私(佐藤)は普段からポータブルHDDを持ち歩いている。SDカードが満タンになることをおそれて、いつでもデータを移動してSDを空にしたいからだ。しかしそのHDD(2TB)も約2年でいっぱいになり、新しく買い換えることになった。データを移動している際に、取材をしておきながら記事にしていない貴重な画像や映像を発掘したので、紹介して行きたいと思う。
最初に紹介するのは、ポルトガルで訪ねた「ファド」を聞かせるレストランである。芳香剤のCM以来、リスボンのサン・ペドロ・デ・アルカンタラ展望台はすっかり有名になり、観光で訪れたという人もいるはずである。実はあの界隈には、ファドを聞かせる店がいくつも存在し、道端には呼び込みが観光客を招こうと声をかけてくるのである。
・街中のどこかしらから聞こえる歌声
ファドとは、ポルトガルの民謡である。クラシックギターやポルトガルギターの伴奏で歌われる、哀愁に満ちた旋律が印象的だ。わりと何でもないようなレストランに歌手がいて、食事をしながらその演奏を聞く。したがって街中を歩いていると、歌声が店の外に聞こえてきたりする。
・クラブサウンドもガンガン
私が宿泊した場所は、展望台まで徒歩で1分とかからないところにあった。ファドの歌声だけでなく、石造りの建物にあまり相応しくないような雰囲気のバーから、ガンガンにDJの音楽も漏れ聞こえていて、せっかくの叙情的な歌声がかき消されているようになっていた。
・街は結構汚い
余談だが、街はきれいとはいえない。見るからに歴史を感じさせる石造りの建物にさえ、落書きがされており、街中は夜になるとゴミだらけになってしまう。そこら中にゴミが投げ捨てられるからだ。それを朝、清掃員が高圧洗浄器のような水を噴射するホースで、バーッっとゴミを一箇所に向けて吹き飛ばしてしまう。集まったゴミを回収するのには、石畳は向いているらしい。アノCMはキレイに見せてなあと思えて仕方がない。
・片言ながら日本語を話す若者
さて、夜、街を歩いていると、あちこちから声をかけられる。その多くがファド屋で、「うちに来い」とか何とか繰り返し言うのである。シーズン外に行ったためか、周りにアジア人が全然いなくて、随分目立っていたようだ。そのなかの一人、彼はどこの国の出身なのか忘れてしまったが、話してみると、日本にもいた経験があり、「コンニチハ」とか「アリガトウ」と言って気を引こうとしていた。
・記念写真でさよなら
結局その彼とは記念写真を撮っただけで、別のファド屋に行くことにした(彼には悪いことをした)。いくつかのお店の様子を見た後に、老舗の風格漂う「Luso」という店に入った。すでに食事をしていたので飲み物だけをオーダーし、しばしファドの鑑賞。都合1時間から1時間半のステージで、1万円したかしないかだった。
・まばたきも忘れる歌唱力
よほど名のある店なのか、ステージに立つ歌手の歌唱力といったらハンパではない。私はまばたきも忘れて彼らの音楽に耳を、いや全身を傾けて聞いた。これが大衆音楽。こんな素晴らしい音楽が身近にある環境で育った子どもは、自然に才能を開花させるのかとぼんやり考えていた。
・石畳に響き悲しい音色
とはいえ観光地であり、最後の方には観光客を登壇させて記念撮影なんかして。まあ当たり前のことなのだが、あまり見たい光景ではなかった。それと、ほとんどの客がこの素晴らしい歌声を聞いていないような感じで、終始話し声が絶えなかったのも気になった。仕方がないことなのだろうか。
とはいえ、今振り返っても素晴らしい旅の思い出である。あの石畳に囲まれた薄暗闇で、聞こえてくるファドの悲しい音色は本当に心地よかった。
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24