缶詰の主役と言えば魚である。脂の乗った身と骨の髄まで浸透するタレのハーモニーは庶民の贅沢。サバ缶やさんま缶は缶詰ならではのウマさがあると言える。だが先日、缶詰マニアにオススメを聞いたところ、いち推しされたのはサバでもさんまでもなく『江戸ッ子煮』だった。
聞きなれないこの缶詰。パッケージを見ると豆とか糸こんにゃくの煮物であるようだ。って、いくらなんでも地味すぎィィィイイイ! この缶詰の何がマニアを惹きつけるのか? その魅力を聞いてみたところ……
・缶詰の品揃え日本一の酒屋
話を伺ったのは鈴木酒販三ノ輪本店の店長仲川さんだ。「缶詰の品揃え日本一の酒屋」を豪語するこの店。常時100種類以上にも及ぶ品数は仲川さんの趣味によるものなのだとか。
仲川さんには、以前の記事でオススメのサバ缶やさんま缶を紹介してもらったが、いち推しは『江戸ッ子煮(税込378円)』なのだという。でも、この缶詰ってなんていうか具にメインキャラがいなくないですか?
仲川さん「確かに。一応牛肉はちょっと入ってますが、メインと呼べるサイズではないですね」
──では、どういったところが良いんでしょうか?
仲川さん「お母さんが作り置きの煮物に間違ってカレー入れちゃった的なところですかね」
──間違ってもうてるやん。
仲川さん「そういう甘く切ない味がするんですよね」
──とのこと。ちょっと仲川さんが何を言ってるか分からなかったため、購入して実際に食べてみることにした。
・解せない
缶詰のサイズはキョクヨーのサバ味噌煮くらい大きく、内容総量も160グラムとたっぷり。改めて缶詰の中身を確認していくと、前述の豆、糸こんにゃく、ちょっとした牛肉以外に、昆布巻き、タケノコなども入っている。具だくさんだ。
ところで、先ほどから私にはどうにも解せないことがあるのだが……
カレー入ってなくね?
・食べてみよう
つゆは濃い目の色をしているが、カレーっぽいトロみや濁りは感じられない。カレーというのは仲川さんの比喩だったのだろうか? この缶詰の味についての唯一の情報がたった今消失した。というわけで、完全に未知なる世界へ足を踏み入れたいと思う。パクリ。
まず、口に広がったのはコクの深い甘辛味。コトコト煮詰めたようなその味は非常に優しい口当たりだ。しかし、甘く優しいだけではないこの胸の奥を揺さぶるような感覚は一体なんだ? 泥んこになった帰り道、家にたどり着いた時のようなこの安心感は……?
あっ……
お母さんのカレーだ……
そう、見た目には全くカレー感はなく味も甘辛いのだが、ふんわりとカレーの風味が漂っているのである。その懐かしい味に心の中のお母さんが叫ぶ。「ご飯やでー!」と。
製造者であるアール・シー・フードパックのサイトを確認すると、原材料に記載されている「香辛料」がカレー粉のようだ。
・感動巨編
淡い記憶が呼び起こされるこの缶詰。その味は、温かいあの頃の記憶をたどる旅のようである。言うならば、記憶の中の母に会いに行く壮大なロードムービー。もはや、世界名作劇場なみの感動巨編だ。
缶詰はただの保存食ではない。そこにはそれぞれの物語が詰まっている。今回もそんな物語を知ることができた。378円は非常に安いと言えるだろう。
なお、今回お話を伺った鈴木酒販三ノ輪本店には角打ちもある。もちろん、江戸ッ子煮も売っているので、とりあえず1個食べてみたいという人は酒の肴につまんでみるのも良いかもしれないぞ。
・今回紹介した店舗の情報
店名 鈴木酒販三ノ輪本店
住所 東京都台東区根岸5-25-2
営業時間 11:00~21:00
定休日 水曜日
参考リンク:アール・シー・フードパック
Report:缶詰評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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