
「世界の麺のふるさと」と言われている中国山西省。その歴史はもちろんのこと、200種類とも400種類とも言われる麺の多さが独自の食文化を形成していることは、先日の現地食べ歩きレポでお伝えした通りだ。
中国本土でのガチ中華食べ歩きチャンネル『ブッチ旅』の取材に同行した形の今回の旅。メインのブッチさんと中国語を話せるディレクター・北斗さんと共に約1週間麺を食べまくったわけだが、帰ってきた後3人で東新宿にあるガチ中華に行ってみたところ衝撃の結論に達した。
・地下にひっそり佇む
東京メトロ東新宿駅の近く、JR新大久保駅から伸びるメインストリートと明治通りが交差する辺りにあるのが『山西亭』だ。ひと口にガチ中華と言っても中国は広いから地域ごとに専門店がある。例えば、四川料理、広東料理とか言うと、ピンと来る人も多いかもしれない。
最近、個人的によく目につくようになったのは東北料理や新彊料理だけど、山西料理専門は比較的レアな気がする。大久保の地下にひっそりと佇む山西料理店。そのガチ度やいかに。
・ネットより詳細な刀削麺の伝説
入店すると、店頭には刀削麺の伝説が書かれた貼り紙が貼られていた。「刀削麺 伝説」で検索すると、「元の支配下で刃物を取り上げられ、金属片で生地を削ったのが始まり」という概要はいっぱい出てくるけど、おばあさんと夫が登場して夫婦喧嘩が描写されているのは珍しい。
しかし、現代日本の価値観で考えると、相手が意味わからん鉄くずを拾って来てケンカ中に「切れないと言うなら削ればいいだろ!」とキレようものなら永遠に刀削麺は完成しないだろう。目標が尊厳を賭けた論破の戦いに勝つことに変わり、最悪、離婚に至る。生産どころか解散だ。
そう考えると、本来の目標を見失わずひらめいて試したおばあさんは大分器がデカイ。後世に残るものを生み出せるのはこういう人物なのかもしれないなあ。
・現地の種類、現地の味
失礼、思わず刀削麺の伝説に感じ入ってしまったが、まだ入口。そこで奥の半個室的な席に座ってみると、壁に貼られているメニューがタダモノじゃないことに気づいた。
刀削麺の種類の多さは言うまでもなく、蒸し麺の莜面栲栳栳(ヨウミエン・カオラオラオ)とか、じゃがいものデンプンから作る涼粉(リャンフン)まである。
マカロニみたいな猫耳麺もあるし、蕎麦系も充実。中華に蕎麦のイメージってあんまりないと思うんだけど、確かに山西省では蕎麦サラダ的なメニューをよく見た。その麺の種類にはガチ感を感じるが、味はどうなのか?
山西省を代表する麺とも言われている「莜面栲栳栳(税込1650円)」を注文して食べてみたところ、マジで現地の味がする。
モチッとしつつも歯切れの良い蒸し麺の食感も、ラー油の辛さでお酢の甘みが引き立つスープも、そのまま持ってきたようだ。特に、山西省は酢の名産地でもあるから、その酢の強さとコクの解釈が日本と違う点に非常に現地みが漂っている。もうここでええがな。
・むしろ単体で見ると現地を超えている
さらに、注文するには予約が必要だがビャンビャン麺(税込1650円)もある。これに至っては山西省で見つけられなかった麺なので、あらかじめ予約を入れておいた。平べったく太い麺が特徴的だが、麺が太すぎてワンタンみたいに見える。これがビャンビャン麺か。
食べてみたら、コシのあるワンタンが繋がって麺になったような食感だった。事実、麺も底まで繋がっていて、丼一杯が1~2本である。その豪快さにもまた大陸的なものを感じた。
そんなわけで、麺を食べるために山西省まで行った我々だが、3人満場一致で「ここで十分」という意見に落ち着いたのであった。なんなら単体での麺の種類においては山西省の店より充実している。山西省ではどちらかと言うと、それぞれの店にそれぞれの麺という感じで、ここほど網羅している店には出会わなかった。
・山西省出身の店長さん
その麺の充実っぷりについて、料理人にして店長の李さんに話を聞いてみたところ、故郷は山西省であり、家庭料理から店で覚えたものまで少しずつまとめてこのラインナップとなったとのこと。言わば山西省キュレーションか。
また、そんな麺の種類の多さを魅力の1つとしつつも、かつて宮廷の献上品だったという伝統料理「定襄蒸肉(ていじょうじょうにく)税込1650円」などもラインナップされている。特化の枝葉が麺以外にも伸びているところにも山西感覚を感じた。
そんなわけで、山西省の料理を味わいたい場合はマジで大久保の『山西亭』で事足りるように思う。現地の味とガチ感のあるキュレーションは、店単体で比べたらこちらの方が強い可能性すらある。日本から山西省まで往復8万円以上かかることを考えると、大分コスパの良いリトルトリップと言えるのではないだろうか。
・今回紹介した店舗の情報
店名 山西亭
住所 東京都新宿区大久保2-6-10 地下1階
営業時間 月~土11:00~15:00、17:30~23:30
定休日 日曜日
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼山西省の郷土料理「不烂子(ブランズ)」。塩みのあるカリッとしたじゃがいもと炒め麺に素朴なウマさがある。
▼普通に海老チャーハンとかもウマイ
▼料理を味わうだけならここで十分だ