ソパ! もう覚えただろ。マー語で「こんにちは」の意味な。オレの名はルカ。マサイ族の戦士、ルカだ。vsライオン1勝のルカだ。何度も言うが、オレタチはウォリアー(戦士)だ。マサイの戦士、マサイ・ウォリアーだ。宿敵は野生のライオンな。
突然だけど、つい先日、とても悲しい事件が起きた。オレの弟(戦士)が逮捕された。なんと罪状は「ライオン殺し」だ。今回のレポートは、かなり深い話だから覚悟しろ。お前らのご先祖であるサムライが過去に通ってきた道に……似ているかもな。
・ついカッとなってライオンと決闘
2016年2月16日のこと。オレはこの日を忘れない。オレの弟が、ついカッとなってライオンと決闘しちまった末、勝っちまった。さすがはオレの弟だ。それでこそ戦士。
で、なんでカッとなっちまったのかというと、弟が愛情込めて育てていた家畜の牛を、野生のライオンがムッシャムシャと食っていたからだ。「てめえ、オレっちの牛ちゃんを……なめんな!」となったんだろう。ともかく、ヤブの中で決闘したらしい。
そして、勝った。ライオンに勝つということは、ハッキリ言えば「殺めた」ということだ。弱肉強食。オレタチが死ぬことだってある。今まで、そうやって生きてきた。それがマサイの歴史だった。ところがだ。……なんと……ななななな、なんと!
去年からなんだけどな、オレタチはライオンと戦えなくなっちゃったのだ。ケニア政府が「ライオン殺しちゃダメよルール」を作っちまったのだ。法律っていうの? よくわかんねーけど、とにかくオレタチはライオンと戦えないんだ。戦士なのにな。
当然、ルールを破ったら逮捕される。言っちゃ悪いが、カネ目当ての警察にな。
んでもって、なんと運悪く……オレの弟(戦士)の決闘を見届けていた警察が、「フフフ、見てたぞ。殺っちまったな……」とばかりにヤブの中からガサッと現れ、そのままオレの弟を留置所に連行しちまったんだ! 張られていたんだよ!! ヤブの中から!
ちなみに警察が提示してきた保釈金は3万ケニア・シリング。日本円にすると3万3398円ってところだ。たけえ! たけえよ!! そんな金、オレ、ねえよ……。で、こんなときに頼るのは、やっぱり日本のゴー(羽鳥)だ。すぐさま相談した。そしたら──
羽鳥「マジか! 高えな! それにしても警察、鬼だな(笑) 3万ケニア・シリング、持ってるのか? ないのか? そうか。んで、どうするんだ?」
──ときた。とりあえず、この時点で助ける気は一切ないと見たんだけど、もしかしたら……ってのもあって、オレのプランを説明した。オレの飼ってるヤギを売れば、1万4000シリングになる。でも、残り1万6000シリングのアテはない……と。すると!
羽鳥「そうか! つーか俺も今月ビンボーだから、スマンけど助けることはできねえんだが、ルカ、もう1匹ヤギ持ってないのか? 持ってたら、それを売れ。今月はマサイ通信たくさん公開しているから、1万6000シリングなんて余裕だぞ!
原稿料が振り込まれるのは来月のはじめだ。そしたらヤギを買い直せ。これで完璧だ。でもって、それをネタにレポートを送ってこい。おれがまとめてやる。それも、結局は金になる。たのむぞ。そんじゃ、健闘を祈る、マイ・ブラザー」
──鬼だよな。ほっんと、鬼だよな。カネ目当てのケニア警察も鬼だけど、ゴーもゴーで鬼すぎるよな。あまりにも鬼すぎて、さすがのオレでも「OK you too(おまえもガンバレよ……)」としか返事できなかったぜ。
でもまあ、ゴーの話も悪くない。オレは戦士であり、ロケットニュース24のライターだ。やってやる。弟を助けるために、やってやる。どうせ、この話もウソだと思ってんだろ? 次ページ(その2)で、ケニアのブタ箱(留置所)写真を見せてやらぁ!!
Report:ルカ(マサイ族)
意訳:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
【マサイ通信】第7回:オレの弟(戦士)がライオン殺しの罪で悪徳警官に逮捕されてブタ箱に送り込まれたけど金を払って救出した(その2)
やばくね? おそらくこれ、本邦初どころか世界初だろ? これが、「マサイ族が連行される留置所」だよ。場所はタンザニア国境に近いロイトット(Loitokitok)な。キリマンジャロは目の前だ。それはさておき、中はどんな感じなのかっつーと……
すごくね? これが日本が誇るロケットニュース24のマサイジャーナリズムよ。ちなみに、「なんでライオンと戦っただけで……」と落ち込んでいる白シャツの赤パンがオレの弟な。赤いズボンは囚人服っていうか留置所の制服。で、もう1枚撮ってみたら……
笑っちゃってるよ!(笑) 何をしでかしたんだか知らねーけど、青シャツの彼は前向きだよ! でも、オレの弟は落ち込んだまま。かわいそうにな。
ちなみに、この写真を見せたらゴーがマジで「弟逮捕は、俺から金を引き出すためのウソじゃなかったのか!」とばかりにビックリしたのか、こんなことを聞いてきた。
羽鳥「でかした! こりゃいい記事になるぞ! これでもう、絶対に来月、1万6000シリング以上の原稿料が支払えるから安心しろ。ところで気になったんだけど、もしもルカの村にライオンが攻めてきたらどうするんだ? 女子供もいるだろうに、戦わないと危ないってのに、それでもマサイの戦士は戦えないのか?」
──とな。俺は答えた。
ルカ「そうだ」
羽鳥「じゃあ、指をくわえて見守るだけなのか?」
ルカ「まず、安全な場所に避難させる。それから、レポートを書くんだ」
羽鳥「ロケットニュース用の記事ってことか? ライオンが攻めてきてるのに、原稿を書くってことか? すごいライター魂だな!」
ルカ「ちがう(笑) 政府に、“ライオンが攻めてきたレポート” を書いて提出しなきゃいけないんだ」
羽鳥「それって、何月何日の何時頃、どこどこの方角からライオンが攻めてきました〜ってな感じのレポートってことか?」
ルカ「そうだ」
羽鳥「マサイの戦士が、ライオンと対峙しても、レポートを書くしかできないってことか? もう一生、二度とライオンと戦えないってことなのか」
ルカ「ハッハッハ(笑)」
羽鳥「あくまでも俺個人の意見だが、いろいろとあるとは思うが、俺はマサイの戦士は、ライオンと戦って欲しい。なぜなら、マサイの戦士は “戦士” だからだ」
ルカ「ああ」
──ともあれ、オレは警察に金を払い、弟を釈放してもらうことに成功した。弟は帰ってきた。だが、結果として牛とヤギを失った。来月頭、ゴーからグッドな原稿料が送られてくることを心待ちにしている今日このごろだ。そしたらまた、買えばいい。
これまでオレが戦ってきた相手はライオンだったけど、ライターとしてのオレは読者と戦うって宣言した。でも実は、それと同時にカネ目当ての警察とも戦っているんだ。忙しいだろ。でもオレタチは負けない。なぜならマサイの戦士は、戦士だからだ。
Report:ルカ(マサイ族)
意訳:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
▼緊急予告!! 次回のマサイ通信は「マサイオリンピック2016」の予定です