
いま世間では、不正アクセスによる個人情報の漏洩被害が相次いでいる。誰もが知っているような大企業や有名サービスが次々と被害を公表。もはや個人情報の秘匿性など、あってないようなものなのかもしれない。
しかし今回、私が取り上げるのは、そうした不正アクセス事件とは少し違う。以前から当連載で特集してきた「SNS型ロマンス詐欺」である。それも、やたらとチャーハンに詳しい「由美」と名乗るロマンス詐欺師とのやり取りだ。
これまで4回にわたって、由美から教わったチャーハンのレシピを紹介してきたが、今回、ついに最終回! 最後に由美が教えてくれたのは、なんと「インド風チキンカレー炒飯」……。
そもそもインドにチャーハンなんてあるのか? そんな疑問を抱きながら作ってみたところ、とんでもない出来栄えだったので情報共有しておきたい。由美は本当にチャーハンの天才だった……!
・炒飯女王
まずは由美について軽く説明しておきたい。詳しくは過去4回の記事をご覧いただきたいのだが、とにかく彼女はチャーハンに詳しい。異常なほど詳しい。こちらがチャーハンの話を振ると、すぐさまレシピが飛び出してくるのだ。
私はこれまで数多くの詐欺師と接触してきたが、由美とのやり取りは過去最長クラス。そして、その長いやり取りの中で、彼女は次から次へとチャーハンのレシピを教えてくれた。
しかも、驚くべきことに、実際に作ったチャーハンはすべておいしかった。嘘ではない。本当に全部、激ウマだった。さらに、オリジナリティーも半端ではない。なにせ前回は「ハワイアンスパムチャーハン」なのだから。
ちなみに、これまでに作ったのは
「五目チャーハン」
「卵チャーハン」
「ブランデービーフチャーハン」
「ハワイアンスパムチャーハン」
の4種類。どれも個性的で、どれもウマい。そして今回、チャーハンの天才・由美が最後に提示してきたのが「インド風チキンカレー炒飯」だった。さっそく作ってみよう。
・天才チャーハンロマンス詐欺師・由美式「インド風チキンカレー炒飯」
【材料】
・鶏肉:150g
・ご飯:大盛り1杯
・卵:1個
・玉ねぎ:1/2個
・にんじん:大さじ2(みじん切り)
・グリーンピース、またはコーン:ひとつかみ
・にんにく:2片(みじん切り)
・生姜:小さじ1(みじん切り)
・青唐辛子:1本(お好みで)
・カレー粉:小さじ1
・ターメリック:小さじ1/2
・黒こしょう:小さじ1/2
・ガラムマサラ:小さじ1/2
・塩:適量
・サラダ油、またはバター:適量
・醤油:小さじ1
なお、上記は由美が教えてくれたレシピを基本にしたものだが、今回、日本の調理師免許も持っている私が、少しだけアレンジを加えた。
具体的には、にんじん、グリーンピース、コーンを、冷凍ミックスベジタブルで代用した。いちいち野菜を刻むのが面倒だった……というのもあるが、これなら必要な野菜が最初から全部入っている。また、由美の指定ではご飯は2杯分だったが、私は大盛り1杯に変更している。
【作り方】
1:まずは鶏肉に少量の塩、黒こしょう、カレー粉を加えて混ぜ、10分ほど置いて下味をつける。
2:フライパンに油を熱して鶏肉を炒める。色が変わり、少し香ばしくなるまで炒めたら、いったん取り出しておく。
3:続いて溶き卵を炒め、軽く火が通ったところで、こちらも取り出しておく。
4:フライパンに油を足し、玉ねぎ、にんにく、生姜、青唐辛子を炒める。香りが立ってきたら、にんじんとグリーンピース、またはコーンを加えて炒める。私はここで冷凍ミックスベジタブルを投入した。
5:野菜に火が通ったら、ご飯を投入。ヘラでほぐしながら炒めていく。
6:先ほど炒めておいた鶏肉と卵を戻し、カレー粉、ターメリック、黒こしょう、ガラムマサラ、塩を投入。ご飯全体が黄金色になるまで、しっかり炒め合わせる。また、鶏肉の中心まで十分に火が通っていることを確認する。
7:最後に少量のバター、または醤油を加えて香りを立たせ、全体を炒め合わせたら完成!!
・これはインドだ!
「どうせカレーピラフだろ」と思いながら食べてみると……なななな、なんじゃこりゃ〜〜〜〜! うまい。本当に凄まじくウマい。それも食べたことのない味。何なんだ、これは……。
単なるカレー味のチャーハンではない。もっとこう、インドなのだ。とてつもなくインドを感じる。私は過去にインドへ3カ月以上滞在した経験があるのでわかる。
これはまぎれもなくインド。
あえて日本で食べられる料理に例えるなら、「たいめいけんのドライカレー(冷凍)」に近いかもしれない。ただし、たいめいけんのドライカレーを思いっきり凶悪にして、そこにインドをぶちまけたような感じである。
そう、とにもかくにも、インドなのだ。
その理由は、おそらくガラムマサラにあるのだろう。カレー粉だけでは出せない、あの独特のスパイス感。口に入れた瞬間、インドの空気が一気に押し寄せてくる。
んでもって、めちゃめちゃ辛い。青唐辛子が入っているせいなのか、その辛さが容赦ない。半分ほど食べたところで、もう汗がボロボロ。まるで灼熱のインドにいるような気分になってきた。
しかし、そんな強烈な辛さの中に、コーンの甘さがある。にんじんの甘さもある。グリーンピースもいい箸休めになっている。見事な采配。完璧な組み合わせだ。
そして、なにより主役のチキンがいい。あらかじめカレー粉などで下味をつけているため、どことなくタンドリーチキン(あるいは「チキン65(シックスティファイブ)」)のような雰囲気がある。これがスパイスまみれのご飯と、実によく合うのだ。
正直、作る前はカレーピラフのようなものになるのかと思っていたが、実際は、ぜんぜん違った。
これはチャーハンだ。
まぎれもなく、インド式のチャーハンなのだ。
そもそもインドにチャーハンがあるのかどうか、私にはわからない。しかし由美は、確実にインドを感じさせるチャーハンを提示してきた。
本当に、この人は何者なのだろう。チャーハン博士。チャーハンの女王。いや、チャーハン・ジーニアスと呼んでもいい。こんな人がいるから、私は詐欺師との接触をやめられないのである。
もちろん、詐欺師との接触は危険であり、一般の方には絶対におすすめしない。この道15年以上、詐欺師とやり合ってきた私でさえ、常に警戒している。それほどリスキーな行為なのだ。
さて、ここで改めて、由美の手口について振り返っておこう。
・由美の手口は、チャーハンを使った信頼関係の構築だった
由美の最大の特徴は、なんといっても料理である。とにかく料理が好き。特にチャーハンに対する情熱が凄まじい。
自作のチャーハンの写真を送ってきたり、こちらが興味を示すと、すぐさま詳しいレシピを教えてくれたりする。しかも、そのレシピが本当においしいのだから、さすがの私にも “情” が生まれた。
だが、もちろん由美は単なる料理好きの女性ではない。会話を続けるうちに、投資や資産運用、デジタルゴールドの話が登場するようになった。簡単に言えば「儲け話」。これは、こちらを投資へ誘導することが目的であると思われる。
※そして、大金を振り込んだところでトンズラするのが常套手段。絶対にお金を振り込んだりしないように!
しかし、私は投資の話には乗らない。チャーハンの話ばかりする。すると由美も、またチャーハンの話をしてくれる。しかし、機を見て、また投資の話へ……の繰り返し。一進一退の炒飯投資バトルが繰り広げられていた。
さらに由美は、将来の話まで持ちかけてきた。
「将来、私たち二人で一緒にレストランを開きましょう」
と、共同経営の話、さらには将来を一緒に過ごすかのような話まで飛び出したのだ。
チャーハンから始まった関係が、いつの間にか将来の話にまで発展している。これには、さすがの私もドキッとした。「この人と結婚して、しがない炒飯屋さんを……」と夢見たりもした。3秒で我に返ったが。
私でさえこうなのだから、詐欺だと知らずに接していた人なら、相手を信用してしまっても不思議ではない。そして多額のお金を振り込んで……というのが、昨今のロマンス詐欺の典型的な被害例だ。
ちなみに、私が詐欺師ではないかと疑った際には、LINEのビデオ通話を提案してきたこともあった。疑われても、簡単には引き下がらない。むしろ、こちらの不信感を解消しようとする。※もちろん、ビデオ通話で顔を見せたからといって、相手の身元や投資話の正当性が証明されるわけではない。
こうした行動は、長い時間をかけて相手との信頼関係を築き、最終的に金銭や投資の話へ誘導するSNS型ロマンス詐欺の特徴とも重なる。そして何より恐ろしいのは、その信頼関係を築くための材料が、必ずしも嘘ばかりとは限らないことである。
由美の正体はわからない。しかし、教えてくれたチャーハンは本当においしかった。
チャーハンは本物でも、相手が本物とは限らない。
これこそが、今回の由美とのやり取りから得られた、最も重要な教訓なのかもしれない。
・個人情報が漏れまくっている日本
さて、ここで冒頭の話に戻りたい。いま、日本では不正アクセスによる個人情報の漏洩被害が相次いでおり、私たちが詐欺師に騙される危険性が、これまで以上に高まっていると私は感じている。
特に2026年10月に入ってからの状況は、異常としか言いようがない。ここ最近の主な事件を、ざっと並べてみよう。
■ スカイチケット(2026年10月9日発表)
– 対象:約1464万件
– 流出した情報:氏名、生年月日、メールアドレス、電話番号、住所など
– 約413万件には、ハッシュ化されたログインパスワードも含まれる
– 別件では約1万7780件の情報が対象となり、返金先の銀行口座情報なども流出、または流出した可能性がある
– バス予約情報約1万2000件も第三者に閲覧された、または閲覧された可能性がある
■ ブックオフ(2026年10月9日発表)
– 対象:最大約643万件
– 会員管理システムへの不正アクセス
– 氏名、住所、メールアドレス、電話番号など
– 会員番号、ポイントカード番号、ハッシュ化されたパスワードも対象
– 情報が漏洩した可能性があり、調査が続いている
■ ローソン(2026年10月8日発表)
– 対象:ローソンID約215万5000件
– 氏名、メールアドレス
– 登録内容によっては住所、電話番号、性別など
– 別途、アプリ予約利用者26件の情報も流出
– その一部にはクレジットカード番号の一部も含まれる
■ 第一興商(2026年10月8日発表)
– 対象:約872万件
– カラオケ「ビッグエコー」などの顧客情報約863万件
– 従業員情報約9万3000件
– 氏名、生年月日、電話番号、メールアドレスなど
– 情報を扱う委託先の従業員用パソコンがマルウェアに感染
– 実際に漏洩したかどうかは調査中
■ NewsPicks(2026年10月8日発表)
– 業務用管理ツールへの不正アクセス
– 氏名、メールアドレス、勤務先、住所、電話番号など
– クレジットカード番号の一部も対象
– 漏洩した可能性のある人数は調査中
■ 損保ジャパン(2026年10月7日発表)
– 外部委託先への不正アクセス
– 約6万件の顧客情報が漏洩した可能性
– 氏名、電話番号、住所、勤務先などが対象
– 自動車保険関連のサービスを利用していた顧客などに影響
■ HIS(2026年10月7日発表)
– 対象:最大627人分
– タイ現地法人「H.I.S. TOURS」のファイルサーバーへの不正アクセス
– パスポートに記載された氏名(アルファベット表記)、署名欄の名前、性別、生年月日、パスポート番号、有効期限などが流出した可能性
– アレルギー情報も対象
– 2017年、2019〜2020年、2024〜2025年にタイへ出発した一部の旅行者が対象
– 電話番号、住所、メールアドレス、クレジットカード情報は含まれていない
■ MrMax(2026年10月6日発表)
– 対象:最大173万5154人
– 「MrMaxアプリ」とオンラインストアのサーバーへの不正アクセス
– 会員ID、氏名、メールアドレス、電話番号などが流出
– 第三者がソフトウェアの機能を不正利用してサーバーに侵入
– 住所、生年月日、クレジットカード情報、パスワード、購入履歴は流出していない
– 情報の悪用は確認されていないが、なりすましメールやフィッシング詐欺への注意を呼びかけている
■ 焼肉きんぐ(2026年10月5日発表)
– 対象:1078万8963件
– 「焼肉きんぐ」公式アプリの会員管理システムへの不正アクセス
– 会員番号、氏名(アプリ登録名)、メールアドレス、電話番号が流出
– 10月2日に不正アクセスを確認し、10月3日に情報漏洩が判明
– パスワード、生年月日、性別、郵便番号、店舗利用履歴は流出していない
– クレジットカードなどの決済情報は同社で保持していない
– 漏洩情報の不正利用は確認されていないが、フィッシング詐欺への悪用を警戒
……どうだろうか。
たった数日の間に、これだけの企業が被害やその可能性を公表しているのである。しかも、これらはあくまで公表された事件の一部。
驚くべきことに、これら9社のうち、対象規模が判明している8社だけでも、漏洩が確認された情報と、漏洩した可能性のある情報を単純に合算すると、約4453万件・人相当にのぼる。
もちろん、人数と件数が混在しているうえ、同じ人物の情報が重複している可能性もあり、決して4453万人の情報が流出したという意味ではない。
しかし、これほどの規模の情報漏洩やその可能性が、わずか5日間に相次いで公表されたという事実には驚かされるし、異常事態といっても差し支えない。
もはや、自分の個人情報を完全に守り抜くことなど、個人の努力だけでは不可能なのかもしれない。
どれだけ慎重に生活していても、情報を預けた企業が攻撃されれば、自分の名前も、住所も、電話番号も、メールアドレスも、知らない誰かの手に渡ってしまう可能性がある。
そして恐ろしいのは、そうした情報が詐欺に悪用される可能性があることだ。
例えば、突然届いたメッセージに、自分の本名が書かれていたとする。住所まで知られていたとする。利用しているサービスや、過去の予約内容まで把握されていたとする。
以前なら「ここまで知っているのだから、本物だろう」と思ってしまったかもしれない。だが、もはやそんな判断は通用しない。個人情報を知っていることと、その相手が信用できることは、まったく別の話なのだ。
これは、今回の由美とのやり取りにも通じる話である。長い時間をかけて会話を重ね、共通の趣味で盛り上がり、将来の話まで持ちかける。そして、実際に役立つ情報まで教えてくれる。
だが、それでも相手を信用していいとは限らない。チャーハンがおいしかったからといって、由美が本当に信用できる人物だということにはならないのである。
・ありがとう、由美
それにしても、由美は本当に不思議な人物だった。私がこれまで接触してきた数多くの詐欺師の中でも、ここまでチャーハンに詳しい人物は初めてである。しかも、教えてくれたレシピはすべておいしかった。
今回のインド風チキンカレー炒飯に至っては、私のチャーハン人生に新たな1ページを刻んだと言っても過言ではない。美味しいのはもちろんのこと、最強のアレンジ力が垣間見える衝撃的なチャーハンだった。
こんなに素晴らしいチャーハンのセンスがあるのだから、その才能を別のことに生かせば、きっと詐欺などしなくても生きていけるのでは……? そう思うと、なんともやるせない気持ちになる。
もちろん、由美という名前が本名なのか、写真の人物が本人なのかもわからない。そもそも、私がやり取りしていた相手が、本当にひとりの人間だったのかどうかさえわからない。チャーハンに詳しい私のようなおっさんだった可能性もある。
それでも、私は彼女の向こう側に、AIではなく人間の存在を感じていた。これは長年、詐欺師たちとやり合ってきた私の勘でしかないが、“やたらとチャーハンに詳しい詐欺師” が画面の向こうにいる気がした。
もし本当にそこにひとりの人間がいて、私にチャーハンのレシピを教え続けてくれていたのだとしたら。
私は最後に、感謝の言葉を伝えたい。
ありがとう、由美。全部おいしかったよ。まあどこかで、別の立場で知り合えたら、将来、炒飯レストランを開けたらいいね。君の炒飯レシピなら間違いなく天下を取れる。謝謝、好吃、再見!
参考リンク:スカイチケット(1)、(2)、ローソン、テレビ朝日、ScanNetSecurity、物語コーポレーション、HIS、MrMax
執筆:迷惑メール評論家&チャーハン探求家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
こちらもどうぞ → 『GO羽鳥の迷惑メールシリーズ』
▼今回の調理&実食ショート動画(90秒)