一度入れたら消し去ることが難しい、入れ墨やタトゥー。だからこそノリや勢いで変なデザインを選択したら後悔すること必須。慎重に、自分がおじいさん、おばあさんになっても慈しむことができるものを体に刻みたい。
そしてデザインだけでなく、誰に彫ってもらうかも大切だ。世の中には凄腕の彫り師の人々がいるが、今回紹介するのもまさに伝説。『最後のカリンガ・タトゥー彫り師』として名高い95才の女性である。彼女は「100才まで彫り続けたい」と今も人々の肌に模様を刻み続けているのだ。
・フィリピン先住民族・カリンガ族
フィリピン・北ルソンの山岳先住民族カリンガ族。彼らが誇る貴重な伝統的文化の一つに、「カリンガ・タトゥー」がある。1000年以上もの歴史を持つこのタトゥーは、世代から世代に受け継がれてきた「肌を通して語られる自然言語」だと形容される。
そんなカリンガ・タトゥーの担い手がワン・オドゥさん(95)だ。彼女は、『最後のカリンガ・タトゥー彫り師』だと言われている。
・「自分が死ねば、伝統が廃れる」
カリンガ族が住むのは山の奥深く。ある日、世界のタトゥーを調査していた人物が彼女の元を訪れたことで、カリンガ・タトゥーにスポットライトが当たることになった。そして同時に、オドゥさんは「自分が死ねば、『カリンガ・タトゥー』を彫る者は誰もいなくなる」ことを知らされることになる。
しかし彼女には後継者がいない。25才のときに起こった戦争で恋人を失って以来、彼女は一人タトゥーを彫り続けてきたからだ。オドゥさんは、妹の孫娘にタトゥーを教えることを考えているようだが、孫娘は大学でコンピューター・エンジニアリングを学んでいる。どうなるかは分からない。
もちろん彼女の跡を継ぎたいという志願者もいるようだが、オドゥさんは「私の一族から出た者でないと、後継者にはなれない」と語る。
・「戦士」だけに許されたワシのデザイン
“女性の美” と “男性の勇気” を表すカリンガ・タトゥー。カリンガ族の間では、タトゥーの入っていない者は「真の戦士」だと認められないと言われており、第二次世界大戦時、侵攻してきた日本兵と戦ったカリンガ族の戦士たちの胸には、ワシのタトゥーが施されていた。ちなみにワシは、「戦士」だけに許されたデザイン。そして体のどの部位に施すかは、彫り師に委ねられる。
オドゥさんのタトゥーの彫り方は、厳密には “伝統” に則った方法ではないそうだ。しかし使用している物は全く同じ。ココナッツの殻の中で、水と炭、サツマイモを混ぜ合わせたものを塗料とし、カラマンシーの枝と釘を竹の棒に括り付けたもので皮膚を刺していく。
・タトゥーを彫って暮らしている
かつてカリンガ族は、互いに物を交換しながら暮らしていたので、タトゥーを彫ることにお金は必要なかった。けれども時代は変わり、今ではオドゥさんは彫り師として生計を立てており、「タトゥーのおかげで、私は鶏や豚を買うことができます」と述べている。そんなオドゥさんは、今では村でも一二を争うお金持ちになったということだ。
・オドゥさん「100才までタトゥーを彫り続けたい」
しかし彼女がタトゥーをいれるのは、決してお金だけが理由ではない。「タトゥーを入れたい人なら、誰でも大歓迎」だと話すオドゥさんの元には、世界中から人々が訪れる。そんな彼らは、彼女の人生に意味を与えてくれるという。
「100才まで生きて、タトゥーを彫り続けたいですね。私のタトゥーを求めて、世界中の人々が訪れてくれる。私の人生に意味を与えてくれています」
オドゥさんのタトゥー料金は、一番小さな柄で 500フィリピン・ペソ(約1400円)から。客はどこにタトゥーを彫ってほしいか選択することはできるものの、基本的にデザインはオドゥさんにおまかせだ。彼女にタトゥーを施してもらうために何年も待ったという人がいることからも、彼女の人気の高さが伺えるのだった。
参照元:Facebook [1]、[2]、Looking For Stories、RAPPLER(英語)
執筆:小千谷サチ
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