
「仕方がない」っていうのをなくしたいんですよね──。三重県津市のバンド『Cryings』のヴォーカル・デグチユウトはタイトルの質問にそう答えた。
津市にはライブハウスがない。正確には、去年最後のライブハウス「ベースワン」が潰れたのだとか。言わば、ライブハウス不毛の地である。
2020年5月10日、そんな津市で周遊型ロックフェス『WOW!signal circuit(ワオ!シグナルサーキット)』を開催するのがロックバンド Cryings(クライングス)だ。しかし、ライブハウスがないのにどうやってサーキットイベントを開催するのか?
・周遊型ロックフェスをライブハウスのない街で
周遊型ロックフェスと言えば、多数のライブハウスをチケット1枚で自由に行き来できるアレ。有名なところで言うと大阪のミナミホイールとかだ。しかし、繰り返すが津市はライブハウス不毛の地である。
こういう状況は何も津市だけで起こっていることではない。私(中澤)も自分の生まれた町にライブハウスはないし、駅や町でギターを持ってる人を見たことがない。私はバンドをしたかったが、地元では楽器人口が少なすぎて夢のまた夢だった。
この音楽人口の過疎っぷりが、まず田舎生まれのバンドマンには壁として立ちはだかる。メンバーが見つからないというかそもそも人がいない。で、スタートラインにも立たずに夢をあきらめきれない私は仕方がなく上京したわけだ。
一方、Cryingsは街自体を変えようとしている。津市の表現者につきまとう「仕方がない」をなくすために。
デグチユウト「三重県に住んでいる音楽が本当に好きな人はある種の身の狭さを感じていて。例えば、体験するのには三重から出て大阪や名古屋に行かないといけない。そのハードルの高さが三重の人にとって当然のことになっているんです。もちろん、ライブをする時も。
でも、ライブハウスがないから遠征するのは仕方がないとか、生まれた場所をやりたいことをやらない言い訳にはしたくない。どこに生まれても好きなことはできるってことを示したいですね」
ミウラタカシ(Ba.)「僕は、東京の音響会社に一度就職したんですが、本気でやろうというクリエイターほど上京したりして三重から出ていくんですね。なぜかと言うと、例えばPA(Public Adress)マンを志す人ってやっぱり音楽の音響をやりたいものだと思うんですが、実際田舎にはそういう仕事はほとんどなくて、敬老会とかお祭りとかが多いんです。
僕は今三重に帰ってきて音響の仕事をやっているんですが、理想と違う内容に音響の道自体を諦めてしまう人も多くて。地元でそういう人たちが本来したかったことに携われる場面を作りたいんですよね」
・ライブハウスがなくても
とは言え、現実問題、ライブハウスはない。そこで Cryings が考えたのが街をステージに使うということ。『WOW!signal circuit(ワオ!シグナルサーキット)』では、「Live&Sports BAR BRAN」や「Galapagos Stage Cafe」などのお店から「津市まん中広場」、果ては津観音の境内までがステージとなる。
しかし、Bar やカフェなどのお店はともかく、津観音境内とかロックを演奏したら怒られそうだけど。許可取りとか大丈夫なのだろうか?
ミウラタカシ「それが津観音の住職さんがカルチャーにおおらかな人で。大門周辺はマルシェとかバルの周遊イベントをしてることがあるんですけど、津観音はそういうのにも使われていたりするんです。なので、その主催の団体さんと繋がって情報を聞きながらステージを決めました」
──お店とかもその繋がりで?
ミウラタカシ「お店は大門で飲み歩いて、そこに来てるお客さんとかと話して情報を集めて。どうやったらステージに使えるのか? とか相談したり、基本的には足で稼いだ縁ですね」
ステージのブッキング方法でも分かるように、基本的にはこのサーキットイベントはバンドの手作りにしてインディペンデント。個人と個人の関係性を広げることで長い時間をかけ準備されてきたものだ。そんなイベントには県内県外から多くのバンドやミュージシャンが出演の手を挙げている。
・Cryingsとの出会い
こうしてライブハウス不毛の地で三重県初となる周遊型ロックフェスを開催するに至った Cryings。彼らと初めて出会ったのは吉祥寺プラネットKというライブハウスだった。その日は確か、フロアには出演者合わせて20人いなかったと思う。
そんな状況で出て来たのが Cryings で、第一印象は「売れなさそうだな」というもの。誤解を恐れず言うなら、日本で受け入れられる音楽は大体めちゃくちゃスタイリッシュにそぎ落とされたものばかりである。それに比べて Cryings は削られてなかった。むしろ野ざらしだった。外見的にも。
最初は単にその感じが面白くて見ていたのだが、ライブが進んでいくにつれ、なんだか会場の雰囲気が変わってきていることに気づいた。
轟音の中で喉もちぎれよとばかりに叫ぶヴォーカル・デグチユウトに呼応するように、少しずつ拳を上げる人の人数が増えてきたのである。弾ける爆音が空気を震えさせる度、お客さんの心も揺らしていることが分かった。
曲自体がピンと来なくとも、ライブで見ると、その瞬間だけ世界一魅力的に見えるバンドがたまにいる。それがバンドのマジックで、ライブはそんなバンドの持つシックスセンスを直感的に感じとれる唯一の場所だと思う。配信や音源では無理だ。
拳を突き上げたのは周りがそうしているからではなく自分の意志で。自分がここにいる証明のために。
イベント名『WOW!signal circuit』はミウラタカシいわく天文学の未解決事件「WOW!signal」からとっているのだとか。1977年にオハイオ州立大学の望遠鏡が受信した電波信号である「WOW!signal」は、太陽系外の地球外生命によって送信された可能性が指摘されている。
津市の人にとって、2020年5月10日はそんな未知の信号であふれる日になるに違いない。少なくとも、Cryings は叫ぶだろう。
「俺たちはここにいる」と──。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
中澤星児






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