「色聴」という言葉をご存じだろうか? これは、音を色として感じることができる能力をさす言葉だ。共感覚とも呼ばれており、ある感覚的な刺激(たとえば音)を受けると、同時に別の感覚的な刺激(この場合は色彩)を受ける知覚現象を意味する。
ロンドンで活動する芸術家、ニール・ハービソン氏は生まれついて色覚に障がいがあり、色を識別することができない。11歳まで白黒の世界に生きていることにさえ、気づかなかったそうだ。現在は頭蓋骨に特殊な装置を埋め込んでおり、色を音で聞くことができる。つまり後天的な共感覚の持ち主だ。彼に聞こえている音はとてもユニークで、同じ世界にいながら、まったく別のものが見えているようである。
・音を聞く装置「eyeborg」
彼の頭の装置は「eyeborg」と呼ばれている。彼の目に写る世界には色がない。目に写るもののすべてが白と黒、もしくはその濃淡で知覚されているのである。2003年にダーティントン芸術大学で行われたある講義を受けたことをきっかけに、「音を聞く」装置の開発に乗り出す。
・10年以上装着
仕組みはそれほど複雑ではない。頭にアームを取り付けて、目の前辺りにカメラが来るようにする。そしてカメラが捉えた光の波長を、頭の後ろにあるチップで音に変換しているのである。2004年に装置が完成し、現在まで機器の調整や部品交換などをする以外は、10年以上も付けっぱなしにしているそうだ。
・人物の音
そして2005年にダーティントン芸術大学にチャールズ王子が訪問したときから、面白いサンプルをとり続けている。それは、人物の音を採取しているのである。そうして得られたサンプルを2012年に出演した世界的講演会の「TED」で発表している。そのときに紹介した音は、ウッディ・アレン、レオナルド・ディカプリオ、トム・クルーズ、アル・ゴアなど、数々の著名人たちの持つ音だ。
・音から色へ
さらにこの時の講演で、もうひとつユニークな発表している。それは「色 → 音」を紹介するだけでなく、逆のアプローチで「音 → 色」を再現したのである。たとえば、モーツァルトの楽曲から得られる色彩や、ジャスティン・ビーバーの楽曲から得られる色彩を紹介している。モーツァルトの曲は黄色や緑など明るい色が目立ったのに対して、ビーバーの曲はピンクが映えるややセクシーなトーンとなっていた。
・赤外線や紫外線まで
彼は色盲であった。だがこの装置により、360色を知覚できるようになったそうだ。それだけでは飽き足らず、人間が視覚的に認識できない赤外線や紫外線まで感知できるように改良したそうである。彼の知覚する世界は、色を音として聞くことによって、さらに広く奥深いものになったのではないだろうか。いつか、彼の感覚が味わえるような機器が販売されることを願う。そうしたら、日常はよりエキサイティングに感じられるのかもしれない。
参照元: International Buisiness Time、TED、YouTube
執筆: 佐藤英典