海外で日本食を食べるという行為は「醤油味が恋しいから、マズいけど仕方なく食べる」ものであったはずだ。しかし近年世界の日本食クオリティは飛躍的に上昇……というより、日本の料理人が世界に進出しまくっている気がする。マズい日本食を探すほうが難しいほどである。
世界各地でお目にかかれた『エセ寿司』も存亡の危機に直面しているようだ。中国の回転寿司がおいしかった話を以前記事でお伝えしたが、後から調べると実は日本の寿司屋が監修していたと判明し慌てた。それだと胸を張って「海外の寿司」とは言いづらい。
エセ寿司にはエセ寿司の良さがある。おなじみのカリフォルニアロールは外国人の柔軟な発想が生んだ奇跡だ。そういうのどんどんちょうだい! 外国人が自力でやっているSUSHI屋へ行ってみたいけど、どこにあるんだろうか?
・タラート・ロットファイ・ラチャダー?
『タラート・ロットファイ・ラチャダー』と名前を聞いてピンとこなくても、インスタ女子なら1度はその光景を見たことがあるのではないだろうか。『カラフルな屋台が並ぶ夜景』の画像が映えると大人気なバンコクの市場である。
カラフル屋台目当てにここを訪れた私であるが、残念ながらこの日は突然の大雨でインスタ映えどころではなかった。それでも大勢の客が傘をさして狭い通路を練り歩く光景は活気があってよい。ラーメンでも食べて帰るとしよう。
気温35度。肉、海鮮、果物をはじめ、無数の屋台にはあらゆる食材が並んでいる。
おやっ……その中にひときわカラフルな屋台を発見。ケーキ屋? いや違う。
あれはまさか……
SUSHI屋だーーー!
・1コ35円
念のため「SUSHI?」とたずねてみると、店先に立つお姉さんは「YES」と返す。あらかじめ握られたシャリがタッパーに詰まっており、ネタをトングで乗っけるお姉さん。見た目で判断するのはいけないことだが、この店に日本人の監修が入っている可能性は限りなく低そうだ。
屋台には色とりどりのSUSHIが和菓子屋スタイルで並べられている。サーモン、卵、とびっこ、カニカマ、あとは……えーと……
わからん。
SUSHIは全品10バーツ(約35円)。安いのか高いのかもわからん。プラスチック容器に自分で好みのSUSHIを詰めて持ち帰るシステムなので、言葉が通じなくても簡単に購入できる。せっかくなのでいくつか購入してみることにした。
ホテルに持ち帰ったSUSHIを冷静に眺めてみると……正直けっこうマズそうだな……!
・気が進まないけど
食べ物のおいしいタイへ来て、なぜ私はマズそうなSUSHIを食べようとしているのか? 一瞬分からなくなりかけたが、これは人生経験なのだ。食べてみたらメチャおいしいという可能性も大いにあるし、とりあえず無難なところから食べ進めていこうと思う。
まず「サーモン」。シャリが異様にデカくてグチャグチャである。まるで「おはぎ」のようなサーモンSUSHIを食べてみると……あっ! シャリが酢飯ではない普通の白米だ。タイ米ではなさそうだがパサパサしている。おいしくはない。でも普通に食べられる。
次は「(たぶん)シメサバ」。謎のタレとマヨネーズがかかったビジュアルに、食べたくなさがつのる。思い切ってかじると、なんだか鮮度的な意味でヤバイ食感と臭みが! 不安になったのでこれは残しました。すみません。
それから「アサリっぽい貝」。ケチャップに似たソースはピリ辛で寿司とは思えぬ味わい。味がかなり濃いのでつまみとしてチビチビ食べるといいかもしれない。
「海草っぽいもの」。クセがなくてけっこうおいしい。それはそうと、まだ3つ目だというのにシャリを飲み込むのがかなりしんどくなってきた。
「カニカマのマヨ和え」。カニカマにマヨを和えた味としか言いようがない。これが一番抵抗なく日本人に受け入れられそうだ。しかし飲み込むのが苦しい。1口かじってはため息をつき、またかじる。
最後は「正体不明の赤いやつ」。食感はコリコリしていてキクラゲだろうか? ピリ辛ソース。それにしてもこのシャリは一体どのように握られているのか? 渾身の力で握りつぶしたのではないかと思うほどカチカチに固められた米。6つは買いすぎたと後悔がおしよせる。
結果:「食べられなくはない」というだけで全然マズイ
・だが嬉しい
この日食べたSUSHIは私の口には少し合わなかったが、初めての味を体験したことで経験値がグングン上昇するのを感じた。世界中にまだまだ未知なるSUSHIが存在していると思うと嬉しい。おいしい寿司は日本で食べればいいと思う。よその国を訪れたときは、独自に進化した日本食を探してみるのがオススメだ。そこには文化を超えた感動が待っているかもしれない。
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼ちゃんとわさびと醤油がついている