90年代青春ドラマの金字塔『Beverly Hills, 90210』。邦題では『ビバリーヒルズ高校白書』『ビバリーヒルズ青春白書』として全10シーズンが放送された。その人気作の約20年ぶりの新作が、オリジナルキャストで制作されたというニュースが世界中を駆け巡ったのが昨年のこと。日本でもついに2019年12月24日からHuluで『ビバリーヒルズ再会白書』の独占配信が始まった!
筆者も当時夢中になったクチなので、登場人物たちの「その後」がわかると期待でいっぱい。この配信のためだけにHuluに加入するワクワクっぷりだった。
……が、実際に観てみたら、えええぇぇぇ⁉︎ という衝撃展開。登場人物のその後は(第3話までのところ)まっっったくわからない。だって誰も出てこないんだもん。なぜかというと……
ビバヒルの最新作は、青春ドラマではなく、なんとモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)だった。
・元々のあらすじ
当時のドラマのあらすじは以下の通り。双子の男女の高校生がミネソタ州ミネアポリスからビバリーヒルズに越してくる。セレブの街・ビバリーヒルズは何もかもが規格外。有名女優の息子、スクールカースト最上位の美少女、身分を偽って通学している苦学生など、一癖も二癖もある仲間たちと友情を築き、仲間内でくっついたり別れたりしながら人間ドラマを繰り広げる。
第1シーズンの、まだあどけなさの残る主人公2人はとにかくチャーミングだし、高校生が車でパーティーに乗りつけたり、放課後にダイナーに集まったりと、これぞアメリカ、といった陽気な暮らしぶりは痛快だ。
それでいてドラッグやアルコール依存、複雑なステップファミリー、デートレイプなど、若者を取り巻く社会問題を扱い、考えさせられる回も多かった。
・衝撃の設定
今回およそ20年ぶりの新作ということで、大人になって人生の円熟期を迎えたメンバーそれぞれの家庭問題や社会的成功、挫折を描いている……と思いきや、まったく違う。俳優たちは当時の役柄ではなく、みな「本人役」として出演しているのだ。
どういうことかと言うと、主人公ブランドンを演じたジェイソン・プリーストリーは、ジェイソン・プリーストリー役で出演。「かつての大ヒットドラマに出ていた往年の俳優」として、やや自虐的な演出のもとにキャストが再集合している。フィクションとノンフィクションが混ざり合う「モキュメンタリー」という手法だという。観ていると「え、これは本当のこと? シナリオ?」と混乱してくる。
ちょっと想像してみて欲しい。同じようにオリジナルキャストが話題となったスター・ウォーズ最新シリーズで、マーク・ハミルやキャリー・フィッシャーが「かつてスター・ウォーズに出ていた俳優」として集結し、「リブート作らない?」とか何とか言っているドラマを。正直そんなの見たくない。
・ファンとしては微妙……だけどなぜか泣けてくる
これは賛否両論あると思った。もちろんファンは、作品がフィクションであることを知っている。キャラクターは実在しないし、慣れ親しんだ学校も架空の場所だし、作中ではラブラブカップルでも実際には別のパートナーがいるのはわかっている。
しかし、ドラマを観ている間は現実のことのように感情移入するわけだから、出演者たちが「あれはフィクションです」と堂々と公言するような今回の導入は、ちょっと衝撃的でもあった。
にも関わらず、筆者は何度かホロリと来てしまった。俳優だって歳を取る。個人的にはちょっと嫌いな表現だが、「劣化」する。本作はそれを隠さず、むしろネタにしていく。
かつての美男美女たちの顔のシワや、ボディラインの変化には時の流れを感じずにはいられない。と同時に、自分も歳を重ねたことを思い知る。キャストたちと同じく、成功だけではない人生のあれやこれやが思い出されて感傷的になってしまうのだ。笑えるシーンなのに、ぐっと来ることがたびたびあった。
作中では、90年代の空前の大ヒットと、現在とのギャップを皮肉る表現も出てくるのだが、決して嫌な感じは受けない。それは、キャストが愛情を持って当時の「ビバヒル」を作り上げたことが伝わってくるから。国民的ドラマの登場人物を演じたイメージが時に足枷になりながらも、作品を大切にしていることが感じられる。
2019年に脳卒中で急逝した故ルーク・ペリーに捧げられている点も見逃せない。孤独を抱えたアウトローな青年ディランを熱演した。ルークが生きていたら、きっと今回の企画に参加していただろう。
・シャナン・ドハーティーも出演
主人公の双子の1人、ブレンダを演じたシャナン・ドハーティーも出演。これはファンにはちょっとしたニュースだ。当時、もちろんシャナンも大人気だったのだが、共演者との確執の噂が絶えることなく、第4シーズンで降板。主人公にも関わらず国外に引っ越したことになって、以降まったく登場しないというストーリー的に超不自然な状態になったのだ。私生活での発言もちょっと過激で、いわばビバヒルの「お騒がせ娘」だった。
そんなシャナンも2015年には乳がんで闘病している姿を公表。ビバヒル・メンバーも応援コメントを寄せた。スキャンダルも、人生という大きな時の流れの前には些細なことのように思える。
・もしかしたら傑作かも
よく考えると、ウェストビバリー高校を卒業して大人になった登場人物を描くとしても、全員が集結するような都合のいいシナリオはそうそうないし、いつまでも仲間内の恋愛話でもないだろう。どんなストーリーでも、視聴者は当時の若く輝いていたメンバーとのギャップにきっとがっかりする。
ましてや登場人物が不幸になる姿は観たくはない。今回の試みはそんな懸念をすべて突っ切った、「出演者にとって、ファンにとって、ビバヒルとは何だったのか」に切り込んでいるように見える。ファンの期待の裏を行く、斬新な意欲作といえるだろう。
配信は週1話ずつ、全6回を予定。この話がどう収束していくのか、いちファンとして見守りたい。公開記念として過去作も順次配信されるから要チェック! タイムスリップしたような懐かしい気持ちになれる。Huluに加入する必要があるが、無料トライアルもあるようだ。最終回まですべて見終わった時、「ああ、これでよかったんだ」と納得できることを期待している。
参考リンク:Huluプレミア『ビバリーヒルズ再会白書』
イラスト・執筆:冨樫さや