
正直いって、コンビニの店員さんで、「この人は」と思う人を、私(佐藤)はいままで1人しか知らない。過去の記事で紹介した、Tさんだ。彼女は、客の得になるような接客を心掛けており、ほかのコンビニに行く気がなくなるほど、気持ちよく接してくれた。彼女に敬意を表し、私とGO羽鳥の間では、「Tさん伝説」として語り継がれている。
最近になって、Tさんに匹敵する、いやもしかしたらそれ以上の接客をしてくれるコンビニ店員に出会った。ローソン千駄ヶ谷1丁目店のパウデルさんだ。彼とは、不思議なくらい自然に仲良くなり、お店に行く度に挨拶や世間話をするようになった。どうして仲良くなったのか、自分でもわからないくらいに、自然に接している自分がいる。
きっと彼の接客には、秘密があるに違いない。ということでインタビューしてみると、外国人スタッフならではの問題が見えてきた。
・気づけば馴染みの店になっていた
私は毎週火曜日の23時以降に、この店に行く。というのも、火曜日の21時半からポールダンスのレッスンがあるからだ。その帰りに、このコンビニに立ち寄り、プロテインを購入して帰る決まりになっている。
パウデルさんは深夜の勤務で、週6日、このお店にいる。何回か通う間に彼は私のことを覚え、挨拶をしてくれるようになった。私がいつもお店に入ると、その瞬間に「こんばんは」と声を掛けてくれて、何だか馴染みの店に来ている安心感を覚えるのである。
・パウデルさんにインタビュー
そんな彼に、ローソンの広報を通じてインタビューをお願いし、ある日の勤務明けにお話を聞くことができた。日本に足掛け6年滞在する彼は、日本語で日常会話をすることができる。しかし複雑な表現を話すことには、まだ慣れていないので、以下の内容は彼の発言の要約である。
ネパール出身、インタビューをした日にちょうど30歳の誕生日を迎えたパウデルさんは、ネパールの大学を卒業後に国の仕事に従事していた。元々独立心が強かった彼は、指示通りに業務を行うことが苦手で、常に自分なりに仕事を改善していくことを望んでいた。
パウデル「上司の言うことだけを聞いて、『これやれ』とか『あれやれ』とか言われるだけのことをやるのがイヤだったんです。でも、そういう働き方が、ネパールの働き方でもある。自分で考えることを、みんなあまりしない」
後に日本にやって来て、彼は自ら考えて仕事をすることに喜びを感じる。特にコンビニの接客においては、自分で考えて仕事をすることが成果にもつながりやすかった。それと同時に、自発的に考えないと、思わぬトラブルに巻き込まれることにも気づいてしまった。そのトラブルとは……。
パウデル「外国人スタッフだと、よくあることだと思う。仕事上で何か問題があったときに、外国人のスタッフのせいだと思われる。お客さんにうまく言葉が通じなくて、トラブルになる。ちゃんとやってても、すぐに外国人スタッフに問題があると思われてしまうことがあると思う」
たしかに私自身も、そんな風に考える節があることを否めない。言葉が拙いと「この人、大丈夫かな?」と思うことがよくある。さらに彼らにとって困るのは、その場で問題を指摘してもらえない場合だ。本社にクレームが行き、後に注意を受けても、何が問題だったのか理解できない場合がある。そこで彼は考えた。
パウデル「お客さんと仲良くなれば、言葉が拙くても、気持ちは伝わる。わかってもらえるんです。それから仲良くなると、トラブルがなくなる」
たしかに、親しみは不審感を払拭し、問題を未然に防ぐのに役立つだろう。お客さんと仲良くなるために、彼は普段から努力を怠らない。
パウデル「いつ、どのお客さんが、何を、どんな風に買うか、覚えるようにしています。『このお客さんは袋はいらない』とか『支払いはいつもSuicaで』とか。100人くらいのお客さんの買い方を全部覚えてます」
実際私が23時半頃に、プロテインを買い、袋もレシートも不要であることを彼は知っている。少なくともこの3カ月、そのルールを彼は何も言わずに守り続けている。それが安心感として伝わっているので、私は快くお店を利用することができるのだ。
私などはまだ序の口で、他のお客さんとは、さらに深いコミュニケーションをとっている。あるお客さんとは、週に1度必ず電話で話すというし、他のお客さんとは、時々食事に出かけるという。コンビニの店員なのにだ。
・自分のために
お客さんとコミュニケーションをとる重要性を、彼は仕事のなかで学んだ。そして、何より日本人の働き方や生活の仕方から、学んだと考えている。
パウデル「日本人は、『自分で自分のために』何かをやらないという意識が高いと思います。自立することを、世の中に強く促されているように思います。他の国の場合『家族のために』という意識がある。日本人はみんな『自分のために』勉強するし、『自分のために』仕事をするし。自分で考えて仕事をするというのは、とてもいいことだと思う。ネパールでもそういう考え方を広げたい」
彼はビザの続く限り、今のお店で働きたいそうだ。そして将来的には、ネパールの行政の仕事に従事し、日本で学んだことをネパールに持ち帰り、ネパール人の働き方の改革をしたいと望んでいる。パウデルさんは毎日の仕事の中で、将来に通じる行動を実践している。こういう人こそ、“意識が高い” というのではないだろうか。
佐藤英典





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