この世には、女性が入れない場所というものが存在する。男性用トイレに男風呂……などは当然であるが、通称「ビデオボックス」こと個室ビデオも、基本的には男性にしか入れないサンクチュアリ(聖域)だ。なぜ男性にしか入れないのかは謎である。
そんな個室ビデオを利用した時、見るべき映画作品のビデオ(DVD)を選ぶだけで、軽く1時間以上も経過していることがある。「疲れたから個室ビデオで休憩でもするかァ〜」と言いつつも、部屋に入る前に1時間も立ちっぱなしで作品チョイスをしているのである。あれは一体なんなのか。
・個室ビデオとは
ちなみに個室ビデオとは、読んで字の如し “ビデオを見るための個室を貸してくれる場所” のことをいう。レンタルビデオで映画などを借りたとしても、音量の問題や環境の問題などにより、自由に家で見られない人は数多い。よって、映画好きにはたまらないオアシスなのである。
・個室ビデオの流れ
簡単に個室ビデオの流れを簡単に解説すると、入店 → 受付で会員登録 → カゴを渡される → レンタルビデオのようなコーナーがあり、映画などの作品を6〜7本まで借りられる → 選んだら受付へ → カゴにオマケのグッズを入れてくれる → 部屋へ → 映画鑑賞……だ。小学校時代の遠足前に駄菓子屋でお菓子を選ぶ感覚とよく似ている。
・悩ましい7本制限
問題なのは、「映画などの作品を6〜7本まで借りられる」という夢の様なシステムである。1本でもないし2本でもない。そして無制限でもない。6〜7本という絶妙な本数が、まるで野球の打順を決めるがごとく、実に悩ましいことになってしまうのだ。適当は許されない。
・まず出だしの3本をどうするかだ
上限7本までだとして、まず1本目は……自分の本当に好きなジャンルの映画がいいだろう。例えばスポーツもの。競泳水着なんて私(筆者)は好きだ。続いて2本目は……コスチュームにこだわった映画が見てみたい。3本目は鉄板モノ。超有名な俳優や女優が出ている作品であろう。保険の意味合いも強い。
・ふと気づいたら7回裏
4本目は意外性。自分があまり見て来なかった、「未知なるジャンル」の映画にチャレンジしておきたい。5本目は……と、ここで「残り3本しか借りられない」という事実に気づく。野球で言うなら7回裏あたりまで来ている状態だ。さて、どうする。5本目はどう攻める。失敗は絶対に許されない。
・ダメ押しの一本
緊張の5本目は……演技者が素人くさいモノでもいっておくか。そして6本目は……思い切り笑える、バラエティ作品のような企画モノなんていいんじゃないだろうか。最後の1本は……本当に見たい作品をチョイスだろう。つまりは1本目が良かった場合の、ダメ押しの一本だ。
・時間の流れがおかしい空間になっている
……と、こうして7本の映画作品を選ぶわけだが、なぜだか、どうしてだか、1時間以上もかかっているのである。自分のカゴに2本くらいしか入っていない状態で、他人のカゴに6本くらい入っているのを見ると「まずいぞ……」と焦ってきたりもする。そんな、焦っての1時間だ。時間の流れがおかしい空間になっているとしか思えない。
・絶対に7本ぜんぶ見ることはない
さらに驚くべきは、これだけ時間をかけて借りた7本の映画を、全て見なかったりするのである。いいとこ2本、エネルギッシュな若者で3本が限界だ。さすがの映画好きでも、7本すべての映画を鑑賞し満喫するのは絶対に無理。中学生男子のエネルギーと体力があれば、7本鑑賞も可能かもしれないが。
・駅前にある時空を超えた異次元空間
一体なんのために、あれだけ時間をかけて真剣に、7本もの映画を選んだのだろうか……と、少しむなしくなりながらDVDの盤面を眺めたりする。だが、個室ビデオという空間に入ってから、一番充実していて楽しかったのは、超真剣な眼差しで作品を選んだ1時間だったのかもしれない。
駅前にある時空を超えた異次元空間、それが個室ビデオなのである。
執筆:GO
GOさんのシリーズコラム『あれは一体なんなのか。』