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ミスド20年以上ぶりの男が生まれて初めて『ポン・デ・リング』を食べてみた / そして「思いもよらぬ感情」を味わった

2023年7月31日

ミスタードーナツのポン・デ・リングが、このたび2023年で発売20周年を迎えたらしい。しかし筆者は三十路を優に越えているが食べたことがない。ミスタードーナツ自体、20年以上前の小学生時代に食べたきりである。その頃はポン・デ・リングも発売されてすらいなかった。

ゆえに、多くの人々にとってポン・デ・リングは親しき知人なのだろうが、筆者にとっては未だ完全なる新顔なのである。この憂慮すべき「ねじれ現象」を解決するため、筆者はようやく重すぎる腰を上げることにした。20周年を機に、初実食レビューに挑みたい


このご時世においてポン・デ・リングを新顔呼ばわりする人間には特殊な事情があるに違いないと思うかもしれないが、そんなことはない。「あれをドーナツとは認めない」などと厄介な原理主義を決め込んでいるわけでもない。

ただただ単純に、筆者が極度のドーナツ音痴なだけである。いつ、どのようなタイミングでドーナツを食べるべきなのか、あまりよくわからぬまま生きてきただけである。十分特殊だし余計厄介ではないかと言われそうだがさておき、そういう人間に役立つサービスがある。

Uber Eatsだ。意外なことに、ミスタードーナツがUber Eatsを導入したのはつい最近、今年7月10日である。待望していた人も多いのではなかろうか。ともあれ丁度良く始まってくれた同サービスのおかげで、気軽にポン・デ・リングを注文することができた。

まもなく届けられた実物を前にすると、しみじみとした感慨があった。独特の形を見て、「本物だ」と思った。

わかっていても、見た目に少し驚いてしまった。慣れている人にはどうということもないだろうが、こういった形状のものを数珠しか見たことのない人間にしてみれば無理からぬことである。

同時に、ようやく周囲の人々に一歩追いつけたのだと感じ入った。すかさず二歩目を踏み出し、初対面のポン・デ・リングにかぶりつくと、優しい食感が迎え入れてくれた。

柔らかい。歯先に押されてしなるような、もちもちとした生地。そして砂糖がまぶされた外見に反して、絶妙に引き際をわきまえた甘さ具合。味わいにひときわ飛び抜けたものがあるわけではないが、実に食べやすく美味しい。心を満たしてくれる。

20年の歳月によって磨き抜かれ、完成されたクオリティがそこにはあった──と、二口目、三口目を食べているあたりでは、そのように無難に記事を着地させることを考えていた。しかし食べ終わる頃には、筆者は思いもよらぬ感情に襲われていた。

寝たい。眠いわけではないが、寝たい。この幸せな気分のまま一日を締めくくりたい。猛烈にそんな睡眠欲が湧き上がった。

やらねばならないことはあるのだが、寝たい。この欲には抗いがたい。たとえどれだけ嫌なことがあった後でも、ポン・デ・リングを食べればきっと同じことを思うだろう。この和らいだ心地のまま寝たいと。

どんな時も、何があろうと、一日を円満に終わらせる力がポン・デ・リングにはあるのだ。そういう大いなる作用が秘められているのだ。

なるほど、定番の商品となるのも頷ける。一方で、ミスタードーナツの店内が就寝する人々で埋め尽くされないのが不思議で仕方ない。自分なら食べ終えた瞬間に「ああ、今日はもういいや」とテーブルに伏せてしまうに違いない。皆よく耐えているなと思う。

この期に及んでは、我がドーナツ音痴も少し快方に向かった気がする。いつドーナツを食べればよいかわかった気がする。前向きにどうでもよくなりたい時、宙ぶらりんになりたい時、抱えているものを一旦放り出したい時、人はドーナツを食べるのだ。

色々なことを教わったし、色々な意味で満足した。これで周囲の人々と同じ「輪」に入れるだろう。ポン・デ・リングの収まった腹を撫でながら、筆者は幸福の中で目を閉じるのであった。

参考リンク:ミスタードーナツ 「白いポン・デ・リング」、「ニュースリリース(PDF)」
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

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