“ポルトガルの日本料理店” という響きだけでも面白いのに、店名が『道』と書いて中国読みの『ダオ』だった日にはもう笑うしかない。しかし考えてみれば、この面白さを理解できるのは日本人だけなのだ。欧米の人にしてみれば “日本っぽさ” “中国っぽさ” の違いだって、もしかするとよく分からないのかもしれないな。
ポルトガルを旅行中、「ピザもパスタももう食えん!」という状態に陥ってしまった私。このあまりにも中華っぽい “ジャパニーズレストラン” に、思い切って入店してみることにした。看板には「寿司」「天婦羅」の文字もある。
ちなみに「テンプラ」はもともとポルトガル語で、安土桃山時代に日本へ伝わったとされているよ! 天ぷらの元祖ポルトガルで中国人の作った日本風の天ぷらを食べようとする日本人。非常に味わい深い状況だ。
・道(ダオ)
入店すると店員から当たり前のように中国語で話しかけられた。意外にも客は全員西洋人。しかし店内には日本風の絵やインテリアが飾られ、テレビから流れるのは中国のニュース番組だ。これほどシュールな光景もあまりない。
反対側の壁一面にデザインされているのは上海の夜景。コンセプトが知りたい。
渡された和食メニューにはパンダのイラストが印刷されちゃっている。
店のシステムはバイキングで、ランチタイムなら6.9ユーロ(約833円)ポッキリで食べ放題とのこと。気になる内容は……
寿司に刺身……
焼き鳥、餃子、春巻き……
天ぷら、トンカツ、デザートまで! 約30品目が食べ放題のうえ、別料金ではあるが日本酒や焼酎なども3ユーロ前後のお得な価格設定でオーダーできる模様だ。これでおいしかったら価格破壊だけど……?
・利益という概念、消失か
注文するより前にテーブルにはガリとワサビ、醤油が置かれた。醤油はヨーロッパのスーパーで購入できるが、卓上用の小ビンで5ユーロ前後する高級品である。これは嬉しい。
メニューを見て驚いたのは「刺身」をオーダーできること。刺身は寿司より原価が高いので、日本では回転寿司店だって提供するところが少ない。まして激安食べ放題店では、なかなかお目にかかれないはずだ。
運ばれてきたのはサーモン、マグロ、白身魚の立派な三種盛りである。白身魚はメニュー表によると「バターフィッシュ」とのこと(個人的には「スズキ」のような気がする)。盛り付けは雑然としているが、問題は味だ。果たして……
うまぁ……!
なんと日本で食べるのと全く変わらないクオリティの刺身。そこに “久々の和食” という感動がプラスされると、これはもはや人生で一番うまい刺身かもしれないレベルだ。
バイキングということは、満腹になるまで刺身のみをオーダーすることも理論上は可能ということになる。この価格でそれをやられたら日本でだって大赤字であろう。ましてここは刺身を食べる文化のない国だ。一体どういう計算で仕入れているのか心配になってくる。
続いてはかわいい「手まり寿司」の登場だ。若干シャリを強く握りすぎている感はあれど、よく酢がきいていておいしい。エビはポルトガルでも安くないはずだが、寿司のほかに「焼きエビ」というメニューもあり、もちろん食べ放題。大丈夫なんだろうか、利益は。
お次は「トンカツ」である。ここへきてまさかの名古屋風。ミソ味のソースが強烈な “和” を感じさせる。
衣は非常に薄く、しっかり肉の味がする。
結果として最後になってしまったのが、お待ちかねの「天ぷら」。1人前とは思えぬデカ盛りだ。
メニューの数倍立派なのが出てくるパターンも珍しい。
どこに売っているのか、三つ葉の大きなかき揚げはサクサク! お腹いっぱいである。
惜しむらくはタレがトンカツと同じミソ味だったこと。ミソ味が好きなのはポルトガル人か、それとも中国人のほうなのだろうか。
天ぷらを何とか食べ切り、みそ汁でフィニッシュだ。ネギや豆腐まで入って言うことなし!
・中国人マジリスペクト
どの国へ行ったって中国料理だけはそれなりにおいしく、かつ低価格で食することができる。それは単純に材料費と手間の問題かと思っていたのだが、中国人の手にかかれば日本料理だって同じように再現できるのだと証明されてしまった。
“メイドインチャイナ” が粗悪品だった時代はとうに過ぎている。海外で和食が食べたくなったら中国人がやっている店を探せ! とか言われるようになったら日本人として少し悲しい……がしかし、世界規模ではすでにそうなりかけていたりして?
ダオの和食は「ここまでやられちゃあ仕方ねぇ」と思えるだけのポテンシャルを秘めていた。日本人だって負けてはいられないけれど、海外旅行の際はぜひ1度 “中国人の和食” にトライしてみてほしい!
・今回ご紹介したお店の詳細データ
施設名 DAO
住所 R. Palma 245, 1100-391 Lisboa
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.