突然だがみなさんは、敵にキスをして戦意を喪失させる「戦メリ戦法」をご存知だろうか? 大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』に登場するワンシーンを、マンガ『海街 diary』や『Banana Fish』で知られる吉田秋生先生が “戦法” として紹介したものだ。
そして今回、あるイスラム教徒の女性がこの「戦メリ戦法」を実際にやったと話題となっている。なんと彼女は、反イスラムを主張する人間に突然ハグを与えたというではないか! さて相手はどんな反応を返したのだろう?
・1人の女性が反イスラム運動を行っていた
2015年10月10日、米オハイオ州のコロンバスに立つモスクの前で、アニーという名の女性がプラカードを掲げていた。そこに書かれていたのは……イスラム教に反対する言葉。彼女は反イスラム運動を1人で行っていたのだ。
そんな彼女に対して、人々は「イスラム教徒を怖がらなくてもいい」と説得を行ったり、モスクの中でコーヒーでも飲みながら話し合ってみないかと誘ったりした。
・「あなた方とは友達にはなれない」と説得に応じない女性
けれどもアニーさんは「あなた方がイスラム教徒である限り、友達にはなれません。聖書にそう書いてあります」と拒否。説得には全く聞く耳を持たず、冷たい態度をとったという。やはり分かりあえないのか……と思われたところへ、イスラム教徒のシンシア・デ・ボウティンカールさんが歩み出た。
そして彼女は唐突に「あなたをハグしてもいいですか?」とアニーさんに問いかけたというではないか! もちろん、突然のことにびっくりするアニーさん。けれども彼女は、その申し出を突っぱねることなく「オーケー」と返したのだった。
・シンシアさん「ハグをしようと思いついた」
ギュッと抱き合った2人……。そのときのことをシンシアさんは以下の様に語っている。
「いつもは私たちに反対の立場をとる人に、ハグなんてしません。でも、ふと思いついたんです。なぜでしょう? 自分でも分かりません」
「アニーさんはとても緊張していて、体も震えていました。私がハグをしたとたん、彼女の体は柔らかくなってリラックスしたのが分かりました。私が体を少し引くと、彼女は微笑みました」
それからシンシアさんは、水でも飲まないかとアニーさんを再びモスクへと誘ってみた。「大丈夫。私はあなたの側から離れません。ずっと一緒にいます」と約束したところ、アニーさんは彼女の誘いを断らなかったという。
・ヒジャブを脱いでみせ、自分も同じ人間だと伝えた
アニーさんはモスクで多くの人の拍手で迎えられたものの、初めのうちはちょっと緊張していたよう。そこでシンシアさんは、一緒に女子更衣室に入って、アニーさんの目の前で被っていたヒジャブを脱ぎ、自分も彼女と同じ “1人の人間” であることを身を持って示したのだとか。
そんなシンシアさんの気持ちが通じたのか、アニーさんの緊張も徐々に解けていき、なぜ自分がイスラム教を敵だと思うようになったか話しはじめた。
なんでもアニーさんのトルコ人の友人が、家族を皆殺しにされて以来イスラム教を憎むようになり、その友人からイスラム教の悪い話ばかりを聞くうちに、彼女も反イスラムのニュースや情報を信じるようになったというのだった。
・一緒にセルフィーまで撮ったアニーさんとシンシアさん
その後、モスクを見学したり、英訳版のコーランを貰ったり、宗教について2時間も話し込んだり、さらにはシンシアさんとセルフィーを撮ったりと楽しいひと時を過ごしたアニーさん。そして最後にもう一度シンシアさんとハグをした後に、こんな言葉を残して帰って行ったという。
「あなた方は、みなさんとてもいい人ですね。私は暴力や殺人を許せないけれど、コーランを読んでみます。ヒドイことをした私に対して、イスラム教の人たちがこんなに優しくしてくれるだなんて思ってもいませんでした。ごめんなさい」
現在この2人の関係は多くのメディアに取り上げられ、世界中から「素晴らしい!」と拍手喝采が寄せられている。たった1回のハグがここまで大きな話題になるとは、シンシアさんもとても驚いているようだ。
参照元:Facebook[1][2]、The Columbus Dispatch、Metro(英語)
執筆:小千谷サチ
▼その時の様子を収めた動画
▼モスクの前で1人「反イスラム教」のプラカードを持つアニーさん
▼人々が説得しようとしても、拒否
▼そしてシンシアさんの突然のハグ!
▼セルフィーまで撮ったそう