苦悩である。これほど難しい問題に直面したのは、令和が始まって以来初めてのこと。全くどうしたものか、とんと解決策が浮かばぬ。何の話か……全国の松屋で2019年11月5日から発売が開始された「チゲ牛カルビ焼肉膳」である。

チゲとカルビ焼肉が一緒に提供され、公式HPでは「QOLが上がる」などと書かれているこちらのメニュー。QOLがド底辺をぶっちぎる私としては、それが上がるとなれば食べてみるしかない。しかし、いざ提供されて得たものは果てしない苦悩。一体どうしたものだろう。

・チゲ牛カルビ焼肉膳

チゲ牛カルビ焼肉膳とは、その名の通りチゲとカルビ焼肉が、米と卵と共に、それぞれ個別の容器で提供される一品。定食ではなく、あくまで膳。食べ合わせ的なところは二の次の組み合わせであることが、その名称からうかがい知ることができる。

しかし、たとえ膳であってもそれなりに一緒に食べていい感じになるのが、それなりのお約束。例えばであるが、牛丼とうどんを膳として出すことはあれど、牛丼とカキ氷を膳として出すケースなどまずあるまい。

今回のチゲ牛カルビ焼肉膳は、名前だけみると実にそれっぽく、いい感じの組み合わせのように感じられた。確かにQOLが上がりそうだ。それに販売開始から1週間はご飯の大盛りも無料だという。こいつは最高じゃねぇか……という感じでなんとなく注文したのである。

・苦悩の始まり

程なくして提供されたチゲ牛カルビ焼肉膳。期待通りウマそうな見た目をしている。


とりあえずチゲを一口食べてみると、本格的なヒリつく辛さ。次にカルビ焼肉を一切れ。ウマい。安定したクオリティ。フフッ、ご飯は40円プラスして特盛りにしてやったし、存分にエンジョイしてやるぜ!

おっと、そういえば卵もあったな。生卵か半熟卵か選択可能だったこちら。半熟が好きなのでそちらを選んだのだが、チゲとカルビ焼肉に気をとられて忘れていた。とりあえずこいつをどうにかしよう。


目の前には白米、チゲ、そしてカルビ焼肉がある。白米に卵をブチ込むのもアリだろう。しかしカルビ焼肉と卵も捨てがたい。試したことは無いが、チゲに卵を入れてもいい感じにマイルドになってウマいかもしれない。

選択肢は豊富だが、悲しいかな半熟卵は一つしかない……箸を持つ手が止まった。


こいつをどうするのがベストなんだ?


・卵のジレンマ

こういうときはそれぞれのパターンを、結末まで想像してみるに限る。まずは米にブチ込むパターンからいこう。米に半熟卵をブチ込んだ場合、次の一手は決まっている。醤油をかけて、半熟卵かけご飯的にして食うしかないじゃないか。


だがその場合どうだろう。半熟卵かけご飯は、単体でかなりの強さを誇る。その上、チゲやカルビ焼肉にあわせる白米が無くなってしまう。結果的にこれは、チゲとカルビ焼肉の良さを殺す選択なのでは? 駄目だ、白米にブチ込むのはリスクが高い

ではカルビ焼肉はどうだ? 半熟卵に絡めてから、白米と共に食う。最高だろう。……いや待て、今回単体で最も味が強烈なのはチゲ。卵は良くも悪くも味をマイルドにする。カルビ焼肉をマイルドにしたら、ほぼ空気と化してしまうのではないか? こちらもリスクが高い


そうなると残るはチゲ。チゲに卵をブチ込んだことは無い。しかし、たまにチゲ風のスープのラーメンに卵が入っていたりするし、あれはあれでウマい。きっと似たような感じになる気がする。少なくとも悪いことにはなるまい。

よしチゲ、キミに決めたッ! と思ったけど、初めてのことなのでタイム。とりあえず少しだけ入れて様子見しますね。


少しだけ半熟卵をスプーンですくい、チゲに入れる。ふむ、まあマイルドになってるし、これはこれでアリ。チゲが辛すぎると感じるならこれが正解だろう。が、辛いのが好きな場合、卵を全部入れると辛さが消えてしまう。個人的には後者なので、これ以上卵を入れるのはやめておきたい

ああなんということだろう、卵の処遇は八方塞がりではないか。そうするうちに料理はどんどん冷めていく。


・新たな疑問、そして混迷する思考

まあ、食べながら決めるか。やはり寒くなってからのチゲはウマい。カルビ焼肉もいい感じだ。そして口直しに白米。それぞれが単体として活躍できる個性を有するため、食べるたびに味覚が上書きされる

チゲを頬張れば、チゲを食った感に染まり、カルビ焼肉ならカルビ焼肉を食った感に染まる。そうして食べ進めることしばし。いよいよ終わりが見えてきたその時、新たな疑問が思考を混迷させることに。

いざ食い終わった時、俺は何を食った感覚で終わりたいんだ……? 最後の一口がチゲだったら、チゲが全てを持っていく。カルビ焼肉であればカルビ焼肉。選ばれなかった方は忘却の彼方に消え去ってしまうだろう。

そもそもチゲ牛カルビ焼肉膳を頼んだのは、チゲとカルビ焼肉の両方を同じくらいに食いたかったから。どちらかだけに食べた感覚を支配されるのは本望ではない。マジかよ……どうやったって詰んでるんじゃないのか?

それに卵の問題もある。駄目だ、いい案が浮かばない。またしても箸を持つ手が止まった。こうして答えの出ないまま思考することしばし。ある考えが脳裏に浮かんだ。


いっそ全部混ぜたらいいかもしれない


ここで冒頭で述べたことに戻るのだ。たとえ定食ではなく膳といえど、一緒に食べてもそれなりにいい感じでまとまるようになってるハズだろ……と。しかし流石に他人の目がある店内で混ぜて食うのはハードルが高い。

よし、今は細かいことを気にせず全部食い尽くそう。そして持ち帰りで1セット購入し、全部混ぜて食ってみようではないか。卵を活用し、チゲとカルビ焼肉を平等に味わえるパーフェクトな状態が爆誕するに違いない。勝ったな!


・混迷から生じた混沌

ということで、持ち帰りで購入。さて、混ぜていこう。まず白米にカルビ焼肉を投入!


続いてチゲをドーン!


……あれ、これほぼチゲじゃねぇの? 一瞬真理が見えてしまった気がするが、もう後戻りは出来ない。最後に卵をブチ込んでフィニッシュ。チゲ牛カルビ焼肉膳ならぬ、チゲ牛カルビ焼肉丼の完成である。


食べる前にかき混ぜるわけだが、その状態についてはかなりお見苦しい状態なので細かい描写は避けたいところ。端的に表現するなら、THE 吐瀉(としゃ)物的なそういう感じ。

かなり混沌を極めた見た目となってしまったと言えよう。しかし見た目と味は、往々にして一致しないもの。食べてみると……あぁ、うん。まあウマいけど……カルビは完全に吹っ飛んでましたね。あとやっぱりチゲのピリ辛感が弱まりすぎて微妙っすわ。

結局チゲ牛カルビ焼肉膳をパーフェクトに味わうにはどう食べるのが正解なのか。正解を求めた挙句に苦悩が深まり、混沌を生み出してしまった。欲張らず、チゲとカルビを単体で食って満足しておくべきなのかもしれない。それでもせめて、卵の処遇だけは正解を出したいところ。なんと悩ましいメニューなことか。

参考リンク:松屋
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.