ゲイの人にくっついている女を称して「おこげ」とは、うまいこと言ったものだと思う。オカマにこびり付いているのがおコゲだから、という語源だそうだ。ゲイの人ってオシャレだし、面白いし、女心を解ってくれそうだし……仲良くなりたいと願う女子がいることは必然だ。私だって、できればゲイの人と飲みたい。
オネエタレントの台頭などにより、一般にも「2丁目」だけで通じるほど知名度の上がった夜の新宿2丁目には、最近じゃ「ノンケ」と呼ばれる異性愛者も普通に飲みに行くらしいと噂にはきいていた。
しかし、である。私には20年来のゲイの友人がいる。彼のこれまでの苦悩や苦労、世間から受ける仕打ちなどを見てきた者としては、ノンケの自分が興味本位で彼らの聖地に足を踏み入れるなど、とてもじゃないができなかったのだ。ゲイの人が全員IKKOさんみたいに力強く生きているわけではないのである。自分がウロウロすることで嫌な気持ちになる人がいるのなら、それをするべきではないと思う。
……と、あざとく「私わきまえてますよ」アピールをしたところで2丁目の皆さん!
ごめんなさい来ちゃいました!
マキさんに、マキさんにどうしても会いたかったんですッ!!
・テレビの大人気シリーズ
フジテレビで毎週日曜14時放送のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』において、歴代最多の放送回数を誇る『マキさんの老後』シリーズは今年1月に第8弾が放送されたばかり。ゲイのマキさんとレズビアンのジョンさんによる「あべこべ夫婦」の一風変わった生き様は大人気を博し、私も初めて観た第3弾からすっかりご夫婦のファンになった。
第1弾の放送時点で40代だったマキさんに対して「老後」とはいささか早すぎな気もするが、ともに水商売を引退して第二の人生を懸命に模索するご夫婦の姿に、「自分はもう若くない」という焦りを感じていた私はいつも励まされているのである。
そんな憧れのマキさんが新宿2丁目でショーをやるらしいと知ったら、これはもう行くしかないではないか。
1月28日。会場は2丁目の雑居ビル2階にあるバー『MTY』さん。オーナーの田口さんがテレビでマキさんを知り、このイベントが実現したのだそう。
極度の緊張で多量の脇汗をかきながら階段を上る……。
・本物だ……
扉を開けると目の前に、あまりにも普通にマキさんがいた。
無意識に「ファッ……本物……」とつぶやいてしまった。
憧れの存在を目の前にすると、人は意外に「ワー」とか「キャー」などとハシャげないものである。私は「実在の人物だったんだなァ」とただ口を半開きにしてマキさんを見つめるのだった。
マキさんは私の目の前に座り、テレビで何度も見たあの口調で「なんでも聞いてくださいね」と優しく話しかけてくださったが、まさか開始1分で直接お話しできるなどと想像していない。私は頭の中が真っ白になった結果「ハズキルーペってどんな感じですか?」というしょうもない質問をしてしまった。先日のテレビ放送でマキさんの口から「ハズキルーペ」という単語が出たことが印象的だったのだ。
すると「ハズキルーペを使っているのはジョンです」との答え……! ハッ! そうだった。マキさんはジョンさんに対して「ハズキルーペを忘れないように」と言ったのだ。どんな感じか分かるはずもない。ヤバイ、開始早々気を悪くさせてしまったか……。
するとマキさんは落ち込む私を気づかったのか「私は旭化成のコンタクトレンズよ〜」と優しく笑って場をつないでくださったのであやうく泣くところだった。
おーいマキさんファンのみんな! マキさんのコンタクトレンズは旭化成だぞ覚えておこう!!
・テレビのイメージと違う!
テレビで観ていた以上に細くて綺麗なマキさん。最近お仕事が忙しくなり、風邪予防のため肩の出ないスーツを着用されているとのことだ。
マキさんとお話してみると、もちろんテレビで観たままのマキさん節が炸裂しており、質問に対しても「しっかりとご自身の考えをお持ちなのだな」という受け答えである。しかし失礼を承知で言ってしまうと、マキさんという人はもっと気性の荒い方なのかと思っていた。
非常に優しく丁寧で、何より穏やかなマキさんに虚を突かれた私は、正直に「テレビのイメージと違いました」と伝えてみた。するとやはり、テレビでマキさんを知った人は実際に会ってみると口を揃えてそう言うのだそうだ。
ご夫婦で買い物中のこと。夫のジョンさんに握手を求めてきたファンにマキさんが挨拶すると「ジョンさんに迷惑ばかりかけているから、あなたは嫌い」と暴言を吐かれたこともあるのだという。
テレビ放送では、マキさんの明け透けなもの言いや夫婦げんかシーンがクローズアップされがちで、ジョンさんの寡黙な印象も手伝ってすっかり「カカア天下」の構図ができあがっている感は否めない。しかし実際には非常に仲の良いおしどり夫婦だし、ジョンさんも寡黙ではないとのことだ。
そのあたりについてはマキさん自身も思うところがある様子だが、「公式YouTubeと電子書籍を見てもらえれば分かるはず」と多くは語らなかった。詳しくは公式HP『ジョン&マキ倶楽部』をチェックだ。
・禁断の新ネタ披露
22時からショータイムという触れ込みだったが時間を過ぎても始まらない。まだ来ない客がいるから待つのだという。「2丁目のお客さんはのんびりしているから時間通りに来ないこともよくある」とのこと。2丁目には南国にも似た独自の時間が流れているのかもしれない。
ほどなくすると照明が落ち、ドレスアップしたマキさん登場!
六本木の有名ゲイクラブでならしたマキさんの踊りを間近で観れるとは万感の思いである……。
衣装チェンジを挟み、続いては歌のコーナーだ。歌というより演劇に近いシャンソンをアカペラで。年老いた女が「華やかな昔はどこへ消えたの……」と嘆く歌詞がマキさんの歌唱力と相まって一層深みが増していた。
踊りと歌で会場を感動に包んだところで、満を持して披露されたのは新ネタだという「ムンクの叫び」。
単純ながらもそのシュールさが絶妙で会場はこの日一番の爆笑に包まれたが、マキさんの動きが激しすぎて写真には写らなかった。次回イベントか映像化を待とう!
そして最後はテレビでもおなじみの鉄板芸『天の橋立(あまのはしだて)』ご開帳〜!
美尻をベスポジで拝めて、おひねりを渡せた。おなじみの名セリフ「一生の恩義でございます」も聞けた。生きててよかった……。
・美の秘訣は?
美容整形は一切やっていないマキさん。「反則したのはホルモンの薬と、脱毛と、歯のセラミック4本だけ」というから驚きだ。まさに奇跡の60歳である。
胃下垂で太らないとか、高身長なのに細身で靴のサイズは24.5センチだとか、たまたま喉仏が出ない体質だとか、おまけに早稲田大学出身だとか……もう「生れながらのスペックが凡人とは違う」というのが答えなのであろう。それならせめて使っている化粧品を教えてくださいと頼んでみた。すると……。
『ちふれ』の化粧水をシャワーのように惜しげなくバシャバシャ使っていると教えてくれた!
昔は数万円する基礎化粧品も使っていたが、高級品をケチケチ使うより安いものをたっぷり使うほうがいいという結論に至ったのだとか。
おーいマキさんファンのみんな! 『ちふれ』の化粧水をバシャバシャ使うといいぞ覚えておこう!!
あとは野菜をたくさん食べること、よく寝ることが美の秘訣だそうだ。メモメモ……!
・わたし2丁目のこと誤解していたかも
平日だというのにお店はマキさん目当ての客で満席である。客席を忙しく行き来するマキさんに代わって、男性店員の方々が私の相手をしにテーブルへ来てくれた。
いかんせんこの日が2丁目デビューであるため他のお店のことは皆目分からないのだが、このお店に関してのみ言うとオーナーの田口さんを筆頭に、店員さんたちが皆「ノンケ受けするイケメン」ばかりで驚いた。大の男好きである私が言うのだから間違いはないはずだ。
考えてみればここが2丁目だからといって、皆さんがゲイだとは限らないワケで……かといってそれを聞くのは失礼に当たるワケで……。そんなことを思いながらモジモジしていると可愛い店員さんが「ゲイに決まってるでしょぉ〜!」と明るく接してくれたので緊張がほぐれ、気づけばタメ口で喋っている自分がいた。彼らいわく、女性が2丁目で飲むことに対して快く思わないゲイの方もいるがそれは少数だし、気にする必要は全くないとのこと。
マキさんにも水商売を始めたころから女性客のほうが多かったそうで、「女に嫌われる女はダメよ」との格言をいただいた。
おこげはおこげらしくむやみに目立とうとせずにいれば、暖かく受け入れてくれるくらいには2丁目は懐の深い街なのじゃないだろうか。店員さんたちの雰囲気からはそう感じられた。この日はマキさんに夢中であまり店員さんたちとお話できなかったけれど、「またおいで」と言っていただいたので本当にまた来ちゃおうと思う。
・最後に一言……!
ありがたいことにマキさんにたくさんのお話をうかがえたが、ここに書けない内容も多くて口惜しいばかりである。今年は活動が増える予定だというマキさんに会える機会は、この先もあるはずなのでファンは動向をチェックしておこう! 会えたらテレビの裏話からスリーサイズまで教えてもらえるかもしれない。
夜も更け、お別れの時間が近づいてきた。
最後にマキさんの座右の銘をうかがうと、即座に返ってきた答えは「温故知新(おんこちしん)」。古いものを知ることで新しいものを知るという意味だ。
「最近の若いゲイはナチュラルすぎるのよ。私みたいなバケモンもいるってことを知れば、新鮮で面白いはずだわ」
マキさんにお見送りまでしてもらってお腹いっぱいな夜であった。いただいたサインは額に入れて飾ろうと思う。
ありがとうマキさん! また会いにきます!
おやすみなさ〜い!
・今回ご紹介したお店の詳細データ
店名 MTY
住所 東京都新宿区新宿2-17-1
電話 03-3353-2801
時間 19:00〜
休日 無休
ちなみに、マキさんの波乱万丈の人生を綴った電子書籍が先月発売された。生い立ちから現在まで「テレビでは見れない自然体の自分はここに記されている」とマキさん本人が言うのも納得の内容になっているので必見だ。幼少期の秘蔵写真も満載! 詳しくはマキさんのオフィシャルサイトへ。マキさんの名言スタンプも発売中である。
参照元:ジョン&マキ倶楽部、フジテレビ ザ・ノンフィクション
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.