大分県の別府温泉といえば、名だたる温泉がひしめく九州でも常にランキング上位の有名温泉地。「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」という言葉があるように、源泉数・湧出量ともに日本一を誇る。

そんな別府温泉の玄関口・別府駅から歩いて行ける一角に、一風変わった骨董品店があるという。

駅前の大通りを南下し、繁華街をひたすら直進すると、周りの景色は徐々にさびれ、年季の入った旅館や昔ながらの理容店などが点在する、落ち着いた住宅街に迷い込む。と、そんな情緒あふれる町並みに突如として現れた、異様な古民家!

・天狗、おかめ、埴輪、ピエロ

そもそも別府は古民家だらけの町なんだけど、とりわけ年季の入ったその家は、屋根だの壁だの、至るところに不気味な仮面を吊るしまくり、まるで、どこぞの部族の酋長でも住んでそうなたたずまい。ご近所さんとのギャップに、初めて来た人はみな一様にギョッとさせられる。

壁にかかっているのは、観音様、天狗、おかめ、埴輪、そしてピエロ、それら、謎でしかないセレクトの不気味な仮面たちが通行人を見下ろす前衛的な装飾。棚にはツボや花瓶、ミニカーなどが散乱し、辺りは混沌としている。

「古銭・ガラクタ・古物、亀山美術」という看板が示す通り、ここは骨董品店なのだが、商品には値札がなく価格は不明。でもって店頭には普段だれもいないので、値段が知りたければ棚についている呼び鈴を押し、その都度、店主を呼ばなきゃならないという、ちょっぴり敷居の高いシステムなのだ。

と、ごみごみした雑貨の棚に西郷隆盛と平和祈念像の小さな金属製フィギュアを発見。これは買うしか無い! と呼び鈴のボタンを押そうか押すまいか迷っていたところ、脇の玄関からどこかへ出かけようとする杖をついたお爺さんとバッタリ。

「あっ! 店主の方ですか? これ欲しいんですけど!」

そんな私の問いに、えっ? あ? なに? っと3度も聞き返した店主のお爺さんは、なんと御年92歳! そりゃ、耳も遠くなるわ……。

かつてはここ、旅館だったそうだが(言われてみれば仮面の群れの真ん中に、当時の屋号が刻まれている)、いつからか古道具の売買で生計を立てるようになり、うん十年が経過……。ところが年々、骨董を愛する客は減り、身体も弱り、なぜか前衛的な陳列ばかりがクローズアップされるようになって、肝心のビジネスは開店休業状態。

参考までに、私が見初めたフィギュアの値段は「さんびゃくえん」。ひとつ三百円? それともふたつで三百円? とりあえず千円渡して様子を見ると、お爺さんは今さっき出てきたばかりの家の中にズルッ、ズルッと引き返すや、そのまま10分ばかり、お釣りを探す旅に出てしまった。

結局、私は700円の釣りをもらった。ふたつで300円。安いというか、90代の老人を何度も行ったり来たりさせてごめんなさい……。

商品を受け取り、一礼して背を向けると、後ろから「またおねがいしまーす」と声をかけられた。またいつか会えるように、お爺さんもお元気で。

さてこちら、お店ではあるものの、限りなく民家に近いという点を考慮して、今回あえて住所は記さない。しかし、そんなに広くもない別府の中心部にあるので、その気になって散歩すればカンタンに見つけられると思う。興味のある方は、掘り出し物を探しに行ってみてね!

Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.

▼静かな住宅街に現れた異様な家

▼通りに面して所狭しと商品がならぶ

▼建物の裏側も、むろん余念がない

▼隠れるようにして、看板があった

▼旅館時代の屋号も、さりげなく発見

▼欲しいものがあれば、こちらのベルで!

▼92歳の店主はおだやかな良い人でした。