「流星刀(りゅうせいとう)」というワードを聞いたことがあるだろうか? 刀剣やファンタジーがお好きな人なら一度は耳にしたことあるだろう。その名のとおり「流れ星で作った刀」、すなわち隕石で作られた刀のことだ。
もう聞いただけでワクワクする! 言うまでもなく貴重な存在なのだが、それが2019年秋に一般公開されることがわかった。そんなの見てみたいに決まってる! 地球の鉄で作った刀と何が違うの? 切れ味は!? 謎と魅力を専門家に詳しく聞いてきた!
・明治時代に日本初の「流星刀」が誕生
今回、9月14日~10月14日の日程で流星刀が公開されるのは富山市科学博物館だ。日本で初めて、そして唯一日本に落下した隕石で作られた5振りの流星刀のうち1振りが展示されるのだという。
まず、その流星刀について軽くなぞってみよう。この流星刀を作らせたのは明治の政治家・榎本武揚(えのもと たけあき)だ。幕末、箱館戦争時、旧幕府脱走軍の総裁を務めた人物という方がピンとくる人も多いかもしれない。
さて、流星刀のことの始まりは榎本が駐露特命全権公使でロシアに滞在していた時期のこと(1874年~78年)。ときの皇帝が所有していた “隕石から作られた剣” と出会い、強い興味を持ったのだという。
それからのち、榎本と材料となる隕石の不思議な縁があり、流星刀が完成するのだ。その経緯をザックリとまとめると以下のようになる。
1890年4月以前
富山県東部にある上市川(かみいちがわ)で、葛芋掘りに来ていた地元住民が不思議な石を発見。1890年4月
大阪造幣局に鑑定に出されるも分析されず。しばらく漬物石になる。1895年
農商務省地質調査所が鑑定 → 鉄を主成分とする隕鉄(いんてつ / 鉄隕石)と判明。のちに白萩隕鉄(しらはぎいんてつ)と名付けられた。流星刀を作りたかった榎本が存在を知り、購入。刀工「岡吉国宗(おかよし くにむね)」に制作を依頼。1898年
流星刀、完成
榎本が思いを募らせること実に20年以上! 長刀2振りと短刀2振り、そしてのちに短刀1振りが追加され、合計5振りの流星刀が完成したのだ。
榎本が記した『流星刀記事』によると、長刀のうちキレイに仕上がった方が皇太子(のちの大正天皇)に献上されたという。残りの4振りは、彼の子孫に受け継がれ、現在、長刀は東京農業大学に、短刀は北海道小樽市の龍宮神社、そして富山市科学博物館に所蔵されている。残る1振りは行方不明とのことだ。
……と流星刀の基本知識を確認したところで、専門家にお話を聞いてみた! 切れ味は? 地球の鉄と何が違うの? 科学的な観点で見るとどうなるかは2ページ目へGOだ!
Report:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.
・地球の鉄で鍛えた刀と何が違うの?
今回、お話を伺ったのは富山市科学博物館 天文担当の学芸員・林さんだ。
日本刀の材料といえば玉鋼(たまはがね)という鋼であるが、流星刀には「隕鉄:玉鋼=7:3」が用いられている。そのため鍛え方も通常は “適度な温度” で行われるところ、通常より高温でないと鍛錬できないものだったとのこと。
その結果、地球の鉄との違いは刀身の肌にも表れている。ウネウネとした黒い模様がとても濃く出ているのが、隕鉄ならではの輝きなのだという。
・実際の切れ味は?
流星刀の切れ味はどうなのだろう? 『流星刀記事』には「切れ味もいい」的な記述がある。そして刃先も鋭く、何でも切れそうな見た目だ。だが実際のところは……林さんいわく「切れ味は良くないのでは、という人もいます」。そうなの!?
理由は隕鉄の成分だ。材料となった隕鉄の成分は鉄が約90%、ニッケルが約10%で炭素をほとんど含まない。これでピンときた人もいるかもしれないが、炭素がないということは焼き入れしても硬くならないということ。
そのため、炭素を含む玉鋼を混ぜているものの、やはり切れ味はよくないのではという人もいるそうだ。ただ、実際に試し切りをしたわけではないのでハッキリとはわからないようだが……たしかにそんな貴重なもので試し切りはできないですよねー!
流星刀は、ファンタジーなら何でもバスバス切れる最強武器。現実は虚構の世界のようにはいかなかったが、ロマンだけなら最強! 眺めているだけで宇宙に吸い込まれるようなのだった。
・今回の展示の見どころ / 撮影もOK
ただただ思いのままに鑑賞するのも良いが、林さんのお話から今回の展示の見どころをまとめてみたので、参考にしていただければ幸いだ。また違った面白さがあるだろう。写真撮影OKなので、スマホやカメラも忘れずに持っていこう。
【文様を見てみよう】
上述のとおり、流星刀は隕鉄が使われていることから刀身の文様の出方が独特だ。これを鑑賞しないわけにはいかない! ちなみに、林さんに伺ったところ鍛え肌は鑑定によると大板目(おおいため)とのことだ。
【銘を見てみよう】
ネット上には「流星刀に銘はない」という記述も存在するが、流星刀にも銘は切られている! こちらの流星刀には、彫刻した文字に純金を埋め込む「金象嵌(きんぞうがん)」と見られる手法で「星鉄」と刻まれているのだ。柄に収まる部分「茎(ナカゴ)」をよーく見てみよう。
ただし……現在確認できる流星刀3振り全てに銘が金象嵌で入っているわけではないそう。この違いは一体何なのか。思いをめぐらせてみるのも一興だろう。
【隕鉄と見比べてみよう】
流星刀の材料となった白萩隕鉄1号は、現在、国立科学博物館に所蔵されているが、富山市科学博物館には、その片割れである白萩隕鉄2号が所蔵されている。発見時期、場所、そして成分から、1号と2号は元々同じ天体で、地球に落下した際に分かれたものと見られているのだ。材料になった隕鉄と同じものと言っても差し支えないのではなかろうか。
そんな白萩隕鉄2号は9月14日からは流星刀本体と共に展示される予定だ。他ではなかなか実現できない組み合わせなので、じっくりと見比べると面白いだろう。
・期間中には学芸員の解説も
流星刀には専門家も気になる謎がまだまだあるのだという。また、なまじ近代なだけに生々しいエピソードもあったり……もっと詳しく聞きたい人は、期間中、9月14日と10月14日に学芸員による解説があるので要チェックだ。
そして富山で刀剣と言えば、富山市科学博物館の徒歩圏内に日本有数の刀剣コレクションを誇る森記念秋水美術館もある。芸術、学術の秋にミュージアム巡りをするのもいいかもしれない。
【今回紹介したイベントのデータ】
・イベント名 ロビー展「流星刀」
・場所 富山市科学博物館
・住所 富山県富山市西中野町1丁目8-31
・開催期間 2019年9月14日(土)~10月14日(月・祝) ※9月17日~19日は休館
・時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
・入館料 大人 520円(10月1日より530円) 高校生以下無料
・流星刀 解説会(予約不要)
9月14日 13:30、14:00、14:30
10月14日 10:45、13:00、15:15
参考リンク:榎本武揚『流星刀記事』
Report:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.
▼富山市科学博物館!
▼総合受付でチケットを買って入ると……
▼ロビーに流星刀が! 実際の展示期間には白萩隕鉄1号のレプリカと白萩隕石2号も一緒に展示される予定だ
▼「流星刀」というネーミングが心くすぐるものがある
▼実物はロマンと宇宙の神秘に溢れていました
▼様々な角度から心ゆくまで鑑賞できるよ!
▼神秘的で奥が深い流星刀。解説会、マジでオススメです
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