もし、思いがけず1万円を手にしたらあなたは何に使うだろうか? 1万円あれば、服は上下揃うし、どん兵衛だって50個くらい買える。家賃の足しにしても貯金してもそこそこ嬉しい金額だ。
そんな1万円の缶詰が存在する。大きさは手のひらサイズ。あら、可愛い♪ 言うとる場合か! これが1万円だとォォォオオオ!? そう思ったため逆に買ってみた。
・1万円超えの缶つま
この缶詰の名前は『缶つま極 気仙沼産ふかひれ』だ。そう、K&Kの缶詰「缶つま」シリーズである。確かに、缶つまシリーズは高級でウマいイメージがあるが、まさか1万円超えがあるとは……。
缶詰と言えば、安さや手軽さも魅力の1つと言える。しかし、その魅力をかなぐり捨てるような価格設定。逆に気になって仕方ない。見たところ、サイズはコンビニで販売されている缶つまとそんなに変わらないが、中身はどうなっているのだろうか。
・開缶
缶を開けると、あふれ出すような餡とボリューミーなふかひれ。そのやる気は評価するが、やる気だけでは埋められないこともあるんだよ? 大丈夫? ひと口食べてみると……
トロけるようななめらかな舌触り。噛むとプチプチした食感が口の中で弾ける。ふかひれは何度か食べたことがあるが、正直ここまでプチプチプリプリの食感は初めてだ。それだけを取ってみてもこれが上等なふかひれであることは分かる。が、しかし……
味はしょっぱめで単調だ。料理に使うことを前提にした下味的な味付けなのかもしれない。とは言え、清水の舞台から飛び降りる気持ちで缶詰に1万円を使ったことを考えると、ちょっとガッカリ……と、その時私は気づいた。
ひょっとしたら、ふかひれは常にこんな期待をされてきたのかもしれない。「高級だからね」「高いからそれ相応の味じゃなきゃ困るよ」そんな中、食卓というステージに上がるプレッシャーは並々ならぬものがあっただろう。なにしろウマくて当然なのだから。
どんどん膨れ上がっていく期待と応えられない自分。ふかひれの苦悩が透けて見えるようである。それはまるでロックスターの悲劇。強い光に照らされてできた濃い影に、今晩もふかひれは苦しみの中でステージに上がるのかもしれない。
缶詰はただの保存食ではない。そこにはそれぞれの物語が詰まっている。今回もそんな物語を知ることができた。1万円は非常に安いと言える。
Report:缶詰評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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