
【本記事は、ネタバレ無しの前半と、ネタバレありの後半で構成されています】
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が2026年1月30日から公開された。
少し前に公開されたPVでは完全に新規作画のνガンダムが登場し、ガンダムファンの間で話題騒然に。また、「新宿ウォール456」をジャックして歴代のガンダムシリーズも出る広告を流し、広い層から注目を集めました。
そして公開当日にED曲が ガンズ・アンド・ローゼズ「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」であることをサプライズで発表するなど、広報面での徹底した仕込みがうかがえます。
では肝心の映画はどうだったのか? これはガンダムの映画の中でも、特に素晴らしいものの1つだと感じました。とても、辛い。映画館で泣いてる人がいましたが、その気持ちがよくわかる。辛いよこれは……!!
・復習
まず、本作を見るにあたって、先に把握しておくべきガンダム作品から。本作は富野由悠季氏による小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(以下、小説ハサウェイ)』を原作とした映画の、2作目です。
そして小説ハサウェイは、富野由悠季氏の小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン(以下、小説逆シャア)』の続きでもあります。
逆シャアには映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、映画逆シャア)』もありますが、映画逆シャアと小説逆シャアの内容は、ハサウェイにとって重要な部分が異なります。
映画逆シャアでクェス・パラヤを殺したのはチェーン・アギでした。ハサウェイはまだ子供で、クェスに惹かれていたため、逆上して味方であるチェーンを殺してしまいます。
それに対し、小説逆シャアでクェスを殺したのはハサウェイ自身です。アムロを殺そうとするクェスを止めようとして、混乱の中でクェスの機体のコックピットを誤射してしまうのです。それを機に精神を病んでいくわけです。
映画「閃光のハサウェイ」シリーズの原作は小説ハサウェイですが、世界線としては映画逆シャアの続きです。つまり、映画ハサウェイの1作目はもちろんですが、事前の映画逆シャアの視聴も推奨されます。
映画ハサウェイ1作目は、映画逆シャアでの設定はそのままに、原作小説1巻によく沿った内容でした。心理描写などは小説の方が細かい部分もあるため、さらなる理解を求める場合は、映画視聴後に原作小説を読むのも良いでしょう。
・通常版と豪華版パンフ
「キルケーの魔女」では、パンフレットに豪華版と通常版があります。通常版が1200円で、豪華版が3000円です。本記事の参考資料のために豪華版を購入しました。
今作には、公式HPでも記事執筆時点では公開されていない、新しいモビルスーツ(MS)が出てきます。その辺りの情報は通常版パンフレットでも見ることができます。
豪華版には、メタリックな表紙の特典冊子が付属します。こちらには33ページにわたり絵コンテが、6ページはキャラクターの原画が、そして残りは主に背景のアートワークが掲載されています。
MSの情報や出演者のインタビューにだけ興味がある場合は通常版を。絵コンテや背景美術にも関心がある方は豪華版を買うと良いでしょう。
・映像
まずはネタバレ無しの感想から。驚いたのは映像です。明らかに前作から大幅に美しく、リアルになっています。
今作の舞台は主にオーストラリアおよび、いくばくかの周辺のアジアですが、遠景などは特に、実写ではないかと思うよな精巧さと、巧みな光学的表現。
細かい部分の表現も巧みでした。例えば、ある人物は皮靴にスレや傷がついている反面、ある人物の皮靴には無く、もう靴からそのキャラクターの性格や立場などがわかる。
アニメにおいては、往々にして背景のモブキャラなどはそんなに動いたり喋ったりしていないことがありますが、今作は顔の全体すらろくに映らない無名モブでも「そういう環境・立場の人間はそう動くだろうなぁ」みたいな動き方をしています。
全体的に、ハリウッドのようにエキストラを大量動員して撮った、映る人間全員がちゃんと個別に演技している実写映画と同じくらい、どうでもいいようなモブが命をもっています。
その丁寧な仕事は、当然主要キャラクター達にも適応されています。もし一切音声を切って本作を見たとしても、作画の描きこみ・描き分けはだけでそれぞれの人物の過去まで想像できそう。
間違いなく、現時点におけるガンダム史上最高の映像表現が詰め込まれた映画でしょう。
・以下ネタバレ
それでは、ここからはネタバレをしていきます。私の個人的な感想と、考察です。未視聴の方は、ここでお別れいたしましょう。
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は絶賛放映中です。劇場にて「マフティー」の活動をご覧ください。
……
……
……
……
……
いやぁ……今日まで私は、ハサウェイも何か1つでも違っていたら、過激な反地球連邦運動などせず、どこかで平和に暮らせたんじゃないかなって思ってましたよ。
例えばケリア。映画では詳細が描かれていませんが、ハサウェイがマフティーに加わる理由の1つになった女性です。
逆シャアの後に、ハサウェイはうつ病になります。その療養もかねての、地球での植物監査官候補生なわけです。
治療に励むハサウェイに優しくしてくれたのがケリアで、二人は小説ではいい感じになり、ほぼ結婚も見据えた関係になります。
しかしケリアは不法な地球居住者だった。宇宙からの不法移民みたいなものです。正規の許可証を持たないため、結婚などもできません。
また、地球連邦は作中で「マン・ハンター」と呼ばれる警察的な組織を使い、不法居住者を捕らえて宇宙で強制労働に従事させたり遊び半分で虐殺したりと、とても悪いことをしています。
ちなみにハサウェイらがアデレードで行われる地球連邦議会を襲撃しようとしているのは、会議で地球を特権階級だけが住める星にするような法案「地球帰還に関する特例法案」が強行採決されそうだからです。
話を戻しましょう。ハサウェイは研修先の教授のツテで不法居住者の現状や地球連邦の腐敗を知ってしまいます。ケリアが地球連邦から追われる側であることもあって、反連邦政府組織「マフティー」のメンバーになったわけです。
ゆえにケリアと出会わなければとか、ギギと出会わずケリアとハサウェイの仲がこじれず、ケリアがハサウェイを引き留められればとか、あるいは子供ができていればとか。
何か違えば、ハサウェイは平穏な人生を送れただろう……みたいな、たらればを考えることもあったわけですよ。でも「キルケーの魔女」で、そういう余地は無かったように思えてならない。
まだ向き合えない罪として、ハサウェイの中にあるチェーン殺害の記憶。引きずったままのクェスの死。崩壊していくケリアとの関係。元より壊れかけていたであろうハサウェイが、急速に壊れていく。
余りにも詰みすぎているハサウェイの状況が辛すぎる。じゃあハサウェイはいつ詰んだんだと考えると、実際はケリア云々抜きにしても、ハサウェイのような感じすぎる子供がアムロとシャアの影響に曝された時点で、結局は何らかの歪んだ未来にしか行きつけないんじゃないかとも思えるわけです。
まあアムロの影響はともかく、シャアは良くなかった。「キルケーの魔女」で、レーンくん相手に、まるっきりシャアのようなことを口走っていましたからね。
じゃあどうすればあの2人に影響を受けずに済むのかと考えたら、ブライト・ノアとミライ・ヤシマの子供の時点で無理じゃあないかと。救いがない。
ところで「キルケーの魔女」では連邦側の増援にブライト・ノア率いる第十三独立艦隊に増援要請がありましたが、その他の部隊も動員するような描写は無かったように思います。
つまりアデレードの会議を防衛する地球連邦の戦力は、小説版よりも少ない可能性があります。ということは、もしかしたらハサウェイには、まだ助かる可能性があるのでしょうか?
いやでも、レーンの乗る量産型νガンダム相手にアムロを幻視して、虎の子のファンネルミサイルをぶっ放してしまいましたしね。あの瞬間、撃っちまったかぁ……と、将来の負け筋が増えたことで私は胸がキュッとしました。
そういえば、量産型νガンダムです。パージ後は普通に量産型νガンダムでしたが、パージ前のゴテゴテしている機体は何なのだと。
その正体は通常版と豪華版の両方に共通するパンフレットに掲載されています。まさかのアニオリな新機体でした。「TX-ff104 アリュゼウス」といいます。
ペーネロペー配備前にレーンの訓練用に急造された訓練機だったもよう。ハサウェイとレーンの技量差以上にボコボコにされていましたが、スペック自体にも差がありそうです。
というか、小説では一切ハサウェイとレーンの戦いはありませんから、だいぶオリジナル戦闘を盛っていましたね。しかしその判断は、とても良いものだと思います。
小説を読んでいる層は、中巻の内容をやるなら絵的には地味な、哲学的内容がメインなのかなという予想もあったと思うので。しかし派手かつ、パイロットの技量の高さを感じさせる巧みな戦闘が豊富で、とても嬉しくなりました。
そして最後の、クスィーから出てきたガンダムフェイス。やっぱりアナハイムは邪悪ですね。なぜテロリストに引き渡す機体に、アナハイム製だと宣言するようなガンダムフェイスを残しておくんだと。
アナハイムとしては、どちらが勝ってもいいのでしょう。マフティーが万が一勝てば、腐敗した連邦を叩き潰したのはアナハイムの機体となり、マフティー含むその他の反地球連邦系組織もアナハイムの顧客になります。
クスィーが撃破なり鹵獲(ろかく)されて連邦にバレたとしても、問題ありません。そもそも戦争する相手がいなければ地球連邦は存在理由を維持できない。
戦争を成立させるなら、連邦の敵にもそれなりの武装が必要ですし、できれば敵にはある程度強力な武装がある方が良いでしょう。弱ければ軍縮されてしまいます。アナハイムも地球連邦も、持続可能な戦争で生じる経済で生きながらえていますから。
宇宙世紀は、どうしようもなく腐った大人たちの世界です。「キルケーの魔女」では、そのような大人のせいで歪みを抱え病んでしまったハサウェイが、歪みを正さんとしつつも、歪みに組み込まれている様が良く描かれているように感じました。
なんと悲しい話でしょう。そして見どころが多い。私にも、まだまだ見落としている部分があるように思います。もう何回か見たいですね。
参考リンク:機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
Screen Shot::LINE