汚れってどこから来るのかな? 掃除しても、気づけば、床が見えないほど部屋が汚れている私(中澤)。6年ほど住んでいた以前の部屋は、インド好きから「インドの安宿より汚い」と評されるほど。
そんな汚部屋マスターである私が、外国人留学生の間で「汚部屋」と有名な部屋を訪問してみた! 日本 vs 世界!! はたして世界のレベルはいかほどか? ……という突撃レポート企画をお届けするつもりだったのだが、これが意外すぎる結末を迎えたためお伝えしたい。
・ギニア人留学生のタリべ君の部屋
協力してくれたのは日本語学校『ホツマインターナショナルスクール』。そこに通う外国人留学生の中でも、「汚部屋」と有名な部屋を突撃取材した。パキスタン人留学生とギニア人留学生のシェアルームであるこの部屋。チャイムを鳴らすと顔を出したのはギニア人留学生のタリベ君だ。
日本のアパートには窮屈に見えるほど大きな体でドアの奥へと迎えてくれる。部屋の間取りは2DKでユニットバスのようだ。玄関に一歩踏み出すと、ダイニングがほんの少しだけ見える。
・迷宮に踏み入る取材班
その見通しの悪さはまるで迷宮に踏み入っているようだ。しかし、床にものが散らばっていたりということはない。埃はちょっとあるかな。
ガチで足の踏み場もないほど床にゴミが散らばっている部屋に6年間住んでいた私としては、スライムも良いところである。余裕で住めるなココ。そう思いながら、バスルームを開けると……
カビ。風呂釜には黒カビの斑点が広がっており、なぜか半分に切られたコーラのペットボトルが転がっていた。廃墟かよ!
話を聞くと、このカビは住む前からのものであり、ちゃんと毎日風呂掃除をしているという。とりあえず、タリべ君にカビキラーの存在を教えておいた。なお、コーラのペットボトルは風呂桶替わりに使っているとのこと。
とは言え、私の以前の部屋の風呂釜は白い部分の方が少ないほどカビが生えていたのでまだまだ余裕で住める。なんだ、そんなに汚部屋じゃないじゃん。次行ってみよう。
・キッチン
続いてはキッチン。アフリカでスタンダードの赤い油「ABEPA」や、鋼鉄の臼(うす)、アラビア文字の書かれた歯磨き粉などが置かれており多国籍感満載である。奥に行けば行くほどに外国の気配は濃くなる一方だ。留学生の部屋ってちょっとしたアドベンチャーやな。
キッチンは、水垢などがこびりついてはいるものの油汚れは少なく料理ができないほどではない……と思いきや!
電灯の上でめっちゃゴキブリ死んでる!! 小さいのが3匹くらいクタッてなってるゥゥゥウウウ! 汚部屋マスターを豪語する私も、さすがにゴキブリはキツイ。できることなら生きているうちには会いたくないくらいだ。そこで、ゴキブリが死んでることを指摘したところ……
「それはですねえ……これですね」
──と、上の棚から袋を取り出すタリべ君。ちょちょちょ! 何取り出そうとしてんの? 超怖い! ねえ、今超怖い!! スーパーの袋から出てきたのは……
カッチカチの謎の魚の干物! アフリカではこれでスープの出汁を取るのだとか。ちなみにタリべ君も何の魚かは知らないという。ほほう……って、ゴキブリの話どこ行った!?
どうやら、ゴキブリがいるのが当たり前すぎて、その話をしているとは思わなかったらしい。アフリカの広大さを感じた。
・最奥の部屋
汚部屋感が増してきた中、ついにダンジョンの最奥にたどり着く我々取材班。この扉の先には一体何が待ち受けているのか? 気分はもはや探検隊である。日本の、しかも都内のアパートの1室でこんな気持ちを味わうことになろうとは。そして開かれる扉。そこで我々が見たものとは……! 次ページに続く。
取材協力:ホツマインターナショナルスクール
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
・「汚部屋」と有名な外国人留学生の部屋にあった『世界で1番美しいもの』(その2)
ついに開かれた最奥への扉……その先で我々取材班が見た光景とは……
普通っ……! 圧倒的普通っ……!! 4畳半くらいの畳の部屋に2段ベッドがある普通に片付いた部屋だった! 服もちゃんと壁に掛けてある。
押し入れは多少ゴチャっとはしているものの、この程度で汚部屋認定されることに衝撃を受けた私。そこで、私のかつての部屋の画像を見せてみた。この部屋、住める?
「あ~OKOK……HAHAHA……」
──誤魔化された! 汚いかどうか聞いたところ、「いっぱいのものはある……」と口ごもるタリべ君。気を使わせてしまったぁーーーーーー!!
・ラスボスの気配
予想以上に圧勝だったギニア人留学生との勝負。だが、このダンジョンにはラスボスがいる。そう、隣のパキスタン人の部屋だ。実はさっきから、めっちゃ話し声が聞こえている。どうやら、部屋の中には複数人いるようだ。たのもー!
部屋には、背が高いオールバックの色白男子と、骨太っぽい浅黒男子、2人のパキスタン人留学生が。両端には2段ベッドがあり、真ん中のスペースは人2人が横に並べるくらい。というか、実際横に並んで出迎えてくれた。色白長身の留学生はアハマド君、浅黒男子をヤストゥール君である。
2人なのに、2段ベッドが2つあるのは、空いているベッドを物置として使うためのようだ。入り口から向かって左側のベッドの1段目にはスーツケースやタオルなどが無造作に置かれている。
・分かる
さらに、ベッド下には紙袋や箱などがこれまた無造作に散らかっていた。なお、掃除は今したとこだという。分かる……分かるぞ! 男所帯ってこうなるよな!! 国籍を越えた共感がそこにはあった。可愛い奴らめ。
と、その中に埋もれていたビニール袋の1つを手に取るアハマド君。え? それ何? 袋の中をまさぐって……
アーモンドを取り出した! 食べ物やったんかーーーーーい!! そして、取り出したアーモンドを私の手に乗せる。ありがとう……!!
・食べてみる
食べてみたところ、パキスタンのアーモンドは塩気がなく、固めで素材を楽しむ感じ。
アハマド君いわく、アーモンドはパキスタンにおいて伝統のお菓子で、コーラと一緒によく食べたりするのだとか。へ~! 合いそうやね!!
なんでも、宗教上の理由からアルコールが飲めないため、コーラをよく飲むのだとか。なるほど。確かに風呂場のペットボトルもコーラだった。
──ここまでヤストゥール君ひと言も話さず! そう、ヤストゥール君はシャイなのである。私が部屋に入ってきた時からずっと真顔だ。
・予想外の提案
だが、アーモンドを一緒に食べたおかげか、部屋に来た時よりも若干雰囲気が柔らかくなった気もする。怖くない怖くない……ほら。怖くない。
と、その時、予想外の提案が。
「俺たちこれから昼飯食べるけど、一緒に食べない?」
──要約するとそういうことを言われた。パキスタン料理専門店に何度か行ったことがある程度の私のイメージは、「パキスタン料理=ナンとサラサラカレー」だが、日本に来ている留学生たちは一体どんなものを食べているのか。非常に興味深い。ゴチになります!
そう答えると、「ついてこい」とばかりに部屋を出ていくアハマド君とヤストゥール君。なになに? どこ行くん? 訳も分からずついて行った先で、私は衝撃の光景に出会うことになる。そこにあった「世界で1番美しいもの」は次ページで!
取材協力:ホツマインターナショナルスクール
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
・「汚部屋」と有名な外国人留学生の部屋にあった『世界で1番美しいもの』(その3)
2人の後を追ってたどり着いたのは同じアパートの別の部屋だった。チャイムを押すとまた別のパキスタン人留学生が登場。ニコニコした人懐っこい笑顔。タルハ君っていうんだって。
そのスマイルに導かれて部屋に入ると、早くもキッチンではアハマド君が料理していた。
作っているのはナンっぽい。しかし、アハマド君に聞くと「チャパティ」との答えが返ってきた。私の知っているチャパティはもっと薄くパリパリでセンベエのような感じなのだが、彼らの作るチャパティはふわっとしている。
・ガスコンロの意外な使い方
作り方を見てみると、まず、水を混ぜた小麦粉を団子にし、ローラーでクレープのように薄く伸ばした後、フライパンで焼く。そして、少し焼き色がついたところで、コンロの火で直接あぶる感じだ。
・急展開
あぶると膨らんでくるチャパティ。アハマド君が焼き、タルハ君は完成したチャパティを皿に手際よく移していく。朝はこれを作って食べ、夜はカレーとライスを食べるのだという。コンビニとかで出来合いのものを買うことはないらしい。お料理男子やなあ。と、その時! 突然ドアが開いた!!
入って来たのは、これまた初対面のパキスタン人留学生! と同時に奥の部屋からも1人出てきたァァァアアア!! 狭いダイニングに気づけば4人のパキスタン人がひしめき合う状況に。
奥にいたのはラザ君、新加入の方はゼビ君。低い声でゆったり話すラザ君はどことなく『クレヨンしんちゃん』のボーちゃんみたいだ。なんか癒されるわあ……と、その時、再び開く扉!
また新キャラキターーーーーーーー!!
「しゃちょー!」とアハマド君。どうやらアハマド君の叔父さんのようだ。確かに、留学生たちより結構年上っぽい……? って、めっちゃ笑顔やな!
なお、なぜ彼が「しゃちょー」と呼ばれているのかは謎だ。本名はアザールとのことだが、みんな「しゃちょー」と呼んでいるため、私も「しゃちょー」と呼ぶことにする。それはさて置き……
人口密度ヤヴァくない? どちらかと言うと人見知りでパーソナルスペース広めな私。だが、今はそのスペースがパキスタン人で埋まっている。
でも、なぜだろう? 嫌な感じは全くしない。むしろ、なんだか楽しい。今日が特別な日になったみたいだ。食事のために、ひと部屋にこんなに人が集まったのって小学校低学年の頃の誕生日会以来かもしれない。遠い記憶の優しい世界……あれ? 目から水が……。
そんな私に出来立てほやほやのチャパティをくれるアハマド君。アハマド、マジイケメン。皿に盛られた野菜入りのマッシュポテトにつける食べ方を教えてくれた。スパイスが目に沁みやがる。
・ファミリー感
そこにヤストゥール君が帰ってきてメンバーが全員集合。部屋に敷物を敷いて、その上に料理を置き、周りに車座に座る。匂い立つファミリー感。
チャパティは基本的には、前述のマッシュポテトか、レモンやマンゴーの漬けもの「アチャール」で食べているようだ。このアチャールがまた酸っぱい味でチャパティによく合う。
しかしながら、アチャールの汁はサラサラすぎて、固めのチャパティにつけるのが意外と難しい。私の慣れない手つきを見てか、ラザ君がアチャールをつけたチャパティを手渡してくれた。良いヤツすぎか! ウマイよ!!
・友達
イケメンなアハマドと、シャイなヤストゥール、ひょうきんなタルハ、優しいラザに空気を読むゼビ、そしてみんなのおじさん・しゃちょー。肩を寄せ合って食べる昼食。手が届かないものは声をかけて取ってもらう。1人では味わえない味がそこにはあった。これが……と・も・だ・ち……!
・夢
しかし、それにしてもこの人数には狭すぎる東京のアパートの一室。みんななぜ日本にやって来ようと思ったのだろうか? 将来の夢を聞いてみた。
アハマド「車のエンジニアになりたい」
タルハ「車のエンジニアになりたい」
ラザ「車のエンジニア」
ザビ「車」
ヤストゥール「クルマ」
──自動車の専門学校かよ! そう言えば、ギニア人留学生のタリべ君も将来の夢を以下のように語っていたっけ。
タリべ「本当はサッカー選手になりたかったけど、もう26歳だし、今の夢は車のナンバープレートの会社をギニアで立ち上げて日本と取引をすること。日本に来る前に働いてたのがそういう会社だったんだけど、潰れちゃったから自分でやろうと思った」
──そう、ギニア人留学生の夢もまた車だったのだ。車の何がそこまでみんなを駆り立てるのか? この質問にはタルハが答えてくれた。
タルハ「日本の車は……夢ですから」
──日本の車SUGEEEEEEEEE! と同時に、そんな夢のために20代前半で海を渡って日本にいるみんなの勇気と決断は尊敬に値すると思った。みんなスゲーよ。本当に。
汚部屋を訪問するつもりだった本企画。
しかし、そこにあったのはゴミなどではなく……
キラめくような夢と希望と……
真っすぐな眼差し。
そんな彼らの眼差しを私は世界で1番美しいと思った。
我々は決して忘れない。
みんなで食べたあの味を……
我々を家族のように迎えてくれたあの温かさを……
そして何よりもまぶしい彼らの笑顔を。
──私もまた彼らのように笑うことができるだろうか? どこかに置き忘れてしまった真っすぐな眼差しを取り戻すことはできるだろうか? 小さくなる背中に問いかけても、その声は電車の音にかき消された。
平成最後の夏、大切なことを思い出させてくれてありがとう。日本に来てくれてありがとう。彼らの夢に幸あれ!
取材協力:ホツマインターナショナルスクール
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
シリーズ「外国人留学生が行く」