台湾映画と聞いたら何を思い浮かべるだろうか? 日本でも話題になったものだと『海角七号 君想う、国境の南(2008年)』、『セデック・バレ(2011年)』、『星空(2011年)』、『KANO~1931海の向こうの甲子園(2014年)』……『あの頃、君を追いかけた(2011年)』は日本でもリメイクされたので特に有名かもしれない。
これらの作品をもって台湾映画界は隆盛期を迎えたと言われている。くしくも日本の台湾ブームと時期を同じくしており、日本にもドンドン台湾映画が入ってきているが……でもその前は? 90年代の台湾映画もスゴかった! いま、そんな台湾映画が日本で上映されている。タイトルは『ラブ ゴーゴー』、原題『愛情來了』である。
・幻の名作『ラブ ゴーゴー』
『ラブ ゴーゴー』は、チェン・ユーシュン(陳玉勲)監督により1997年に発表された映画だ。舞台は台北。普通の、いやむしろ “イケてない” 若者の恋模様が描かれた作品である。
初恋を断ち切れないケーキ職人のアシェン、恋に恋するおデブキャラのリリー、不倫中でどこか悲しげなリーホァ……1人1人の恋模様がオムニバス形式で描かれていく。詳しくは皆さんの目でご覧いただきたいが、ポップな描写、そして悲壮感があるパートにも人情味とほんのりとした笑いがあり、鑑賞後に爽やかな気持ちになれるのだ。
それぞれ独立した話と見せかけて、最後、全てがつながるシーンには鮮烈な感動がある。そして何より衝撃的だったのは、スーパーヒーローでも何でもない “普通の人” の日常の延長、いわば限りなくリアルに近い台湾の姿を感じられる点である。
・監督が見た台湾を作品に落とし込む
「台湾は日本と似ている」という声をよく聞く。確かにそういう一面もある。だがときにその印象は “親日イメージ” により増幅されたもので、台湾人が日常を過ごす台湾とは限らないのではないだろうか。実際に、台湾人にも「もっと台湾のことを知ってほしい」という言葉を聞くくらいだ。
映画ではそんな台湾の日常が描かれている。日本と少し似ていて、でも違う、中国ともなんか似てるけど、やっぱり違う。街の様子、空気、そして登場人物の感情、言動、何もかもだ。台湾は台湾、だからこそ空前の台湾ブームの今に見ておきたい作品なのである。
デジタルリストア版公開にあたり、行われたインタビューによるとチェン監督は前作の『熱帯魚(1995)』で自らの目で見た台湾の姿を表現し、2作目の『ラブ ゴーゴー』でチェン監督が見た台湾を個人の感情に凝縮しようと試みたのだという。
そして『ラブ ゴーゴー』から20年以上経った今でも、もし今ラブ ゴーゴーのような作品を描くなら「ちょっとは変わると思うけどかなり近い」と語っていたのだった。今、初鑑賞であってもチェン監督の描く台湾を感じることができるのではないだろうか。
2013年に『祝宴!シェフ』で映画界に再降臨したチェン監督。『健忘村(2017年※日本未公開)』に続く新作も楽しみだ。
・なぜ今のタイミングで公開?
さて、長らく “幻” となっていた今作。私も00年代に台湾で血眼になってDVDやVCDを探し回っていたので、日本で見られるというのは大変喜ばしいことだ。しかし、なぜこのタイミングで『熱帯魚』と共に公開されたのだろう?
その理由を伺ったところ、共同配給元の竹書房の方から以下のお話があったので紹介したい。
「日本で初公開された90年代当時は、そもそも台湾映画というものに対して一般的認知がなく、この作品も一部で大変話題にはなったものの興行的には全くヒットせずに公開が終了。その後チェン・ユーシュン監督が長い沈黙に入り、新作の発表もなかったため、この2作品も再公開される機会がないまま「幻の名作」と化していました。
そして時は流れ現在。今や日本は空前の台湾ブーム。映画においても、やはり初公開時にはほとんど無視されて終わったエドワード・ヤン監督の『クーリンチェ少年殺人事件』や日本公開すらされなかった『台北ストーリー』などが大ヒットしました。
80年代から90年代にかけての “台湾ニューシネマ” といわれる映画を中心に編成された映画祭「台湾巨匠傑作選」も毎年大盛況。90年代とは全く違う土壌が日本で形成された今ならば、『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』も広く正当に評価されうるだろうと考え、しかも台湾で2作品ともデジタル修復されたという情報も入り、日本での公開に踏み切りました」
とのことだ。まさに時が熟したからこそ、2019年のいま公開されたと言っていいだろう。台湾ブームの今、もう一歩踏み込んだ台湾を知りたい今、ぜひ見ておきたい作品ではないだろうか。
・今回紹介した作品の情報
作品名 『ラブ ゴーゴー デジタルリストア版』
劇場情報 新宿K’s cinema ほか全国順次公開中
提供・配給 オリオフィルムズ、竹書房
参考リンク:『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』公式サイト
執筆:沢井メグ
(c) Central Pictures Corporation