漫画『ゴールデンカムイ』の足跡をたどる旅、小樽札幌に引き続き、最後は函館編。北海道各地を転戦した一行は、始まりの地であり、終わりの地でもある函館に集結する。

函館といえば洋館めぐりや函館山の夜景、いち早く西洋文化を採り入れた洋食などが魅力だが、今回は杉元たちの動きを追いたい!

引き続きそれぞれのエピソード、セリフ、設定は原作漫画に準拠している。映画版の先も多く含まれるためネタバレ注意だ。


・箱館戦争の激戦地「五稜郭」

暗号が解けた瞬間(コミックス28巻)、浮かび上がる星形に鳥肌が立つような興奮を覚えた読者も多いだろう。「よりにもよってここか……」と土方歳三がつぶやく箱館戦争の激戦地「五稜郭」。クライマックスにこれ以上の舞台はない。

……とその前に、鯉登少年誘拐事件(コミックス20巻)の舞台でもある。鯉登パパが走った橋はここかな?

大がかりな狂言誘拐だったわけだが、結局は父親が必死で駆けつけるという事実を目にした尾形百之助の苛立ちが、闇深くもあり悲しくもあり。尾形の「善人嫌い」が加速していくが、それらはすべて “自分が得られなかったモノ” を欲しがる気持ちだろう。



現在、公園内には「箱館奉行所」が再現されている。作中の時代には存在しなかったものだけれど、回想シーンに登場。

五稜郭では箱館戦争後にほぼすべての建物が解体されるのだが、土方歳三によると「兵糧庫」は戦争前からあったという。中に侵入して床下を掘り返す杉元一行! 現在は外観は見学自由、内部は例年8月のみ特別見学が可能とのこと。

そして奉行所の向こうに回ると、かつて馬用の井戸だったとされ、作中で金塊の隠し場所となっていた井戸跡が! もうこれは公認と言っていいだろう。なにせ冬季には箱館奉行所のスタッフが作品ファンのために雪かきをして掘り出してくれているのだ。

迎える五稜郭攻囲戦。全方位に死角なく十字砲火ができる稜堡(りょうほ=突き出した部分)は、もともと戦闘特化構造なのだそうだけれど、日露戦争を経験した杉元は「さらに塹壕が必要」と指摘する。

第七師団は橋脚を盾に前進、決死の白兵戦(コミックス29巻)に。「父の愛があれば息子に砲弾は落ちん!!」の鶴見中尉が侵入してくる。

この戦いでは都丹庵士の姿が印象深い。夏太郎、門倉、キラウシなど一人ひとりに見せ場があり、ほんの1コマ、ほんの一瞬のキャラクターの表情にあらゆる感情、背景、人物同士の関係性をのせる野田サトル先生の表現力に震える。

激戦の末、杉元一行は北口から脱出。さすがに現地で漫画を読みふけるわけにはいかなかったのだが、展望スポット「五稜郭タワー」から眺めると全体像がつかめ、尾形と頭巾ちゃんが待機していたのはあの辺りの防風林かな、などと空想がはかどる。



・鶴見中尉がパクついている「大沼団子」

閑話休題。鯉登少尉らが「大沼公園駅名物の大沼団子です」と鶴見中尉に差し入れする団子(コミックス29巻)は、そのままのパッケージで現在も売られている!

製造するのは実際にJR大沼公園駅のすぐ前にある「沼の家(ぬまのや)」。明治時代、蒸気機関車に乗って大沼にやってくる観光客向けに販売したのが始まりだそう。

漫画のとおり串に刺さっておらず、繭玉(まゆだま)のような小ぶりの粒を爪ようじですくうように食べる。これは大沼に浮かぶ小島を表現しているのだそう。作中のビジュアルそのまま、半分がしょうゆ、半分があんこ(胡麻バージョンもあり)で大折と小折あり。

甘さ控えめの優しい味に、ふわふわの団子が非常に美味! ひとつひとつが小さいので、軽い食感でひょいぱく食べられる。和菓子が好物の鶴見中尉も大満足である。

が、閉店時刻の18時よりもずっと前に完売してしまうことも多いそうで、日によって時刻が異なるため購入のハードルはやや高め。列に並んでいても在庫がなくなった時点で販売終了となるので、確実に食べたい場合は早めの来店がおすすめだ。『ゴールデンカムイ』ファンでなくとも必食、大沼が誇る絶品グルメ! 



・土方歳三終焉の地「一本木関門」

五稜郭の脱出後、物語の舞台は暴走列車こと蒸気機関車「しづか号」へと移る。少年期を函館で過ごした鯉登少尉が「よく知っている」と話す終着駅は「一本木関門」!

歴史上の通説では土方歳三が戦死したとされる場所(諸説あり)だ。現在、現場近くの緑地には「土方歳三最期の地」の碑が建てられ、見学自由になっている。

とはいえ埋葬場所はいまだ不明であるために、実は土方歳三が生きていたという壮大な『ゴールデンカムイ』の物語に真実味を与えている。

かつては馬で駆け抜けられるほど周囲が開けていたのだろうが、公共施設の敷地内にひっそりとたたずむ石碑。函館市の変貌に土方も驚くだろう。

当たり前のことなのだが、いま立っているここには100年前、1000年前にも(たぶん)地面があり、人がいて、日々の暮らしがあったのだと思うとロマン。

日露戦争、ロシアのパルチザン、明治維新、アイヌ文化……いくつもの物語がひとつの川に合流するような壮大なストーリーに改めて胸が熱くなる。



・「旧ロシア領事館」は改修工事中

なお、金塊争奪戦の本当の始まりの地であり、鯉登少年誘拐事件でも登場した「旧ロシア領事館」は2025年春まで改修工事を実施中。立ち入り禁止となっており、ライトアップなどもされていない。

けれど劇中そのまま、急な坂の途中に建っており、眼下に港が一望できる。馬が怖がって走れないというのも納得。

このほか函館には回天丸の主砲が隠されていたとされる三十三観音像、マンスール大活躍の函館山、機関車が沈んだ函館湾などがある。

地理的にも歴史的にも内地とはまったく異なる姿、異なる成り立ちを見せる北海道。一生に一度は行かなければならない理由が、『ゴールデンカムイ』によって確実にひとつ増えた。

今秋にはWOWOWにてドラマシリーズ第1弾が始まる。公開が待ちきれない!


参考リンク:函館市公式観光サイト「はこぶら」函館経済新聞
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.