私(佐藤)は片づけのできない人間だ。モノの管理が大の苦手なのでコレクター(収集家)を尊敬している。集めたモノを管理できる人がスゴイと思う。でもなぜ集めるのか不思議に思っている。
コレクターの実態を知るために、バンド界でも屈指のコレクターとして知られるナカジマノブさんにお話を聞いた。収集の魅力について尋ねたところ人生の本質を垣間見ることができた。
・コレクター、ナカジマノブ
彼がドラムを務める「人間椅子」は、結成30周年(2019年)を超える大ベテランのロックバンドである。2020年にヨーロッパツアーを行い海外でも注目を集め、2021年8月4日に通算22枚目のオリジナルアルバム『苦楽』をリリースしている。
その人間椅子のノブさんには過去に「ダムカード」の魅力について話を聞いている。彼の収集対象はダムカードだけかと思ったらそうではなかった。コレクトしているモノの一部を挙げて頂いたところ以下の通りだ。
「レトロ腕時計」「切手(使用済みのもの)」「日野日出志先生関連のもの(コミック、本、原画など)」「コイン(洋、邦)」「スニーカー(エアージョーダン1st)」「ダムカード」「マンホールカード」「ご当地フォルムカード」「御朱印」「風景印」
繰り返すがこれは一部だ。このほかにも彼が集めているものはまだある! 家は一体どうなってんの!?
とにかく不思議で仕方がない。なぜ集めてしまうのか? まずはその起源について尋ねた。
・セミの抜け殻
佐藤「ノブさん、めちゃくちゃモノを集めてるじゃないですか。いつ頃からその収集癖と言いますか、モノを集める行動が始まったんですかね?」
ノブ「幼少期かな。最初はセミの抜け殻を集めていた。当時は集めてる気はなかったと思うんだけどね。1匹1匹形が違うのを面白がってただけだったと思う。
たくさん欲しい! って考えてた訳じゃなくて、形の違いを楽しんでた気がするんだよね」
佐藤「まあ、たしかにセミの抜け殻なんてどこにでもありますからね。それを大体どのくらい持ってたんですか? 10匹分くらい?」
ノブ「自分のおもちゃ箱みたいなのがあって、それに集めてたんだけど。どれくらいかな? 70~80匹?」
佐藤「70~80! そんなに!! お母さんに怒られたんじゃないですか?」
ノブ「怒られた(笑)。でもそれより怒られたのはダンゴムシかな? 両手にいっぱい持って帰ったことがあったから(笑)」
佐藤「ひーーーー(怖)」
セミの抜け殻から牛乳瓶のフタ・めんこ・スーパーカー消しゴム・ビー玉へと集める対象は変化していき、現在は先に挙げた品々を収集するに至っている。
・全部把握している
佐藤「ノブさんの家にはかなりの数のモノがあると思うんですけど、管理が大変じゃないですか?」
ノブ「自分なりの管理ルールがあって、カード類はファイリングして書籍やパンフレットは本棚へって具合に。保管用のモノはしっかりしまってるので、取り出すのが億劫になることもあるよ。でも全部ちゃんと把握している」
佐藤「管理できるのは頭に入ってるからなんですよね。それが自分にはできないんだよなあ」
ノブ「実はちょっと困った「集めグセ」があってね。集めているものは2つ欲しくなるんだよね。ダムカードだと同じカードを2枚手に入れたくなる。1つだとそれがダメになったらイヤだから、2つ持っていたい」
佐藤「紙のモノは汚れたり傷んだりしますもんね。1つは保存版でもう1つは鑑賞用って感じになるんですか?」
ノブ「そう。1つはしっかりファイリングして棚の最奥にしまっておいて、もう1つは比較的手の届きやすいところに置いてる」
佐藤「ノブさんのご自宅にはめんこやスーパーカー消しゴムがまだあるんでしたよね? それらも傷んでないんですか?」
ノブ「そうだね、傷んでないと思う。最近確認はしてないけど、カビたりしてないと思う」
佐藤「それはご自宅が管理に適した住まいかもしれませんよ! だって、40年以上前のコレクションですよね? それが傷んでないってスゴイことだと思います」
ノブ「そうかもね。うちは古い木造の家だから風通しが良いのかも」
・ツアーの空き日のスケジュール
佐藤「バンドでツアーに出た時とか、いろいろ収集にまわるんですか?」
ノブ「まあ空き日じゃないとやらないけどね。1回のツアーで1日か2日空き日があったら収集に行ったりするかな」
佐藤「空き日の1日の動きを教えてもらえますか?」
ノブ「そうだね。ダムカードはダムにもらいに行くんだけど大体行くまでに時間がかかるから、ツアー中は行かないね。
行くとしたら郵便局に行ってフォルムカードを買ってね、ご当地の記念切手を貼って風景印(ご当地の名所旧跡などにちなんだ図柄の消印)を押して自分宛に郵送する。
可能ならマンホールカードをもらいに行って、神社が近かったら御朱印をもらいに行くかな。御朱印に関係なく神社にはお参りするけど。
あとはおもちゃ屋が近くにあったら、レトロなおもちゃが眠ってないか調べることもあるかな。」
佐藤「フォルムカード・記念切手・風景印・御朱印・マンホールカード・レトロ玩具。そんなにいろいろ集めて回るんですね。忙しい!」
ノブ「時間のとれる時だけね。楽しいよ」
・帰るのが楽しくなる家
佐藤「なんでそんなにまでして集めるんですか?」
ノブ「集めてるっていうよりも、そのモノが好きなんだよね。そのモノを手にするプロセスも好き。
何か1つ欲しいモノを見つけるとするでしょ。そしたらそれについて徹底的に調べるんだよ。たとえばアンティークの腕時計ならその時計ができた背景とか、製造工程とか型番の違いとか全部調べる。そうして1本の腕時計に込められた逸話とか知ると、ますます好きになって愛着が湧いてくるんだよね。
数がたくさん欲しいんじゃなくて、そのモノを知って好きになって触れていたんだよ。
それで愛情を感じるモノが家にあると、家に帰るのが楽しくなる。ホクホクしちゃうんだよ」
ノブ「一言でいうと、好きなモノに囲まれて暮らしたい!!」
佐藤「くぅ~、痺れます! そんなこと考えたこともなかった。「モノ集める=管理」としか思ってなかったですよ。それを聞いたら何かを集めたい気持ちになって来ました」
ノブ「これ好きだ! と思うモノがあれば、それを大事にするところから始めたらいいと思うよ。でもムリに集める必要はないよね」
佐藤「残念ながら自分がモノに愛情を注いでいないことを気づきました……。まずは今あるモノを愛することから始めます」
ノブ「それも大事だね。好きなモノに囲まれたらきっとわかると思うよ!」
ということで、ノブさんはただ単にモノを集めている訳ではなく、愛しているからこそ収集せずにはいられないとわかった。私はまずモノを愛するところから始めてみたいと思う。好きなモノに囲まれる暮らし、それは人生の本質ではないだろうか。私はそんな暮らしに憧れる……。
取材協力:人間椅子
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24、人間椅子