同人誌即売会。それはオタクにとっての一大イベントである。

本やグッズの販売、コスプレ……それぞれの方法で「好き」を共有できるあの空間は、何物にも代えがたいものだと思う。

かく言う筆者もそんな即売会が楽しすぎて、もう何度もサークル参加(作品を販売する側として参加すること)しているのだが……

数年前に1度だけ「これはちょっと……」と思った出来事があった。


・事の発端(ほったん)

同人誌即売会というと夏と年末に東京ビッグサイトで行われる「コミケ」が有名だが、実は他の地域でも結構な頻度で開催されている。本記事で紹介するのはそんな地方の即売会で起こった出来事だ。

その日も筆者はサークル側としてイベントに参加することになっており、「作品を手に取ってもらえるといいな」とか「Twitterのフォロワーさんも参加されるみたいだしお話できたらいいな」とワクワクしながら作品を自分のスペースに陳列していった。

いよいよ即売会がスタートし、一気に会場が活気づく。

さっそく筆者の作品を手に取ってくださる方もおり、いやが上にもテンションが上がっていく。これだよこれ~!! この瞬間のために頑張って原稿描いた!!


そして、開始から1時間ほど経過した頃である。

1人の女性が、筆者のスペースの前で足を止めてくれた。作品に興味を持ってくれたのかな、と思い「こんにちは」と挨拶をする。

作品の表紙を見て、「〇〇(キャラ名)お好きなんですか?」と聞いてくる女性。

おっ、これは同志か!? 同じキャラを好きな人と話せるのは、やっぱり楽しいものである。

「そうなんですよ~! かわいいですよね!」

と、ウキウキしながら推しについて話をする。しかし、これが地獄の始まりだった。


・長い

「あれ?」と思ったのは、女性と話し始めてから20分ほど経った時のことだ。女性は作品を手に取るわけでもなく、スペースの前でひたすら話を続けている。

普通、列のない1つのサークルに立ち寄る時間は5分もあれば十分なくらいだ。どれを買おうか迷ったとしても、さすがに10分も同じサークルの前にいる人はなかなかいないと思う。

しかも……なんかいつの間にか推しのことじゃなくて仕事の愚痴になってないか?

ちなみに、こちらの女性とは完全に初対面である。SNSなどで繋がりがあるならまあこういう話になるのも分からないでもないが、別にそういうわけでもない。

このままでは延々と話が続きそうな気配を察知した筆者は、秘技「すみません、ちょっとお手洗い行ってきますね!」を発動した。

いや、別に本当にお手洗いに行きたかったわけではないけれど、この場から離れる最適な理由がそれくらいしか思いつかなかったのだ。

「あ、分かりました!」

すんなりと聞き入れてくれる女性。

よかった、これで解放される……! と安堵した、次の瞬間である。


「また後で来ますね!」


───いややめてぇぇぇぇぇぇえええええ!?!?!?!?!!?!!?!?!?!


・再登場

その後、タイミングを見計らって再度スペースに戻った筆者。例の女性は付近には見当たらず、どうやら他の場所に行っているらしい。

サークルもたくさんあるし、しばらくは大丈夫かな……ほっとしたのもつかの間、20分経つか経たないかのうちに「どうも~」と聞き覚えのある声が。

女性、再登場である。後にも先にも、この時ほど愛想笑いをしたことはないように思う。いやマジで。

この時点で、先ほどの20分も含めて確実に1時間半は女性との会話が続いていた。

なるべく笑顔を作るようにはしていたものの、確実に目は死んでいた。異様な疲労感のせいで、リアクションも底を尽きかけている。あれ、私何しに同人誌即売会に来たんだっけ……。


どうしよう、これ「そろそろお引き取りを……」って言った方がいいかな!? でも、後ろに誰もいないのに「お引き取りを」って言ったらあからさまに「どいてくれ」って感じになっちゃうよね……!?

試しに「他のサークルさんにも素敵な作品がたくさんありますよ! せっかくのイベントですし、色々見てきては?」的なことを言ってみたものの、「ほんとですね~」と返されて終わりだった。完敗である。

結局、「これ以上ここにいても、イベントを楽しむことはできないな……」と察し、再度お手洗い作戦を発動。女性がいなくなった隙に早々に撤退したのだった。


・交流も醍醐味

色々と書いてしまったけれど、本来同人誌即売会で他の方と交流するのはとても楽しいものである。この時は話の内容が内容だったので「マジか……」と思ってしまったけれど、普段なら筆者もそういった交流は大歓迎だ。

「いつも見てます!」などとお声がけいただけると、「本当にこの方が私の作品を見てくださってるんだ!!」と実感が湧いてめちゃくちゃ励みになる。

ただ、せっかくサークル参加するならやはり自分の作品を多くの人に見てもらいたいとも思う。これは人によるかもしれないけれど、少なくとも筆者はそう思う派だ。

なので、もしサークル参加している方とゆっくり交流したい! と思ったなら、スペースを離れて買い物に出たタイミングなどでお声がけいただけると大変ありがたい。

あまり長くスペースを空けるわけにもいかないのでお話できる時間は限られてしまうかもしれないけれど、それでもスペース前で話すよりはこちらも落ち着いて話ができるはずだ。

スペースにいると、どうしても他の方の対応もしなければ……と割と気を張っていることも多いので。

筆者も周りをしっかり見られる方ではないので、自分自身も気をつけていかないとな……と学んだ出来事だった。

執筆・イラスト:うどん粉
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