「コックリさん」と言えば、誰しもが知っている身近な降霊術である。

やり方を簡単に説明すると――「はい、いいえ、五十音表、男、女、鳥居」を書いた紙の上に、十円玉などの硬貨を置く。参加者たちはその硬貨を人差し指で添えつつ、コックリさんに呼びかける。すると勝手に硬貨が動く――というものだ。

今回取材に応じてくれた、コックリさん体験者の主婦Aさん(58)は、「生半可な気持ちでやると取り返しの付かないことになる」と念を押す。彼女が体験した恐怖のコックリさん現象とは?

今から四十数年前、とある女子高に通っていたAさんは、クラスメイトと軽い気持ちで「コックリさんをやってみよう」ということになった。当時、コックリさんはちょっとしたブームだったらしい。

お決まり通りに、文字の書かれた紙と硬貨を用意。また、「なぜか割り箸を用意した。深い意味は思い出せないが、割り箸は『最後の手段』のアイテムだった」と語る。

クラスのリーダー格であったAさんは、適当に人数を集めてコックリさんを開始。「コックリさん、コックリさん、おいでください……」と、お約束の呪文を唱えると、見事に硬貨は動き出したという。質問した内容は、「当時、クラスメイトから嫌われていた先生のことなど、心底しょーもないことだった」とのこと。

順調に進んでいたコックリさん現象だったが、突如として異変が起きた。コックリさんからの回答が、「れえおもえおふ……」など、全く意味不明のものとなったのだという。さらに、参加者の一人の息遣いが「ハッハッハッ…」と急に荒くなり、顔を見るとみるみる目が吊り上がっていくではないか!

「ウソじゃなくて、本当に目がどんどん吊り上がっていった。そう、まるでキツネのように」

そして、恐れていた事態は起きた。キツネのような顔になった女子生徒は、突如、「コンコーン! コーン!」とキツネのマネをし始めた。さらに硬貨から指を離し、教室中を飛び回り始め、窓から外に飛び降りようとしたのだという。

「これは本当にヤバい!」と思ったAさんは、「最終奥義」の割り箸を窓から思い切り投げ捨て「コックリさん、ごめんなさい!」と心のなかで謝り倒した。するとキツネに取り憑かれた疑惑の女子生徒はグタッ……と倒れ、保健室へ直行と相成った。

事の顛末を知った担任教師は、Aさんグループをこっぴどく叱ったという。しかし、話はまだ続く。

保健室でしばらく休んでいた女子生徒は、保護者と共にそのまま帰宅、早退した。その後、何日経っても彼女が登校することはなく、やがて転校していったのだった。引っ越ししたという噂も耳にした。ただ、保健室に連れて行かれる時も「彼女の目はつり上がったままだった」という。

彼女が本当にキツネに取り憑かれてしまったのかどうかは分からない。催眠状態になっていたのかもしれないし、ヒステリー状態になっていたのかも知れない。しかし、「こんな出来事があったのは事実。軽い気持ちでやると取り返しの付かないことになるよ」とAさんは真剣な表情で語ってくれた。

ちなみにその後Aさんは、このコックリさん体験がきっかけなのかどうかは定かではないが、心霊現象を「よく見てしまう」ようになったという。

イラスト:マミヤ狂四郎