ここは京都の四条大橋。地元民も観光客も100%やってくるスポット。端のそばには圧倒的な存在感を放つ建物が3つある。劇場「南座」&にしんそば「松葉」、中華の「東華菜館」、そして今回の主役「レストラン菊水」だ。
私は以前、一連のシリーズ的な記事でこれ等の店をレポートした。しかし「レストラン菊水」については、悔いを残す結果となった。1階と2階でメニューが別(しかも2階の方がガチっぽい)だと知らぬまま、1階だけレビューしたのだ。
このままでは死ねぬ……! いつか行ってやろうと思っていたら、わりとすぐに機会が訪れた。これが創業107年のレジェンド級洋食店の本気!!!
・創業107年
あの日、向かいの にしんそば「松葉」から見た「レストラン菊水」の2階の、何と魅力的だったことか。
きっと私と同じ様に ささやかな関心と憧れを抱くも、それに応えぬまま生きている京都人や観光客は多いことだろう。断言するが、諭吉一人分ほど余裕を作ったら、すぐに行った方が良い。
ちなみに「レストラン菊水」は大正5年(1916年)の創業。戦争もコロナ禍も乗り切り、四条大橋のたもとという要所で107年も繁栄し続けてきたというのは凄いことだ。
このアイコニックな建物は大正15年(1926年)に建てたものだそう。あと3年で築100年。建築物としても重要で、文化庁のHPを見ると “大正期の京都の新建築活動の規範的作品” として登録有形文化財に登録されている。
・2階へ
まずは前回同様に1階から入口へ。ここでしっかりと2階が目当てであることを伝えた。お店の人はエレベーターを呼ぼうとしたが、それを断って階段をチョイス。ついに伝説の2階へ踏み込む時が来た。
幅の細い階段に時代を感じる。昇り始めてすぐのところには、少女と林檎と薔薇の彫刻のようなものが。有名な人の作だろうか? よくわからない。後ろに別の客のグループがいて急いでいたらブレてしまった。まあ外観が分かればいいだろう。
上を眺めるとこんな感じ。
あとでトイレに行くと言って、こっそり戻ってきて撮った上からの眺めはこう。クラシカルぅ!
そしてこれが室内だ!
・おあつらえディナー
案内されたのは、上の写真で見せた「松葉」からの眺めのど真ん中に写っているテーブル。興味を持つきっかけとなった風景の、まさにその中心にやってきたというわけだ。テーブルから見た室内はこう。
要予約で1万円越えのスペシャルディナーも気になったが、こちらは予算オーバーなので
5500円の「祇園おあつらえディナー」をオーダーした。ディナーだけど終日オーダー可能だそう。オードブル、スープ、メイン、デザートの全ての要素で好きなものを選べるようになっている。何を選んだかはお楽しみに。
ドリンクは、これでも仕事中&この後も仕事なのでメロンソーダをオーダーした。ワインのメニューが凄まじく豊富で、何ページにもわたって赤と白の銘柄が並んでいる。
いちおうその他のアルコールもあるが、ワインほど気合は入っていない。ワインを飲めということなのだろう。まあフレンチだしね。
・アミューズ
さて、テーブルの上にはコース料理用のフルセット。やべぇな、こいつはマジなヤツだ……。
困ったことに、私は陽光も法も届かぬSAITAMAの地下で生きる低級庶民。原料不明のディストピア飯しか食べられない人生を送っている。フレンチのコースにおけるテーブルマナーの知識は無い。
ゆえに、ここからは右手に食器、左手にカメラという行儀もクソも無いスタイルで突貫する。皆も料理だけ見ていてくれ!
まず出てきたのはアミューズ!(とパンも)
これは詳細がメニューに載っていない。その時々で変わる可能性がある。私の時に出てきたのは……たぶんホタテの貝柱にイクラが乗ったものだ。
食感からはホタテとわからんかったくらい、すごくチュルンとしたホタテだった。レモンがベースのソースがかかっており、さっぱりしていてウマい! アミュージングなクオリティ。
パンもウマい。なんだろう。たぶん普通のパンだと思うのだけれど、ウマくて沢山食べてしまった。まだアミューズなのにパンを食べる勢いが本番。なくなるとお代わりが来るので幸福度が高い。
バターも溶けないように冷えた専用の容器に入っている。こういう所でも、いい待遇を受けている感が高まって嬉しい。
・牛肉よりウマいカタツムリ
続くはオードブル。私が選んだのは「エスカルゴの焙り焼き 春大根のケース詰め」だ。
私の知るエスカルゴはサイゼのヤツだ。あれもウマいが、菊水のエスカルゴはダンチでやべぇぞ……!
なんだよこれ? カタツムリのくせに、その柔らかさは霜降り和牛。コクと旨味は並の肉では太刀打ちできない超高濃度。そしてカタツムリ的なスメルはしない。ドチャクソに美味すぎる……!! もう牛は滅ぼして全部カタツムリでいいだろ!!
これがリンゴマイマイの本気か。牛や豚、鶏など、美味い肉が幾らでもある中で、グルメなフランス人がカタツムリに走った心裏が今まで理解できなかった。しかし今ならわかる。カタツムリはマジで美味い。本気のカタツムリは牛を消し炭にする。
・何かおしゃれなスープ
続いてはスープ。「冷製パリ風クリームスープ パリソワーズ」。ぶっちゃけ何なのかわからないまま頼んだし、飲んだ今も何なのか分かっていない。でもハイカラってそういうことだと思う。
やたらデカいグラスだなと思ったら、スープの入った器がぬるくならないよう、下に氷水の入った容器が合体していた。すげぇ……! こんなにも冷製であることを徹底してクオリティの維持に努めるスープは初めてだ。
スープはこんな感じ。表面はなんか白いのと黄色いのが分離している。
スプーンですくうとこうなる。サワー感は控えめで、クリーミーな喉ごしとフレッシュな味わいがウマかった。
・魚
魚料理は「そら豆と桜エビ入クリームソース」だが、桜エビが無かったので白魚にしたとのことだった。メインの魚は鯛だ。白と緑と黄色とキツネ色。美しいです。
ナイフで切って、ソース等を絡めつつ鯛をフォークで刺し……
鯛が、表面はカリッと焼かれているのに中はフワフワでホロホロすぎる仕上がりゆえ、全く刺さらない。フォークですくうしかない仕上がり。
脂の乗った鯛と、ドライ気味な白魚。どちらも塩味が効いている。そこにそら豆のクシクシしたハードめな食感と豆フレーバー。コースを構成する1パーツにしか過ぎないはずだが、これだけでストーリーが仕上がっている。うめぇ。
・メイン
メインディッシュは「ビーフシチュー ボルドー風」だ。迷ってお店の人にお勧めを聞き、単品でもよく出る人気の品とのことで選んだ。
雰囲気のあるクールな容器で登場。火がついており、煮えている。
さっき上で、牛を滅ぼしてカタツムリにしろと言ったが、あれは嘘だ。このシチューに使う分の牛は残しておかねばならない。
紙粘土のように繊維が千切れていく肉。柔らかすぎず硬すぎず、牛肉の食べ応えを堪能するのに必要なだけの食感が維持された煮え具合。
添えられた野菜もウマい。このニンジンのカタマリ、アメリカのサラダに入ってる緑や青のゼリーよりも軟らかいぞ! うめぇ、うめぇなぁ。
・デザート
最後はデザート。3種類から選べたのだが、私のチョイスは「菊水オリジナル手作りケーキ」。こいつは何種類かあるオリジナルケーキの中から好きなのを選べるというスタイルでテンションがあがる。
いつも同じか不明だが、この日はこんな感じ。ショートケーキとかモンブランとかチーズケーキとか色々あった。
私が選んだのはこれ。菊水はケーキもやれるらしく、これまでの料理と同じクオリティで、とても美味かった。
・2階はガチ
この日、隣の南座では舟木一夫さんのコンサートが行われていた。向かいのテーブルにはそのコンサートが目当て(全日程を制覇するもよう)のマダムたちがおり、彼女らの会話が聞こえて把握したのだ。
マダムたちは実にいい生活を送ってそうな いでたちの方々で、コンサートの前に菊水で食事ができて良かったと、お店の方に丁寧なお礼を述べ、満ち足りた表情で出て行った。いい生活を送っていると所作も良くなるのだろう。
低級庶民の私を満足させるのは容易いだろうが、あの手のマダムたちを満足させるには、本物でなければならない。そして、ここは本物だ。
初めから終わりまで、外から見て抱いていた “なんか良さそう” な期待をパーフェクトに満たす、最高の料理だった! 店内の雰囲気も全く疲れさせないのが良い。
ソロでも一切の気負いなく料理にキャッキャできるというのも素晴らしい! 多くのこの手の店は2名以上がマストだったりするからな。
「レストラン菊水」は1階の庶民向けハイカラフードも素晴らしかった。それは間違いない。しかし2階の料理は別世界だ! 京都を観光し、締めはイイ感じの洋食な気分……となったら、菊水の2階はガチだ!! なお、観光客が戻って人が凄いので、事前に予約するのが確実だと思う。
▼メロンソーダ。レモンが入ってるところがテクい。
▼ポストカードもらえた。昭和初期の四条大橋の風景らしい。
▼四条大橋シリーズ「レストラン菊水」1階編
▼四条大橋シリーズ「東華菜館 本店」 神中華
▼四条大橋シリーズ「松葉」 元祖にしんそば