フランスのパリ中心部では「日本食街」と呼ばれる一角があるなど、ジャパニーズグルメが一大市場へ成長しつつあるようだ。居並ぶ店はどれもなかなかレベルが高く、かつてのようなインチキ日本食には滅多にお目にかかれないのが少し寂しい。
そんな中で圧倒的な安定感を誇るのは、やはり日本から進出してきた店である。この日見つけたのはおなじみのラーメンチェーン『一風堂』! 外国人はとんこつスープがお好きとみえて、日本の一風堂も外国人で賑わっているのをよく見かけるぞ。
日本恋しさも相まってさっそく入店してみることにした。日本とパリとでとんこつ味に差があるのかなァ〜?
・ところが……
店の外観は注意していないとカフェにしか見えないほどオシャレな造り。のれんに書かれている通り、一風堂というよりは『IPPUDO』のほうが完全にしっくりきている。
この日は寒くて誰もいなかったが店の外にもテーブルが並べてあり、それがより一層 “カフェっぽさ” を際立たせているのだ。
外で食べるラーメン……意外と日本でも流行るかもしれないな。起業をお考えの方、ぜひ!
客層は昼間だというのにデートや商談といった雰囲気のグループが多め。皆キチッとした身なりで、どことなく裕福そうに見える。日本に比べて高級店という位置付けなのか、それとも単にここがパリだからだろうか?
メニューを見れば料金は全体的に日本の約2倍ほど。おなじみの「白丸・赤丸」の名もそのまま継承されていて、写真を見る限り違いはなさそう……
……ムムッ!?
メニューの端に見慣れぬラーメンを発見……!
・茸香るベジ麺
『茸香るベジ麺』……その珍妙なネーミングは文法的な危うさを秘めつつも、思わず声に出して読み上げたくなる中毒性を持っている。あぁ……茸香るベジ麺……!
どうやらこの『茸香るベジ麺』と『鶏醤油』のふたつはパリ限定ラーメンであるらしい。『鶏醤油』もなかなかパンチの効いた名前だが、茸香るベジ麺のインパクトには及ばぬ。こうなったら “とんこつ比較” の予定は急遽変更するしかないようだ。
ヘイ! 茸香るベジ麺ワン、プリーズ!
すると日本と同様「麺の硬さは」と尋ねられた。メニューには日本語で「YAWA」「FUTSU」「KATA」「BARIKATA」との表記がある。茸香るベジ麺の場合 “バリカタ” は不可らしいので ”カタ” をオーダー。
一緒に頼んだラムネはうやうやしく受け皿に乗って登場だ。手に持って開けようとしたら店員に慌てて静止される。どうやら「これは急に吹きこぼれるから危ない」と言っているらしい。「開けてあげる」と言うので頼んだら店員自身もビビっており、思いがけぬ国際交流となった。
……とかやってるうちに『茸香るベジ麺』(14ユーロ / 約1664円)の登場だ!
茸かどうかは分からないが、ともかく全体から上品に香っているぞ!
茸香るベジ麺の全貌は、その名のとおりベジタブル=野菜のみで作られたラーメン。ラーメンに欠かせないチャーシューの代わりとしてエリンギや赤カブが使用されている。
さっそく食べてみると……
メチャクチャあっさり!
「これはラーメンとそば、どちらでしょうか?」と日本人にアンケートを取れば、けっこういい勝負になる気がするぞ。
・ウマイが……
他にもパプリカ、タマネギ、しめじ、トマト、ひよこ豆、ズッキーニっぽいものや菜っ葉など、トッピングされた様々な野菜はそれぞれ食感や硬さが異なっていて飽きない。企業が試行錯誤を重ねた光景が目に浮かぶようだ。
うん。キノコのエキスが効いたスープに太めの麺がよく合っていて非常においしい。しかも絶対にヘルシーだ。ヘルシーどころか体にもいいかもしれない。ラーメンの概念を覆す驚きのレシピだ。コレはスゴイことだ。スゴイことなんだ、が……!
「一風堂らしさ」が微塵もねぇんじゃ……!
むしろ「一風堂らしくなさ」ならいくらでも挙げることができそうである。ご存知のとおり一風堂の代名詞は “とんこつスープ” 。「茸の香りとベジ」とは真逆の立ち位置といってもいい。正直言ってこれほど一風堂のイメージから遠いラーメンも他にないのではないか。
・一風堂が好きになった
日本人なら誰でも知ってる一風堂のこと。『茸香るベジ麺』が日本のメニューであれば、「こういう変わりダネもいいよね」で済む話である。
だがここは遠い異国だ。一風堂どころかとんこつラーメンを食べたことがないという客も多いはず。そうなれば必然的に「一番自信があり、かつ実績のあるメニュー」を食べてほしいと思うのが人情だろう。ましてや「外国人はとんこつラーメンが好き」という歴然たる事実もあるのだ。
しかし……それでもあえて『茸香るベジ麺』を投入した一風堂の勇気に対し、私は感動と称賛の念を禁じ得ない。とんこつスープという最強の武器を封印していると、知らぬ客から「一風堂ってこんなもんか」と誤解されるリスクだって少なからずあるのだから。
ベジタリアンの客にもラーメンを食べてほしいという強い想い。欧米の地で新たな挑戦を続ける一風堂に、日本人として惜しみないエールを送りたいと思う。
ところで店内をキビキビと動き回るスタッフたちは全員外国人だが、呼ばれれば日本語で「ハーイ」と答えている。「オキャクサマデース」に続いて「ギョウザニニンマエオネガイシマース」などの難解な言葉も使いこなす徹底ぶりには目を見張るものがあった。
パリのとんこつスープを味わえなかったのは少し心残りだ。次にパリへ行く時こそは…………う〜ん、やっぱり『鶏醤油』も捨てがたいなぁ〜!
・今回ご紹介した店舗の詳細データ
店舗名 Ippudo Louvre
住所 74-76 Rue Jean-Jacques Rousseau, 75001 Paris, フランス
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼入り口に書かれた日本語にジーン
▼日本のお酒もたくさん取り揃えられている