江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅の踏切は日本一有名なマンガの聖地の1つと言えるだろう。そう、バスケ漫画『スラムダンク』のアニメ初期オープニングでサビ前に出て来る踏切はここがモデルなのだ。晴子さんの後ろの海がキラッキラすぎて印象的なシーンである。
今では国内外から観光客が押し寄せて警察も出動しているというが、こうなる前、私も行ってみたことがあった。ただ、いまいちピンと来なかったことを覚えている。海もアニメほどキラキラでもなかったし、そもそもそこまであのシーンに思い入れがない。聖地ってこんなもんか。
・ピンと来ない理由?
思えば、スラムダンクのメインはあくまでバスケの試合である。ジャンプで見てる時は日常パートを結構読み飛ばしていた。それもそのはず、スラムダンクが連載開始した時、私(中澤)は8歳である。
これ熱いなと思った頃にはすでにクライマックスだった。その後、後追いでコミックスを読んでガチ名作だったことを少しずつ理解できた感じなのでそのせいもあったのかもしれない。
・ふと通りかかった駅
それ以来、聖地巡礼とかは行かなくなっていた私。そんな先日、JRで静岡に向かっていたところ国府津という駅を通った。くにふつ? いや、違う。難読気味のこの駅の読み方を読み仮名を読むまでもなく私は知っている。「こうづ」だ。
JRの境界駅である国府津駅。私が乗りかえる御殿場線もこの駅発で、神奈川県の玄関駅と言えるだろう。何本も走る線路と殺風景なプラットホームの向こうに海が見える。まだ季節には早いが、セミの声が聞こえた気がした。
誘われるように駅を出ると、青い空がまず目に飛び込んでくる。空が広い。建物が少ないため駅前からも海が見える。
・この光景は
そんな海へ出る道は、すぐにあった。ちょっとひなびたコンクリートと海。まさに私が抱いていた国府津のイメージである。
海を舐めるように走る自動車専用道路・西湘バイパス。その高架をくぐると、砂利と砂浜が半々くらいの浜辺がある。工事現場みたいな高架下、その下にある浜辺も美しいわけではない。ただ、その雰囲気に涙が出そうになった。なぜならば……
『I’ll-アイル-』でめっちゃ出てきた光景なのだ。月刊ジャンプで連載されていたこのマンガ。連載期間は1996年から2005年で、スラムダンク後半で気持ちが追いついてきた私にとって、同じバスケ漫画でも年齢的にはこちらの方がリアルタイムにドンピシャであった。
・作中に出てきまくる
そんな『I’ll-アイル-』には国府津の海のカットがよく出てくる。そもそも日常の描写が多めで青臭さに焦点が当てられた作品なので、部活の帰り道とかに海でよく黄昏るのだが、試合中も回想で国府津の海が出てくるのだ。
私が好きだったのは線がとにかく美しいところ。当時、私が読んでいたのは動的な表現のマンガばかりだったので、ひとコマひとコマがイラストみたいな『I’ll-アイル-』にとにかく衝撃を受けた。線がスッキリしすぎていてもはや涼しい。
・万感の海
その線で描かれるちょっと痛いくらいの青春は浸りすぎていて、大阪田舎のぼっちを憧れさせるには十分であった。おりしも中三。何度チャリでりんくうタウンに行き向こう岸に見える関西国際空港相手に黄昏れたことか。
あの時、あんなに憧れた光景が目の前に。海は思っていたよりずっと綺麗である。ああ……これが国府津の海……。
ブチ上がりすぎたので、『I’ll-アイル-』っぽい世界観のクソコラを作ってみた。だあほがッ!
手元にコミックスがないので、私の想像上の『I’ll-アイル-』ということをご理解いただければと思う。なお、想像したのは国府津高校だけど、私が一番好きなのは葉山崎高校のヴィシャス鉄朗だ。
・『I’ll-アイル-』を忘れない
それにしても、実際、国府津の海を目の当たりにすると、海そのものよりも高架が突き出している雰囲気にグッと来るものがあった。ラストシーンがもろここなのである。『I’ll-アイル-』って終わり方がめちゃくちゃ良いんだよなあ。
なお、作者の浅田弘幸さんはその後『テガミバチ』で知られる人になったので、方向性の違う『I’ll-アイル-』の影はちょっと薄い気もしなくもない。ただ、私にとってのバスケ漫画の聖地は鎌倉高校前駅の踏切ではなく国府津の海。何にもなかった田舎の中学生にまばゆい憧れをくれてありがとう。アチョーーー!!
参考リンク:Amazon「I’ll-アイル-(Kindle版)」
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.