本日2019年6月21日は日中両国にとって記念すべき日となる。言わずと知れたスタジオジブリの大大大ヒット作『千と千尋の神隠し』が中国全土で初上映されるのだ。ちなみに中国のタイトル表記は『千与千寻』。「神隠し」がどこ行っちゃったのか気になるところである。
公開にあたって宮崎駿監督が中国ファンに向けて書いたメッセージとイラストがお披露目されるや、中国版ツイッター『微博』には6000近くのコメントが寄せられた。中国版ポスターが「美しい」と話題になるなど、注目の高さがうかがえる。
私は幸運にも、この歴史的瞬間を中国の地でむかえることになった。こうなったら朝一番のチケットを予約するほかないではないか。今日は熱気に沸く現地の様子を余すことなく、日本の皆さんにお伝えしたいと思う!
・そもそも……
本作が日本で公開されたのは18年前のこと。中国では外国映画の上映が制限されてきた背景があり、ジブリ作品の公開は昨年の『となりのトトロ』に続いて2作品目だ。そもそも中国の人たちはジブリ作品を知っているのだろうか?
中国人の友人に聞いてみると、正直なところ海賊版が出回っているので「日本人と同じくらいジブリ作品を見て育った」のだそうだ。何度も見ているのに今さら映画館に行くのか? と尋ねると「正式に見たいに決まっている」と怒られてしまった。
なるほど映画の口コミサイトを見ると、公開前にもかかわらず超高評価だ。「嬉しい」「この日を待っていた」などのコメントが並んでいるのを見ると、日本人として嬉しい気持ちになる。
なお、中国の映画館はチケットをアプリで購入するのが基本で、時間帯や映画館によって料金が異なる。窓口で買うとかなり割高になってしまうが、外国人観光客がネット決済を行うのは難しいのが現状だ。ただし場所や時間を調べることは可能なので、アプリを有効に活用したいところ。
・行列はどこですか
さて、9時35分の上映に向けて、映画館が入るショッピングモールに1時間前に到着した。開場を待つ長蛇の列の中には「カオナシ」のお面をかぶった熱心なファンの姿も見られ……
……ない。なんなら建物自体が閉まっているじゃあないか。不慣れな中国語で「入り口はどこアルか」ときけば「1時間後に来い」とそっけない返答。不安な気持ちで上映15分前に戻ると、鍵を開けて開店前のデパートにひとり放り込まれた。日本ではあまりないシステムだ。
くらーいデパートをトボトボ歩き……
引き返そうかと思い始めたころ……
ようやく人を発見!
よかった! 行列はまだ見当たらないものの、ここで合ってるようだ。ドキドキしながら扉を開けると……
客、すくねぇぇぇぇ!
・そりゃ急ぐ必要ないよね
あとから中国人の友人に聞いたところ「だってもう見たことあるんだから急ぐ必要ないじゃん」との返答。全くもってその通りである。だって平日の朝だもの。そりゃそうだ。そりゃそうだけど……初公開だから何かあるのかも? って思っちゃってた……。
「でも必ず期間中に見に行くとみんな言ってるよ」とも付け加えてくれた友人。新しいもの好きの日本人は何かあるたび徹夜で行列したり、コスプレで集結したりしがちだけれど、中国人はあまりそういうことはしないそうである。
ただし上映中はこの少人数にもかかわらず、大きな笑い声やときに拍手も起きるなど、中国の皆さんは全身で作品を楽しんでおられる様子である。きっと彼らは、この国のスタイルで18年越しの公開を祝っているに違いない。
・こんなに素晴らしい作品だったっけ
映画が始まって驚いたのは「吹き替えじゃない」ということ。私の認識不足かもしれないが、アニメ作品は吹き替えが当たり前と思っていたのだ。有名タレントが声優に起用されたというニュースも耳にしていたので余計である。これまた中国人の友人にきいてみたところ……。
「中国人は吹き替えを好まない。オリジナルの雰囲気を感じたい」のだそうだ。「中国人の声優は下手くそで聞いていられないし」というのはあくまで友人の個人的意見であるが……。今度ディズニー映画を字幕で見てみることにしよう。
私は『千と千尋』をのべ10回は見ているはずだが、「こういう展開だったっけ」と感じる箇所がいくつもあった。やはりテレビで見るのとスクリーンとでは別モノなのだ。この映画が最高だということを知っていたはずなのに、今日知ったような気もする。
誰もが仕事を持たなければいけないこと。世話になった相手にはお礼を言うこと。去り際にはお辞儀をすること。作品を見た外国の人たちは、千尋たちのあり方を日本人の姿と受け止めてくれているのかもしれない。ならば自分もそれに外れない生き方をしなければと思う。
・パンフ、グッズ、ポスター……なにもない
今回の公開にあたって「中国版のポスターが美しすぎる」と日本でも大きく話題になっていた。そのためポスターをじっくり見ることも目的のひとつだったわけだが……映画館内どころかデパート内のどこを探しても見つからなかった。逆にどこに貼られているのかが気になる。
おまけにパンフレットもグッズも一切売っていない。複数の中国人に聞いたところ、そもそもそういう文化がないらしいのだ。少し物足りない気持ちになるが……まぁ映画が面白かったのだからオールOKということにしよう。
……と、思ったらデパート内にあった日本でもおなじみのジブリショップ『どんぐり共和国』で千と千尋キャンペーンが開催中! チケット半券を見せれば記念のバッヂがもらえた。
中国では今後も順次ジブリ作品の公開が予想されている。あの作品をもう1度スクリーンで見られるチャンスだ。好きな人は思い切って渡航を検討してはどうだろう。ちなみに私は『耳をすませば』が見られるならブラジルへでも行くつもりである。
以上、現場からお伝えしました!
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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