていらなくない? かけがえのない相棒とはいえ、一撃で飛んでいく額が鬼すぎる。
結局この時は、時計をくれた友人に紹介された貴金属屋にSinnを持ち込んだ。貴金属屋のオヤジさんからは「汚ねえな~。3~4年に1度はオーバーホールしなきゃ。まあ長くても5~6年に1度だな。よく10年以上頑張ったよ」とお叱りを受け、金額も7万円で交渉が成立した。
正直、7万円は痛かった──。が、この時もポジティブに「10年間で7万円、つまり1年あたり7000円」と、出来るだけ金額を小さく見せることで自分を説得。オーバーホールから戻ってきたピカピカのSinnを相棒に「俺とSinn、シーズン3」が始まった。
……のだが、最後のオーバーホールから約2年経ったつい先日のことである。Sinnが曇っているではないか。最初はガラスが汚れているだけかと思ったが、拭いても拭いてもガラスはボヤけたまま。どうやら内側に水が入り込み、中からガラスが曇っているようだ。
・たった2年で
私は震えながら、2回目のオーバーホールを依頼した貴金属店にSinnを持ち込んだ。オヤジさんの判定は「あー、水が入っちゃってるな。オーバーホールだな、こりゃ」という非情なもの。顔馴染みになっていたことや、前回のオーバーホールから2年しか経っていないことを考慮して「4万円」という見積もりが出た。
4万か──。オヤジさんがボッタくっていないことはよくわかる。「おそらく部品の取り寄せは必要無い。ただ、水分を取るには全て分解する必要がある。それすなわちオーバーホール」という筋が通った理論である。ただ4万円は痛い……痛すぎるよ。
結局私はオーバーホールを依頼せず、Sinnを1度持ち帰った。ガラスは常に曇っているワケではなく、室内や涼しい場所だと曇りは収まる。気温の高い屋外だとうっすらとガラスが曇ってくる感じだ。
とりあえずは向こう数日で、自分で出来る限りの手は尽くす。ダメなら最後のつもりで4万円を支払うしかないだろう。オヤジさんからは「サビたらもっとかかるから早めに出した方がいいよ」と言われているので時間はあまりない。4万円、嗚呼4万円。オーバーホール、高すぎるって──。
・わかるけど高い
以上の経験から、私が言えることはただ1つ「身の丈にあった腕時計をしよう」ということ。高額な腕時計には高額の維持費がかかる。お金持ちにとっては痛くもかゆくもない金額かもしれないが、小市民の私にとって4万円も7万円もかなりきつい。腕時計を買う前に「本当に必要か?」熟考するといいハズだ。
細かい作業が苦手な私に、時計を分解して組み立て直す技術は無い。そのことを思えば、職人さんにお支払いする料金としてオーバーホール代は適切なのだろう。問題はウン万円という金額が現実として飛んでいくことである。Sinnに愛着はある……が、これからどうすべきなのか? 非常に迷っている。
参考リンク:Sinn
Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.
▼愛着はあるんだよ。けど、4万とか7万あったら新しい時計も買えるんだよな……。