突然だが、履歴書は手書き派だろうか、それともパソコン派だろうか。個人的には「内容が伝わることが1番」だから、パソコンできれいに作って何度でも複製できた方が合理的でいいと思う。同じように上司でも部下でも仕事が終わった人から帰ればいいし、飲み会では各自で料理を取り分ければいいと思う。

……のだが、おそらくこれは日本社会では好まれない考え方だろう。履歴書も、まだまだ「手書きの方が心がこもっている」「きちんとしている」と受け止める人が多いのではないだろうか。困るのが、筆者のように字が下手な人間である。

ここにショウワノートの「六度法履歴書」というものがある。なんでも「きれいな字で書ける履歴書」なのだそうだ。本当にきれいに書けるのか検証してみた。


・文字は人なり?

表紙には「文字は人なり」という強烈な先制パンチがある。「第一印象の決め手は文字です」「経歴や内容に自信があっても汚い字で書かれていたら読んでもらえません」……って、なんか圧を感じるな。

たしかに仕事の上でも、字がきれいな人は「頭がいい」「仕事ができる」「丁寧で礼儀正しい」という印象を持たれる。筆者の字は、子ども時代に6年間も習字教室に通っていながら大きさや向きがバラバラの「整わない字」なのだが、なるほど筆者自身も「整わない人」だということだな。いえてる。


・筆者のトラウマ

実は字にはちょっとしたトラウマがある。あれは小学校5年生の頃、クラスで「6年生を送る会」の準備をしていた。当時、学級委員をやったりして “いい子に見られたい症候群” の気があった筆者は、ベテランの女性担任に「なにか手伝えることはありませんか」と申し出た。

先生は喜んで「プログラム(しおり)」の作成を頼んできた。思うに先生は筆者の字の下手さを忘れていたのだ。筆者は子どもながら丁寧に丁寧に式次第を書き写し、そして提出した。先生はお礼をいったと思う。

しかし当日、配布された「しおり」はまったくの別人が書いたものだった。あの日、完成品を見た先生は、同じクラスの美文字で名高いA子ちゃんに改めて依頼したのだ。そしてそのことを筆者には告げなかった。

学年全体に配られるものだからそれなりの体裁は必要だし、先生の評価にも関わるだろう。作り直したこと自体は構わない。しかし現物はもちろん筆者も目にする。きちんと向き合って説明してくれたら、多少は傷つくだろうけれども理解して、すぐに忘れたと思う。

何もいわず差し替えた先生は、たぶんフェアじゃなかった。そして筆者も無邪気に「先生、ひどいよ〜」と話しかけることができなかった。ただただ、小さなトゲとしていつまでも心に残った。なにごともなかったかのように接してくる先生に、筆者は初めてこの世界に存在する人間の「ずるさ」のようなものを感じたのだった。


・「六度法履歴書」セット内容

話を戻そう。字の上達は長年の悲願だが、はたして「六度法」でトラウマを克服できるだろうか。

「六度法」というのは「中国古典のきれいな字を分析して発見した整字技術」だそうだ。3つのルールを守って書くだけで、すぐにきれいな字が書けるという。ショウワノートからは履歴書のほか、小学生向けの「かんじのれんしゅう」や、大人向けの「六度法マスターノート」がリリースされている。

履歴書はA4版(税抜480円)とB5版(税抜360円)の2種類あり、筆者の手元にあるのはA4版。どちらも履歴書4枚入りだが封筒は3枚なので、実質3セットということになるだろう。

開封してみると充実の内容。履歴書のほか、A4クリアファイルが丸ごと入る大判封筒がついている。折れ防止や、別の書類を加えるときに便利だ。そして後述する「六度法」のための下敷き2枚が同梱。

ただの真っ白い紙が入っていたのでなにかと思ったら「透け防止用中紙」で、封筒に入れるのだそうだ。へ〜、こんな気配りしたことない! 地球環境にはよくないけれど「日本人的な奥ゆかしい配慮」を感じるな。

下敷きには顔写真を切り抜くためのガイドがあり、両面テープまで入っていた。写真さえあれば、あとはこのセットだけで履歴書が完成する。至れり尽くせりな商品だ。


・まずは普通に書いてみる

比較のため、まずは普段どおりに書いてみた……らいきなり間違えた。修正テープだ。(本物の履歴書の場合、修正液や修正テープはNGで、訂正印で修正するのが正式とされる。)

この間違えたときの大変さが手書きのネック。大事な試験や面接だったら最初から書き直すところだ。あまりに非合理的だ……。

修正テープを使いまくったが、完成した。普段どおりとはいえ履歴書だから、実力の120%ほどは「丁寧に」書いたつもりだ。「しおり」には採用してもらえないと思うが、自分の長所も短所もわかるいい年した大人なのでもう傷つかない。とりあえず「読める字」ではあると思う。

けれどもよく見ると、縦方向も横方向もあっちこっちに向かっていて落ち着かない。文字の大きさもバラバラな印象を受ける。


・次に六度法で書いてみる

それでは下敷きをしいて、「六度法」のルールを守りながら書いてみよう。

……と思ったのだが、履歴書の紙は厚い。下敷きはうっすら透けて見える程度で、トレース台が欲しいくらいだ。手元を明るくすると見やすいので、ちゃんとデスクライトのある机で書こう。

ルール1つめ、右上がり6度に書く。

ルール2つめ、右下に重心をかける。右下にくる部分をしっかり伸ばしたり、払ったりする感じかな。

ルール3つめ、等間隔にして書く。これはわかる。横線でも縦線でも「等間隔になっている」ことが、視覚的に美しいからだ。別のペン習字の教材ではベースラインや中心線もそろえるように書かれていたけれど、実は結構難しい。「わかっているけどできない」テクニックの1つだ。

それにしてもこの同じ名称(学校名とか企業名)を何度も書くって必要か? 「同上」じゃダメ? 「なにごとも近道しない姿勢」を試されているのだろうか。

比較してみよう。はっきりいって、ぱっと見は大差ない。ルールやガイド線があるとはいえ忠実に守れるわけではないので、やっぱり字形が崩れるからだ。思ったように線を引くというのは結構な上級スキル。

ただ、何度か練習していると、いい字形になってくるものもある。

同じ字を、同じ形に書けることも増える。そもそも字が下手な人は、同じ字でも毎回違う形になってしまうために書類に統一感が出ないのだ。

ひらがなも、微妙な違いだけれど、ぴょんぴょんしていた字が1つのラインに収まって落ち着いたような気がする。ただし、あくまで「気がする」程度で、明確な違いとまではいえない。


・結論は……

「六度法」のルールは単純明快で、原理もすぐに理解できるが、実践できることとイコールではない。一朝一夕では身につかないから、やはり練習が必要だ。履歴書だけが劇的に上手くなるような都合のいい話はなかった。ただ「練習したら確実に上手くなりそう」という可能性は感じさせる。本気で練習してみようかな?

ただしそれは「しおり」に採用して欲しいからではなく、自分のためだ。後には校長まで勤め上げたあの先生も、もうずいぶん前に亡くなった。「文字は人なり」なのだったら、せめて「下手でもいいから丁寧に」書いていきたい。


参考リンク:ショウワノート
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.