ロケットニュース24

伊勢海老よりウマイと言われる幻のエビ「ウチワエビ」を食べてみた / あるいは初めて生き物を絞めた話

2020年7月15日

エビの王様・伊勢海老。プリップリの食べごたえある身は激ウマで、サイズだけでなく味も最強と言える。だが、一説によるとそんな伊勢海老よりウマイと言われるエビがいるらしい

その名も「ウチワエビ」。希少価値の高いこのエビは、東京のスーパーではまず見ない幻のエビだ。1度で良いからお目にかかってみたいものである。

と思いきや、御徒町の鮮魚店『吉池』で売られていた。マジかよ。100g600円という価格はさすがだが、へー、伊勢海老より小さく片手で少し余る程度のサイズなのか。とりあえず買ってみたのだけれども……こ、これは……

・生きてる

生きてる。めちゃんこ動いてる。平べったい外骨格の下で足とか口がウゾウゾと休みなく。海のものだから、てっきり家に持って帰って来る途中に窒息死するかと思っていたのだがピンピンしているではないか。

さて、困ったのは、私(中澤)は生まれて38年間、すでに加工された魚や肉しか食べたことがないということ。加工されるのを見たことすらない。つまり、目の前でピチピチしているエビが食べ物に思えないのだ。

・怖い

だってこれは完全に生き物じゃないか。食品としてのエビが目の前にあるというより、水族館でエビを見ているみたいな感覚に近い。しかし、ここは水族館ではなく家だ。ガラス越しではなく目の前で蠢(うごめ)いている。正直、怖い。家の中に何を考えているか分からない生物がいるって恐怖でしかない。


とりあえず、1回距離を取って落ち着くことにした。

エビも怖いんだろうか? もし、私だったらめちゃくちゃ怖いに違いない。マンガとかに登場する人間を食べる怪物を想像して震えた。

だが、ここまで来て食べないのは、漁師さんにも、売っている人にも、そしてエビにも悪い気がする。すでにエビはまな板の上なのだ。そもそも、切り身を食べるのも意味的には変わらない。食べるというのはそういうことだ。

・ウチワエビと向かい合う

決心してウチワエビの背中に包丁を突き立てた。まずは、胴と頭を切り離すため、つなぎ目の外骨格を断ち切るのである。特に暴れることもなく、ザクッと背中部分のつなぎ目が切れた。

胴と頭を切り離すためには腹側の外骨格も切らないといけない。裏返しても相変わらず大人しいエビ。ひょっとして逝くの? と思った瞬間……


ギャァァァアアア! 動いたァァァーーーー!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい


無理だ。ちょっと蠢いているだけでも怖いのに、今の元気なエビの腹側を切って手の中で命を奪う瞬間を感じるなんてできない。それでなくともトラウマ寸前なのに……


とりあえず、1回距離を取って落ち着くことにした。

エビも苦しいんだろうか? もし、私だったら「もういっそ殺してくれ」と思うだろう。なにしろ、背中の骨が切られちゃってるんだから。ふぅ。やるか……。

・意気地なしでごめんな

決心して再びエビの前に立つともう大分弱っていた。待たせてごめん今楽にしてやるから。腹側のつなぎ目を切り、胴と頭を180度回してちぎる。


続いて、胴腹側の外骨格両サイドを包丁で断ち切り腹をめくると、ついに身が露出。乳白色の綺麗な身が瑞々しくきらめく。

スプーンでこそぎ出すと、体のサイズに比べ身の量はそんなに多くない。頭側についているエビ味噌を合わせて大サジ2杯くらいか。そう言えば、これを売っていた吉池の店員さんは「身は詰まってるけど1匹にそこまでの量はないから塩茹でがオススメ」と言っていたっけ。

正直、泣きそうである。これだけ精神を削られてこの量なのか。生きるということは誠に大変なことである。だがしかし、それ以上に泣きそうなのは……


あと3匹いるということ

そう、最初から生で食べるつもりだった私は、吉池の店員さんに「そこまで量がない」と言われた時点で「じゃあ4匹で!」と返事していたのである。というわけで、泣きながら残り3匹を捌いた。そして出来上がったのが……


生ウチワエビ丼だ。

・食べてみた

酢飯に敷き詰められたきらめくエビの身。この光景が見たかったのである。ちなみに、5時間くらいかかった。食べてみたところ……


ウマイ(泣)

ボリューミーな身はプリンプリンという表現では生ぬるい……ブリンッブリンだ! 口の中で弾ける身からは、甘みがあふれ出しトロけるようである。

伊勢海老とどちらがウマイかは定かではないが、その旨みはキラキラときらめくようだった。まるで夜間飛行中に見る都市のまばゆい明かりのように、連綿と紡がれてきた生命の営みと輝きがそこにある。

同時にそのきらめきに改めて実感させられた。命を食べているのだと。食べるとはこういうことだと……!

生きていくのは大変だ。世の中は大変なことばかりである。だが、私たちの命がこういった食事の上に成り立っていることは疑いようもない事実。だから私は、今日もこの言葉を言わせてもらおう


ごちそうさまでした──。


・今回紹介した店舗の情報

店名 吉池
住所 東京都台東区上野3丁目27−12
営業時間 鮮魚コーナー 9:30~20:30
定休日 無休

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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