ロケットニュース24

コロナ禍での出産に立ち会ってみた / 考えられない「大失態」からの…

2022年2月27日

その日、私は部屋を徹底的に掃除していた。数日後には我が子がここに寝るかもしれない。そう思うと、掃除機をかける行為1つにも気合が入るというものだ。

しかし、私はあまりにも作業に夢中になっていたらしい。そのため、スマホを見たときに呼吸が止まりそうになった。というか、あのとき私の心臓は実際にちょっと止まったかもしれない。

・初めての出産立ち会い

すでにお察しの人も多いかと思うが、本記事で取り上げるのは私が出産に立ち会った話。めちゃくちゃ個人的なことではあるが、これほど貴重な経験はなかなか出来るもんじゃない。

なにより、立ち会おうかどうか悩んでいる人、あるいはこれから出産を控える方にとって何かしら参考になるかも……と思ったので紹介したい。


・社会状況的に立ち会いがNGな病院も

さて、まず押さえておくべきなのは、コロナ禍の現在(2022年2月時点)、出産時の立ち会い自体がNGの病院も多いということだ。また、立ち会いOKの病院でも、何かしらの制限を設けているところがほとんど

たとえば、人数制限とか、立ち会いの時間制限、面会時間制限……などなど。妻が出産した病院もまさにそうで、立ち会えるのは私(夫)のみ。また、その時間も生まれる直前のみ。「今だ」というときになったら、妻からLINEで連絡が来る手はずだった。

つまるところ、連絡が入ったら私だけパッと行ってパッと帰るイメージ。おそらく、私が病院内に滞在できるのは長くて4時間ほどで、通常に比べたらクイックモーションのような立ち会いになるはず。

それだけに、生まれる直前のタイミングを逃してはならないと思っていた……が! 私はそこで致命的なミスをおかしてしまう。


・病院に呼ばれるまで何をするか?

あれは出産予定日の朝7時過ぎのこと。妻から陣痛促進剤の投与が始まった旨のLINEが来た。


……この時点でお察しの方もいるだろうが、今回わたしたち夫婦が選んだのはいわゆる『計画分娩』で、超ザックリ言うならば「陣痛促進剤が始まったら試合開始」ってことだ。

ただ、促進剤を投与したからといってサクっと産まれるわけではない。私は「陣痛 出産までの平均時間 初産婦」のワードでGoogle先生に相談した結果、「病院に呼ばれるのは早くても夕方くらいかな?」と予想していた。

さらに、妻からこんなLINEが。


こりゃあ今日中に産まれたらラッキーくらいに思っていた方が良さそうだ。焦っても仕方がないから、家事でもするか。そう思った私は、ひとまず掃除で気を紛らわせることにした。

ただ、着信に気づかないとマズいので、スマホのバイブを解除した上で、洗面所・トイレと掃除していく。そして、冒頭で述べたように掃除機をかけたあと、13時前にスマホを見たら……



!!!!


もしや……



ファアアアアアアアアアア!


さらに……




うん?


これは……


「もう産んどきます」!?


なんという失態だろうか。着信音が聞こえるようにスマホのバイブを解除したのに、掃除機の音がすべてをかき消していたなんて。ひとまず私は、


「わかっあ」と、混乱が前面に出た誤字LINEを投下。自分が やらかしたこと以外なにも分かっていなかったが、スマホと携帯と鍵とマスクだけ持って部屋着のまま病院まで全力ダッシュした。大げさではなく、信号で止まる以外はノンストップである。



走って……



走って……



走って……



病院の入り口に着いたとき、自動扉に映った私は頭から湯気を出していた。こんな状態では体温検知機に弾かれる可能性もある。「ピピピ」と鳴って止められたらどうしようかと心配したが、奇跡的に通過。

そのまま病院内を進んでいき、分娩室に通じる部屋のインターホンを押す。割とマジで「もう産まれました」という反応を覚悟していたら……! 続きは次のページでどうぞ。


執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

・まだ産まれてなかった

対応してくれた女性スタッフはこう言う。


「いま9.5cmといったところですね。10cmになったら中にお呼びしますので、ここでしばらくお待ちください」


9.5cmって何のことだっけ? と思ったが、やらかした罪悪感ゆえに質問できなかった私は、「分かりました!」とだけ返事。それから病院のベンチに座って再びGoogle先生に教えを請い、9.5cmとは子宮口の開き具合のことを指すと理解した。

スタッフの話から考えると、10cmまで開いたらブルーシグナル点灯といったところか。あと5mm。もうすぐやん……と思うかもしれないが、結果からいうと私はここから分娩室に入るまで3時間ほど待つことになる。


まぁ待つ分には全然構わない。ただここで、全力疾走が喉の渇きという形で私を苦しめることになった。水でも買えば解決する話なのだが、いつ呼ばれるか分からないから「ここでお待ち下さい」と言われた場所を離れてコンビニまで行くわけにはいかない。

また、もし私の周囲に親戚がいたら「ちょっと水買ってくる」と言えるのだが、その場には私しかいない。先に述べたように、病院に行けるのは妊婦以外に1人だけと制限されていたからだ。

まさか、コロナ禍が立ち会い人の喉にまで影響を与えるとは……と思いながら渇きに耐えることになったので、私と同じような条件で立ち会う人はお気をつけいただきたい。

そしてもちろん、出産予定日にスマホのバイブを解除したまま掃除機をかけることだけは絶対にしてはいけない。


・分娩室へ

さて、喉がカラカラになった状態で待つこと3時間。ドアが開いて、「和才さーん、中へどうぞ」と声がかかった。いよいよである。

スタッフに導かれるまま分娩室に入ると、ピッピッという規則音が耳に入ってきた。心電図的な機器だろうか。ドラマでよく見るやつだ。

ベッドに目を向ければ、見慣れない病院用のマスクをした妻の姿が。点滴やら酸素ボンベやらに取り囲まれた妻は、助産師さんにマッサージらしき処置をされていた。ときおり医師が来ては妻の状況を確認し、周囲のスタッフに何やら指示を与える。

想像していた通りの光景……と言ってしまえばそれまでだが、実際に目の当たりにすると圧倒される。あまりにも圧倒されてビビったからか、助産師さんが「ご主人、しんどくなったら外に出ても全然大丈夫ですよ〜」と優しく声をかけてくれた。

いまこの部屋で、なぜか私が1番心配されているという事実。その おかしさに妻が笑い、それを見て私もちょっと笑った。


・緊張感が高まる

しかしながら、時間の経過とともに笑う余裕などなくなってくる。どうやら、赤ちゃんがなかなか動き出さないもよう。医師の口からは「状況によっては帝王切開での処置もありえます」的な説明があり、私の中で緊張が高まっていく。

その気持ちをなだめるかのように、助産師さんが私と妻に話しかけてくれる。あまりにも私がテンパっていたので内容は覚えていないが、落ち着いた口調だけは今も記憶にある。なんと言うか、産まれる前から その場にいる医療スタッフ全員への感謝が止まらなかった。


そうこうして、私が分娩室に入って2時間くらい経過した頃だろうか。ようやく赤ちゃんが重い腰を上げたらしい。待望のムーブオンに胸をなでおろす一同。

ただ、そこから妻が苦痛の表情を見せる頻度が多くなる。医療スタッフの皆さんも何やら慌ただしくなる。その状況で、助産師さんの1人が私にこう言う。


「いきむタイミングで奥さんの頭をちょっと持ち上げて下さい〜」


もちろん私は引き受けた。ベッドの横に立ち、助産師さんの合図とともに妻の頭をちょっと持ち上げ、合図とともに下ろす。少しでも “いい感じの角度” になるよう、ゆっくりゆっくり動かす。渾身(こんしん)の微調整。


その作業を3回ほど繰り返した頃だろうか。誰かのひと声で、分娩室の空気が一気に変わったことが私にも分かった。


「もう頭が出てますよ〜!」


来た! ようやく射した光明! トンネルの出口が見えたぞ!! ……と思うと同時に、ド素人である私は「誰だって頭部より肩の方がデカいんだから、今からが1番苦しいのではないか?」と単純に考えた。

これ以上大変になる? もう見てられない。私は妻の頭を支えながら何か声をかけたような気がするが、混乱していたので何と言ったかよく覚えていない。ただただ、この時間がなるべく早く終わってくれることを心の底から願った。


早く出てこい!


早く出てこい!!


そう思いながら医師の方を見ると……


うん?


なんだあれ?



あのビローンとしたヤツなに?


ハッ!


あれが「へその緒」というヤツか!


つまり「へその緒」が出てる?


え?


さっき頭が出たばかりなのに もう「へその緒」?


え?


ってことは……


……


……


……


……



(おわり)


執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.


▼ちなみに、私は予定日周辺で有給を入れまくった。妻の入院日等が決まったのは産まれる1週間前。直前にならないとスケジュールが確定しないことは分かっていたので、2ヶ月ほど前からヤマを張って有給を取ったらうまくいった形。ただ、予定日と出産日がズレることはよくあるので、立ち会いたい人は事前に上司に相談しておくことが大事かと思う


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