おそば屋さんは、そばやうどんを食べるところだ。たとえメニューに「ラーメン」の文字があったとしても、真っ先に飛びつく人はごくわずか。だが決して、お蕎麦屋さんのラーメンをあなどってはいけない。ごくたまに奇跡のようなラーメンを出すお蕎麦屋さんがあるのである。
そのひとつが東京新宿区にある『四谷更科』。もちろん日本蕎麦屋であるが、なぜかこのお店はおそばよりもラーメンの方が有名であるという不思議なお店だ。事実、私(記者)が平日の夕方前に入店したときも、お客さん5人は全員ラーメンを注文していた。
・なぜラーメンなのか
いかにも “街のお蕎麦屋さん” といった気取っていなくて落ち着いた店内。夕方過ぎになると、ご近所の常連さんが「もりそばと日本酒」などとイキな注文をしつつ、テレビや新聞を見ながらマッタリとした時間を過ごす姿も確認できる。地元に愛されている証(あかし)であろう。
実は私、このお店には何度か来たことがある。その時はラーメンが有名ということはつゆ知らず、「鴨せいろそば」などを注文した。当然ながら、そばも美味い。だが、ラーメンが美味いと知ってしまったからには、ラーメンを食べなくてはならないだろう。すみません、ラーメンひとつ。
・代々伝わる昔ながらのラーメンの姿に心ほっこり
ラーメン一杯630円。店にいるお客さん全員が揃いも揃ってラーメンを注文している光景を見られたことは、まさに奇跡のタイミングである。注文してから、わりとすぐにラーメンはテーブルに運ばれてきた。究極にシンプル。これぞザ・ラーメンといった姿である。
具は、ねぎ、メンマ、チャーシュー、そしてほうれん草。麺は自家製で、スープは豚骨、鶏ガラ、ネギのみをベースとしている。現在のご主人は三代目だが、『四谷更科』でラーメンが生まれたのは初代のころ。知人の中華料理店から作り方を教わり、その作り方を代々守り続けているのだという。
・気になるお味は……
肝心のお味は……これまた感動。豚骨、鶏ガラ、ネギベースのシンプルなスープを、力強い醤油味がバックアップ。麺も「これぞソバ屋の自家製」といった塩梅の、実に正直な麺の味。ギンギンギラギラとした派手さは一切ない。そこにあるのは昔ながらの、直球ストレートにシンプルな「ザ・ラーメン」なのである。
食べ終えたとき、なんだかとても優しくて懐かしい気持ちになれた。昔を思い出して泣きそうになったほどである。女将さんにラーメンの評判を聞いてみると、笑いながら「この暑い中でも、みなさん温かいラーメンを食べてくださる人が多いですね」と語ってくれた。
なお、このお店のラーメンは、ラーメン王こと石神秀幸氏監修のラーメンガイド『石神秀幸ラーメンSELECTION2011(双葉社)』の表紙にも堂々と掲載されている。見た目からして美しい。飾りっけがないところが、実に美しいのだ。是非とも一度は食して欲しい。きっと優しい気持ちになれることだろう。
【お店データ】
住所:東京都新宿区新宿1-30-5
最寄り駅:都営新宿線「新宿御苑前」徒歩5分
営業時間:(平日)11:30-20:30 (土)11:30-15:00
定休日:日曜日
Report:GO
▼見れば見るほど美しい
▼そば屋で3年修行していた筆者が食べてすぐにわかった自家製の麺
▼いかにも街のお蕎麦屋さん
▼出前カブがあるお蕎麦屋さんが近所にある幸せ
▼ほら! この表紙のラーメンは……
上記キャプチャー画像参照元:双葉社