他人に描いてもらうと嬉しくなる絵画、それが “似顔絵” だ。悲しい気持ちになる似顔絵も多々あるが、「描き手は自分のことを、こう見ているのか」ということが一発で分かる、究極のコミュニケーション絵画である。
そんな似顔絵を……私(筆者)の顔の似顔絵を「お願いだから描かせてほしい!」と名乗り出る迷惑メールが届いたので、ご紹介しておきたい。あえてストーリー名を付けるとしたら、さしずめ『似顔絵の愛子』である。
まずは、「なぜ愛子が私にメールしてきたのか」についてお伝えしたい。愛子が言うには、私と愛子は下記のような状況であるという。
「無条件で9000万円がもらえる “ペア” に、私と愛子が選ばれた。お金を受け取るための “手続き” をすれば、それぞれ9000万円が受け取れる。ただし、どちらか片方が “手続き” をしなかったら、共に9000万円は入手できない」
なんだか漫画『カイジ』や『ライアーゲーム』のような世界観だが、とにかく愛子と私はペアらしい。裏切りなしで、一緒に “手続き” をすれば、それぞれ共に9000万円がゲットできるという夢のようなストーリーだ。
さらに愛子は「癌(がん)」であることも告白してきた。余命わずかであるという。そんな時に、一攫千金の9000万円チャンスが到来! 愛子は「神様がくれた最後のプレゼントだって思ってます」と嬉しそうに語っている。
もちろん愛子は、すでに “手続き” を済ませている。手続きというのは、ご存知「怪しい出会い系サイトへの登録」から始まる地獄への入り口であるが、愛子はやたらとテンション高く「早く “手続き” して9000万円もらいましょうよ!」と催促してくるのだ。
……愛子よ。私が “手続き” するはずないだろう。これ系の「一攫千金チャンス系」のネタは、もう古いんだ。どうせ “手続き” は怪しい出会い系サイト内で行われ、返信ごとにお金を取られ、マジの口座番号を教えても本田よろしくトンズラするに決まってる。
こんなネタ、もういらないんだ……と思ったその時! 事態は一気に急変する。今までにない新展開を予感させる大きな一発が愛子から送られてきたのだ! 短いメールなので、以下に全文掲載したい。
件名:『直レスOK』すごい事ひらめきました! V.I_P.さ.ん…驚くことを言っちゃっていいですか?
内容:「V_I.P_さ.んの絵を描きたいです! V.I.P_さ_んの似顔絵を描きたいなって思いました! ダメですか?(笑) なんだかこうして同じペアに選ばれたのも運命だと思いますし、私描きたいです!(笑)癌のせいで外でアクティブに遊んだりってのも難しい私なんで、絵を描くのが唯一の趣味なんです! だからお願いします! 良いですよね? いつかV.I.P_さ_んの似顔絵…描かせてくれますよね?」
──愛子っ! 愛子! すごいことをひらめいたな愛子! 愛子のアイはアイデアのアイ! ダメもなにもウエルカム! 「いつか」どころか今すぐ欲しい! なんなら似顔絵交換だ! 私は漫画家でもあるから似顔絵だって得意だぞ! ということで私は、
私「むしろ描いて下さい! お返しに、私も愛子さんの似顔絵を描きます! 写真、交換しましょうか?」
私「似顔絵の件、どうなりましたか? 似顔絵交換しましょうよ! お返事待っています。」
と返事した。……だが! 愛子から返ってくるのは、似顔絵そっちのけの「手続きは23時までだから早くしてください」、「手続きはまだですか?」的な、いわゆる “あらかじめ設定されているストーリーに沿ったコピペの内容メール” のみ。
こうなると私も意地になる。自動的に送られてくるであろうコピペメールに対し、いちいち「似顔絵の件、返事ください!」、「似顔絵交換しましょうよ!」と返信し続けた。いつか愛子が “直でタイピング” して返信してくれることを願いながら……。
すると、私の熱意が通じたのか、コピペ返信にまぎれて、一通の “直タイピングっぽいメール” が愛子から届いた。やっと描いてくれる気になったか愛子……と思いきや! その内容は、あまりにも冷たく、逆に私の闘魂に火をつける結果となる。
そして、そのメールをきっかけに、私と愛子、ならびに愛子の取り巻き連中まで参戦してくる、仁義なき「似顔絵戦争」が勃発することになったのである。戦(いくさ)じゃ! 戦じゃ! 愛子から届いた冷酷な返信は、次ページ(その2)に掲載じゃ!!
Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
【実録】「あなたの似顔絵を描きたい!」と言ってきた迷惑メールに自分の写真を何十枚も送りつけたらこうなった(その2)
愛子から届いた待望の “直タイピング返信” は、以下のシンプルなものだった。
件名:『直レスOK』顔、私は分かりませんから(笑)
内容:「描きようがありませんよ。それと、お手.続.きはしていただけないのでしょうか?」
……なんなんだ、その「(笑)」は。私の事をナメているのか。ナメてんのか愛子ッ!! そもそも「似顔絵」を持ち出してきたのは愛子だろう。それなのに、なんなんだこの冷たい返信は! もう我慢できない。何が何でも描いてもらう!! 開戦じゃーっ!!
だが、愛子の言うことも一理ある。一理どころか百理ある。たしかに、私はまだ顔写真を送っていない。似顔絵を描いてくれることへの “承諾メール” を送り続けていた……だけにすぎない。私が写真を送らないと、愛子は似顔絵を描きようがない。
ということで私は、すべてのメールに自分の顔写真を添えて返信した。愛子からは、似顔絵の件とは全く関係のない話題のメールが届くが、断じて似顔絵を描いてもらうことを、私の顔面写真と共に要求し続けた。
だが愛子は、相も変わらず似顔絵とは関係のない話を送ってくる。「癌で死んじゃう私だけど……」や「私、9000万円を受け取って、死ぬまでの間、今まで出来なかった楽しい事を沢山したいんです!」などと、泣き落としのメールが山ほど届くが、その一通一通に私の顔写真付きで「似顔絵を描いて下さい」と返信した。
常に同じ顔写真が送られてきたら、さすがの愛子も怖がるかと思い、さらに「もしかしたら正面の似顔絵が不得意なのでは」という懸念もあり、横顔や全身の写真なども添付して、愛子の “似顔絵を描きたくなる欲” をマイルドに刺激し続けた。
さらに、添付する顔写真のサイズを少しずつ大きくしていくというニクイ演出も織り交ぜた。愛子が似顔絵を描いてくれないと、どんどん画像のサイズが大きくなる。どんどん、どんどん……私の顔面写真がデカくなるのだ。同時に容量も大きくなる。
愛子からは「お伝えしているとおり、私は癌で、この先もう長く生きられないんです(汗)」という悲痛なメールが送られてくるが、そんなことより似顔絵だ。早く描かないと、添付画像はどんどんデカくなっていく。いいのか愛子。それでもいいのか?
しばらく写真を送っているうちに、愛子に対するメールに添付するファイルの容量は「最大4.3MBまで」ということが判明したので、限界ギリギリのサイズで攻め続けた。愛子は「私は癌で、この先もう長く生きられない」と言っているが、このままでは、愛子が死ぬ前にメールボックス容量が破裂することだろう。
私だって、こんな仕打ちはしたくない。だが、愛子が似顔絵を描いてくれないと、私の顔がどんどんデカくなっていくというルールを宣言してしまったからには、今さら中止するわけにはいかないのだ。早く描いてくれ愛子っ……たのむ、愛子っ……!!
このままいくと、私の鼻毛まで見えるレベルの超・高解像度になってしまう。もう勘弁してくれ愛子。たのむから、この不毛な戦いにピリオドを打ってくれ。かといってメールの文章に変な「ピ.リ オ.ド」を入れる必要はない。愛子が似顔絵を描けば、この戦争は終わるんだ……!!
──と、そんな顔面メールを送り続けること71通目、ついに愛子から「直タイピングっぽいブチギレ返信メール」が届く! しかし、その内容は、私の顔面71連発が全く無意味だったことを示す無慈悲すぎる文面であった。愛子は何と言ってきたのか、その答えは次ページ(その3)に掲載だ!
Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
【実録】「あなたの似顔絵を描きたい!」と言ってきた迷惑メールに自分の写真を何十枚も送りつけたらこうなった(その3)
愛子から届いた待望の “直タイピングっぽいブチギレ返信メール” は以下の通り。なお、文中の意味不明な句読点やアンダーバーは、愛子メールの特徴でもあるのでそのままコピペする。
件名:全然写_真くれないじゃないですか!
内容:「ふざけないでくださいよ、!」
──は? 71通も顔面メールを受信しておきながら「写真くれない」はないだろう。演歌歌手・瀬川瑛子の名曲『命くれない』でもあるまいし、「写真くれない」はないだろう。こんな返信されちまうと、私も「人目をしのんで 隠れて泣いた、そんな日もある 傷もある♪」状態になっちまうよ……。
それはどうでもいいとして、当然のごとく私もブチギレて猛反発。「もう何十枚も送っていますよ! ふざけないでください! 描いて下さい!」と、特大サイズの画像と共に送りまくった。
さらに、「ちょっとお風呂してました♪ V.I.P_さ.んは何してましたか?」という、締め切りを催促する編集者に対する返事とは思えないナメきったメールには、「風呂の前に似顔絵を描けよ!」と返信。断固として似顔絵優先を説き続けた。すると……
件名:『直レスOK』もう入っちゃいましたよ♪
内容:「絵を書くのって結構集中するからサラサラ書けるわけじゃないんです(汗) 集中力が切れると画力が落ちちゃうので休み休み書いてるので楽しみにして下さいね?」
──と、これまたナメくさったメールが送られてきたのだ! 人を待たせておきながら、「風呂、もう入っちゃいましたよ♪」じゃないよ愛子。ここまで編集者に催促されたら、3日くらいは風呂も我慢してでも描かなきゃならない世界、それが絵描きの世界なんだよ愛子!! 当の私は、しょっちゅう締め切りに遅れるが。
・いきなり「速水社長」という人物が参戦
それはさておき、さておいて、その後も徹底的に愛子に顔面メールを送り続けていると……突如、「速水社長」と名乗る人物からメールが届いた。速水社長の名前は、愛子からのコピペメールにも、たびたび書いてあった。すでに誰かと “ペア” を組み、簡単に9000万円をゲットした、この世界の先輩であるという。
速水社長は、私に対して、こうメールしてきた。
件名:『直レスOK』結局手.続_きをされなかったんですね…
内容:「愛子さんのことを思って手.続.きをしてくれる…そう思ってたんですけど…忙しかったんですか…??」
メールのヘッダーなどを調べてみると愛子の情報と完全に同じなので、どう考えても愛子本人が速水社長であるっぽいのだが、とにかく速水社長は愛子のことを心配している。非協力的な私に対して、あきれているようにも見える。
だがしかし。もしかしたら速水社長は愛子を動かすキーマンになってくれる可能性もある。この不毛な似顔絵戦争に終止符を打ってくれる可能性もある。ということで私は速水社長に対し、私の顔面写真と共に直訴した。
愛子が似顔絵を描いてくれないから信用できないということ、似顔絵を送ってくれないと展開が進まないこと、なんなら速水社長が私の似顔絵を描いてくれてもいい……というウルトラCの妥協点まで用意した。すると速水社長は、
件名:『直レスOK』もしかして不安に感じているんでしょうか…?
内容:「それだったら僕が登録している写.真を見てください! 何も不安に思う必要はありません! 手_続_き完了で9000万.円が確実に受.け_取.り出来ることが僕が約束させて頂きますから_ね?」
と、毎度おなじみの「怪しい出会い系サイト」に誘導するメールを送ってきたのだ。怪しい出会い系サイトに登録すれば、速水社長の登録写真が見られるという作戦であるが、私がその手に乗ると思ったか! 第一、写真を見ただけで信用できるか!
……残念ながら、似顔絵ターゲットに速水社長も追加である。他人の話に、軽い気持ちで頭を突っ込むものではない。老婆心から横ヤリを入れたのかも知れないが、もう頭を突っ込んでしまった以上、“似顔絵責任” は速水社長にも生じたと私は判断した。
その後、今回の9000万円システムを考案した「創設者・橘」と名乗るラスボス的な人物からも数通のコピペメールが来たが、「愛子か速水社長が似顔絵を描いてくれなかったら、あなたに描いてもらう」という顔面メールを数発送ったら連絡が途絶えた。
似顔絵を描くのは愛子なのか。それとも速水社長なのか。どちらが描いてくれてもオチはつく。相変わらず、この2人は “手続き” を促すコピペメールを送ってくるが、すべてに弾道ミサイル級の「超絶特大サイズの顔面メール(容量4メガ)」で応戦した。
そして……お互いがボロボロになりかけた頃、戦争の終結に向けて動き出したのは速水社長だった! だが、その結末は、平和どころか核戦争が起きた後のような「何もない荒野」を生むことになる。衝撃のラストは次ページ(その4)へハルマゲドン!
Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
【実録】「あなたの似顔絵を描きたい!」と言ってきた迷惑メールに自分の写真を何十枚も送りつけたらこうなった(その4)
私からの再三にわたる似顔絵要求に、速水社長はこう返事してきた。
件名:『直レスOK』_どういう事ですか?
内容:「全く理解不能なんですけど… 私が似顔絵を描くんですか?一_体何の為に?(笑)」
……至極、まっとうである。理解不能という気持ちは痛いほどよく分かる。実は、当の私も意味不明な要求をしていると思っている。だが、終わりなき戦いを終わらせるためには速水社長の似顔絵が必要であることも、どうかご理解いただきたい。
私は、速水社長に、「あなたが23時までに “手続き” を私に求めるのであれば、それより先に似顔絵を送ってくれ」と、何度も要求した。田中正造(たなかしょうぞう)ばりに、何度も何度も直訴した。すると速水社長は……
件名:『直レスOK』正直私は起業したばかりで忙しいですよ。
内容:「似顔絵をかくにも時間がかかるかと。それを23時までと無茶を言われても、とは思いませんか?」
──と、これまた至極まっとうな返事をよこしてきた。だが、23時の締め切りまで、まだ10時間近くも残っている。ぜんぜん無茶ではない。絵描きの世界では、「1時間後に送れ」なんてのもよくある話だ。それよりなにより、速水社長が「描く気」になってるところが嬉しいぞ!
だがしかし……その後に速水社長が送ってきたコピペメールに対する私の返信がきっかけとなり、事態は急転直下の終結をむかえることになる。速水社長は、以下のようなコピペメールを送ってきた。
件名:『直レスOK』僕は橘さんからの9000万_円を受け取ったおかげで会社を建ち上げることが出来ました。
内容:「これからも受け取った9000万_円を有効に使わせてもらうつもりです。V_I.P_さ.んはどうされるんですか? 確実に受.け_取_り出来る9000万_円であることは既に3ペアの6人が証明しています!」
それに対し、私は「私はその9000万円で似顔絵博物館を作るつもりです。その博物館に飾る1枚は、あなたが描くのです。」と返信した。
すると……!!
件名:『直レスOK』なら受け取ればいいじゃないですか。
内容:「ペア相手はあなたでしょう?」
いきなり突き放し系の返事をしてきた速水社長。あわてた私は、「そのペア相手が信用できないから速水社長に相談しているんです。あなたは愛子さんのウソを見逃すんですか? 私が求める信用は、『私の似顔絵』ただひとつ」と返信。すると、なんと……!!
件名:『直レスOK』もうメ.ー_ルしないで下さい。
内容:どうやら_頭のおかしい人だったみたいですね。
というメールを最後に、二度とメールが来なくなったのである。愛子からのメールも、申し合わせたかのようにピタリと来なくなった。そればかりか、今回の話とは全然違う話の、他の迷惑メールまでピタリと届かなくなってしまったのだ……!!
受信ボタンを押しても何も届かない。ゴミ箱を見ても届いていない。それはまるで、核戦争が起きたあとの “何もない荒野の世界” のようだった……。まさかとは思うが、私のメールアドレスは、迷惑メール業界のブラックリストに入ってしまったのか?
もう、迷惑メールを送ってきてくれないのか? もしそうだとしたら、こんなに悲しいことはない。私はそっと、人目をしのんで隠れて泣いた。そんな日もある、傷もある。<完>
Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
こちらもどうぞ → 『GO羽鳥の【実録】迷惑メールシリーズ』
▼2014年ゴールデンウィーク愛子との『似顔絵戦争』全件名