昨年東シナ海では、日本が中国漁船の船長を拿捕する事件が起きた。即時釈放を求める中国は日本に対し経済制裁を発動、大きな外交問題となった。
そして現在、今度は南シナ海で緊張が高まっている。中国の実力行使に対し、ベトナム・フィリピンは実弾演習や不買運動で対抗。中国人の8割以上が武力による解決を支持する一方、ベトナムも中越戦争以来32年ぶりの徴兵令を出すなど、第2次中越戦争開戦前夜と言っても過言ではない状況にある。
どちらのケースも背景にあるのは、海洋資源をめぐる領有権争いだ。そんななか、オーストラリアのシンクタンクが、中国が関与する領有権争いが今後アジアでの戦争につながる可能性があることを論文にまとめ、話題となっている。
この論文をまとめたのは、シドニーに本拠を置くローウィー国際政策研究所(Lowy Institute for International Policy)。
そのなかで、「膨大な海底資源の存在とナショナリズムにより、領域主権を互いに尊重しあうことは非常に困難となっている」「特に中国が海上覇権の確立を推進し強硬姿勢を堅持する以上、紛争は非常に起こりやすい」と述べ、インド・太平洋アジアのシーレーンは今後『アジアの火薬庫』となりうることを述べている。
そして、「中国と日・米・印との摩擦は長期化、かつ激化するだろう」「インド洋権益をめぐって中印が衝突するのは、時間の問題であり不可避」とし、武力紛争は大国間でも普通に起こることを指摘。
さらに日・米・印のみならず、「中国が南シナ海を『核心的利益』と宣言しASEAN諸国に懸念を引き起こしたが、それは実はオーストラリアに対しても安全保障上重大な危機感を植えつけている」と記し、紛争はオーストラリアも巻き込む可能性を示唆した。
実際、世論調査によるとオーストラリア国民の過半数以上が中国を軍事的脅威だと認識しており、日本と同じように国防をアメリカに頼ってきた同国では現在、海軍増強の必要性が声高に叫ばれている。
さて、論文には以上のことが伝えられているが、アメリカについて詳細な記述はない。しかし、やはり気になるのは、アメリカの動きだ。というのも、いつ、どの程度関与してくるかで、アジア情勢は大きく変わってくるからだ。
先月27日、米上院は、南シナ海におけるベトナム・フィリピンに対する中国の実力行使に遺憾の意を表明。全会一致で非難決議を可決している。これに対し、中国外務省のホン・レイ広報官は、「当事国でないアメリカは干渉すべきではない。関係諸国が二国間協議を通じて問題解決しようとする外交努力を尊重すべきだ」と述べ、米国の関与を拒絶した。
中国のねらいは、あくまでアメリカ抜きで、軍事力・経済力を背景に各々の国と個別協議することにより、有利に解決していくことにあるようだ。
今後、アジア情勢のバランサーとして機能するだろうアメリカ。全く関与しないことはないとして、果たしてどの程度アジアの問題に関与してくるのか、目が離せないところだ。21世紀前半、中国が南シナ海で海上覇権を確立するのか、それともアメリカがストップをかけるのか……、とにかく、アジアの海が火の海にならないことを、心から願いたいものだ。
参照元:old.news.yahoo.com, generationaldynamics.com(英文)
▼南シナ海。赤いラインまで、中国は自国の海域と主張している。