
見知らぬものに触れる機会が多いほど、人はより良く学び、さまざまなことを感じ取ることができる。感性を養うには、「感動」と「興奮」は欠くことができないだろう。
「シルク・ドゥ・ソレイユ」をご存知だろうか? これはカナダ・ケベック州で設立された「ヌーヴォー・シルク(新サーカス)」と呼ばれるエンターテイメントである。常設公演と巡回公演が世界中で開催されており、幅広く人気を博している。
実は日本にも常設公演会場(シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京)があり、2008年から「ZED」が上演されている。いまだ観たことがないという方は、正直申し上げて大変な損をしているかもしれない。「行った日が記念日になる」とさえ言われる素晴らしいエンターテイメントを観ずにして、この先本当の感動や興奮に触れることは、なかなかないかも知れないからだ。
では、なぜZEDが本当の感動を提供してくれるのか? その理由についてお伝えしたいと思う。
私(記者)も正直なところ、つい最近までZEDを観たことがなかった。シルク・ドゥ・ソレイユという名前こそ聞いたことはあるのだが、その実態を知らずにいたのである。友人に行こうと誘われたときに「サーカスでしょ」と答えたところ、その友人は「全然違う」と答えた。何が違うというのだろうか。それは会場に一歩足を踏み入れたときから、すぐに感じ取ることができた。
・ ZEDのためだけに造られた会場
会場のシルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京は、ZEDのためだけに造られたものである。単独公演のために、会場を設けているエンターテイメントは数々あるのだが、ディテールの細かさはおそらく世界でも類を見ないほどのものだろう。最新の舞台機器を備えているのにも関わらず、場内には現代建築を感じさせるものはどこにも見当たらないのだ。
それもそのはず、来場者の目に見える範囲の建造物にはエイジング(わざとに年数が経過したかのように見せる建築技法)が施されており、まるでテント小屋にでもいるような雰囲気をかもしている。新しいのに、どこかしら懐かしい雰囲気を感じるのだ。これもZEDのこだわりなのだろう。
・ 演出の素晴らしさに、開幕から涙が流れる
ZEDが開幕すると、幕で隠されたステージの全貌が明らかになる。舞台装置のスケールにも驚かされるのだが、それよりも照明や音響の素晴らしさに胸を打たれてしまう。私は冒頭の夜の星々をちりばめた演出に、思わず感動して涙が流れたほどだ。これが「サーカス」という言葉では、言い表せないものであることを、痛いほど理解したのである。
来場者の感想には、「自然に涙が流れた」とのコメントも少なくないようだ。それが決して大げさな表現ではないことを、開演と共に知ることとなった。
・ 素晴らしい音響で聞く生演奏は格別
ステージ上には、目立たない位置に演奏者らがいる。上演中は音楽が絶えることがなく、当然ながらステージと連動した演出になっている。始まってしばらくは、音源を流しているだけのように感じてしまうのだが、よくよく演奏者らを見ていると、それが生演奏だと理解できる。
サーカス・アーティストのパフォーマンスもさることながら、ステージを影ながらに支える演奏者も見逃せない。ダイナミックな演奏を、最高の音響で聞くのは、贅沢というものだ。
・ パフォーマンスを極めたサーカス・アーティストから目が離せない
人間の限界はどこにあるのだろうか? サーカス・アーティストたちの身のこなしを見ていると、限界などないのではないかと考えさせられる。1本の布を頼りに、地上21メートルの高さで舞い踊るソロ・ティシュー(アクトの名前)、寸分違わぬ動きでアクロバティックな演技を見せるバンキン(アクトの名前)、そして驚異的なバランス感覚と柔軟性で、静かに力強く妙技を披露するハンド・トゥ・ハンド(アクトの名前)。
全編約2時間の公演なのだが、ステージの世界に入り込んでしまうために、アッと言うに時間がすぎてしまう。もっとも観ていたいと思うころには、残念ながら終幕となってしまうのだ。それはまるで「夢」を見ているような感覚といっても、決して過言ではないだろう。
年内残り100公演(10月3日午前現在)となり、席にも限りがある日があるようだ。「行った日が記念日」になる、その言葉通りに観覧した日のことは忘れられないものになるだろう。家族で、恋人同士で、親しい仲間と、新たな記念日を紡いでみてはいかがだろうか。
写真:Cirque du Soleil Inc.
▼ 棒を自在に駆け巡る「ボール&トランポリン」
©Cirque du Soleil Inc.
▼ 2つの空中ブランコ「フライング・トラピス」
©Cirque du Soleil Inc.
▼ アーティスト総出でゴージャスな「シャリバリ」
©Cirque du Soleil Inc.

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