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『無名の偉人』とは、人ぞれぞれの経験や体験を聴くインタビューです。世の中、名のある人間ばかりが功績を残しているのではなく、誰もがそれぞれの誇りを持って生きている。その人知れず紡がれたささやかな物語を紐解く。それが、インタビュー『無名の偉人』です。

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今年5月から銀座1丁目の約30㎡の平地で米作りに挑戦した『銀座でコメづくりプロジェクト』。稲刈りの模様は以前にもご紹介させて頂いた(『銀座の稲刈りに行ってきた!』)今回は、この米作りに挑戦した銀座農園株式会社にインタビューをさせて頂いた。田んぼで飼育していたアイガモがアライグマに襲撃されて死んでしまうなど、意外な苦労も絶えなかったという。なぜ、そうまでして、銀座でコメづくりに挑戦したのだろうか。

1、銀座でコメづくりを始められたきっかけを教えて下さい。

元々は地域活性化を軸に事業を行って来ました。中心商店街の再生を行って来たのですが、商店街などのハード面だけを再生しようとしても、限界があることに気付いたんです。そこに住む人やその地域、その土地で作られるものを活性化して元気にして行かないと、結局商業地も活性しないんですね。それで、一次産業を元気にする取り組みとして、銀座で米作りを始めることを思い立ったんです。まずは、一次産業、特に米作りに、関心を持ってもらいたかったんです。

米作りをするにあたっていろいろな方にご協力とアドバイスを頂きました。(株)農業法人みずほの長谷川久夫社長もその1人です。長谷川社長は15年前の『平成の米騒動』と言われた米凶作の翌年に、タイ米の大量輸入に抗議して歌舞伎座の裏で稲作をされた方でした。その他、全国100の稲作農家の方々から、沢山のご指導を頂き、銀座でのプロジェクトをスタートさせました。

2、コメづくりを通して、どんなことを伝えたかったのですか?

このプロジェクトを通してお伝えしたかったのは、お米を見直すきっかけと、米作りの苦労ですね。ご年配の方々はご承知だと思いますが、昔は野良仕事を手伝わされていたので、お米が出来るまでの苦労を肌で感じることが出来たと思います。今は農作業を知らない人がほとんどで、泥にまみれて食べ物を作るということを知らないんですよね。普段何気なく食べているお米が、どんな苦労の中で育っていくのか、知って頂くきっかけになればと思いました。

それともう1つ、日本では耕作放棄地が増えていることを知って頂きたかったんです。農業従事者が居なくなって放置された田畑が増えています。水田は大量に水を保有していますから、小さなダムのような役割を果たしています。それが放置されると、水の貯えが無くなって、日本が枯れてしまうんです。耕作放棄地を減らしたいとも考えています。

3、苦労されたことはどんなことですか?

いろいろありますね。まずは水に苦労しました。駐車場にされる予定だった平地に田んぼを作ったので、排水がうまく行かず、何度も配水管が詰まりました。普通の水田は水の循環で水温調整をしているんです。排水がうまく行かない上に、商業地だったので田んぼの水温が上がるんですよね。夏場は田んぼに氷を入れたり、稲に扇風機を当てたりして、暑さ対策をしました。

それから夜間照度の問題がありました。稲は夜12ルクス以下でないと育たないんです。稲は眠るんですね。照度を落とすために暗幕をして夜は遮光したりしました。

後は動物の問題ですね。ネズミやネコが出て稲を荒されましたね。普通、田舎では田んぼにネコが入るなんてことはないんですけど。2~3回入られました。それからアライグマ。捨てられたアライグマが、田んぼに飼っていたアイガモを襲ってしまって。収穫前にやられてしまいました。

想定外のことばかりで苦労しました。農家さんに田舎で米作りをするよりも、銀座の方が手が掛かると言われました。

4、挑戦してみてよかったことは?

苦労も多かったですけど、良かったことも沢山あります。まずは、人が集まるきっかけになったことですね。何も用がなくても、ご近所の方が稲の発育を見に来て下さったり、見に来た方同士で言葉を掛け合ったり。ある農家さんとご近所で1人暮らしをしているご年配の方との交流も生まれたりしています。街の中の憩いの場になれば良いなと思っていたのですが、そういう場になって良かったです。

それから、沢山の小さな生き物が田んぼの周りで見られました。ツバメ、トカゲ、カエル、ザリガニが自然発生していたんですよね。トンボもヤゴの状態から田んぼで育ち、成虫になりました。ミミズも田んぼの周りの敷石の下にいて、それをアイガモの餌にしました。小さな田んぼでしたが、自然循環が生まれていましたね。

後は近所でペットを飼えない方に、アイガモが喜ばれていましたね。雛の時にはネコに襲われる危険があったので、田んぼに置いたままに出来なかったんです。だから、いつも会社に連れて帰っていたんですが、「明日は何時頃来るの?」と声を掛けて頂いて、アイガモの成長を楽しみにして下さる方も居ました。成長の様子をご自身のブログに公開されていらっしゃいました。

関わった人みんなが、笑顔になったプロジェクトでした。苦労した甲斐がありましたね。

5、これからの目標について教えて下さい

田んぼでは、農家さんからの直販もやってたんです。普段は販売もしたことがない農家さんも居て、『生産者』と『消費者』お互いが顔の見える交流が生まれました。今回のプロジェクトをモデルにして、いろいろな場所にこの取り組みを拡げて行きたいと思います。来年は今年と違う場所で田んぼをやることになると思います。『生産者』と『消費者』、『田舎』と『都会』が交流・融合して、お互いのためになる働き方が出来る世の中になればいいと思います。

今回の『銀座でコメづくり』のプロジェクトは、広くて深い経験になりました。この経験は宝物です。苦労は絶えませんが、これからも続けて行きたいと思います。

一見奇抜とも思える試み『銀座でコメづくり』。商業地のど真ん中での米作りが、容易でないことは簡単に想像が着く。しかしこの試みがもたらしたものは、20kgのお米だけではなく、多くの意義があったのではないだろうか。来年も田んぼを通して生まれる、人と人との交流、自然と人との巡り合わせに期待したい。

■参考リンク

銀座農園株式会社
銀座でコメづくりプロジェクト2009
・コメづくりの様子についてはこちら ⇒ 銀座稲日記
・こだわり農家の単一米を直接お届け ⇒ 銀米専科

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