国土交通省によると、電車の運休・遅延の約半分が自殺に起因しているという。自殺防止灯やホームドアの設置といったさまざまな対策もとられているが、啓発ポスターなどを貼ることは逆効果との指摘もある。思い詰めている人はそういったポスターが目に入らないだけでなく、「ここで自殺ができる」と思ってしまうからだ。
では思い詰めている人にどう訴えればいいのか? 今回ご紹介する動画には、そのヒントが隠されているかもしれない。自殺をしようと線路内に立ち入った男性を抱きしめ、慰め続ける駅員の姿が映っているのだ。
・駅員が「君は素晴らしい」と乗客に話しかける
2017年4月、カナダ・トロントのダンダス駅で撮影されたこの動画。マルタ・ベントさんが Facebook 上に投稿したものだ。再生すると「君は素晴らしい」と話す声が飛び込んでくる。この声の主こそが、“神対応” を見せたジョン・ポール・アタードさんだ。
赤いキャップをかぶりホームに腰掛けているアタードさんは、線路に立つ1人の男性を抱きしめている。自らの命を絶とうと線路に立ち入った男性を慰めているところなのだ。
・絶望した男性に話しかけ、抱きしめるアタードさん
地元メディア『Toronto Sun』によると、線路に立ち入った男性に気付いたアタードさんは、駅に向かっている途中だった電車を止めてから、線路上の男性の前に腰掛けて「今日、嫌なことがあったのかい?」と話しかけ始めたという。
「嫌なことがあった」と返事した男性の腕には病院のタグが巻かれ、体は震えていたそうだ。
アタードさんは男性を抱きしめ、何度か深呼吸をさせ勇気づけてから、男性に「私は強い」と声に出して繰り返させた。動画の中でも、男性はアタードさんの体にしがみつきながら、「私は強い」と何度も繰り返している。
・居合わせた乗客全員も「私は強い」と繰り返す
するとアタードさんは、その場に居合わせた乗客にも声をかけ「私は強い」と唱和させ始める。固唾をのんで成り行きを見守っていた乗客たちも、アタードさんの声にあわせて「私は強い」と大声で繰り返していく。
その後、男性に何かを言い聞かせるアタードさん。男性はその声に静かに耳を傾け、最後には力強くアタードさんと抱擁を交わすのだった。
男性が警察と共にホームを去っていく際に、アタードさんは協力してくれた乗客にも感謝を表しており、周囲からはあたたかな拍手が巻き起こった。
・アタードさん「他者を大切に扱うこと」
アタードさんの行為はまさに神。いや、ヒーローだ。だが彼自身は、特別なことをしたとは思っていないと話す。次のように語りながら、他者を大切に扱うことの重要性を訴えているのだった。
「ストレスはとても深刻な問題です。心の病が周囲に気付かれない人だっています。誰だって人間です。私たちは苦しむ人々を大切に扱わなければならない。そうすることで、世界をより良くしていけます」
参照元:Toronto Sun(英語)、Facebook、京都大学、 国土交通省鉄道局(PDF)
執筆:小千谷サチ
▼男性を慰め、励ますアタードさん
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