12月26日、漫才日本一を決める『M-1グランプリ2010』が放送された。史上最多の4835組がエントリーした大激戦を制して、笑い飯が見事にチャンピオンに輝いた。9年連続で決勝に進んでいながらあと一歩のところで優勝を逃していた彼らが、ようやく栄冠を手にしたのである。10回目でラストとなるM-1は、こうして華々しい結末を迎えた。
だが、この日、視聴者や観客に最も強烈なインパクトを残したのは、笑い飯ではなかった。決勝初登場の伏兵・スリムクラブが、独創的な漫才で爆笑をもぎ取り、優勝まであと一歩と迫る大健闘を見せたのだ。
スリムクラブは、沖縄県出身の真栄田賢と内間政成の2人から成るコンビ。ボケ役の真栄田が、しゃがれた声質と鋭い発想力を生かして、予測不能のフレーズをゆっくりと発して爆笑を巻き起こす。ツッコミ役の内間は、そんな真栄田の不可思議な言動に圧倒されて、ただあきれるばかり。彼らの超スローテンポな漫才は、M-1の舞台でも異彩を放っていた。
決勝ファーストステージを3位で突破して、笑い飯、パンクブーブーと並んで最終決戦進出を決めた後、コメントを求められた真栄田はこう返した。
「僕らなんかがここまで来れるって、今年のM-1はセキュリティが甘いです」
自分たちが「要注意人物」であることをにおわせる気の利いた発言で、場内はさらに盛り上がった。相方の内間も、すかさず小さい声で「ラッキーでしたね」とのんきな一言。張り詰めた空気が漂うM-1の大舞台で、彼らだけが南国・沖縄のゆったりとした時の流れに身を置いているようだった。
最終決戦の結果は、「笑い飯4票、スリムクラブ3票」となり、スリムクラブは惜しくも1票差で優勝を逃した。だが、ほぼ無名だった彼らが、優勝候補の笑い飯をあと一歩というところまで追い詰めたのは快挙というほかない。現在、スリムクラブには仕事のオファーが殺到しているという。M-1でその名をとどろかせた彼らのさらなる飛躍に期待したい。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
イラスト:マミヤ狂四郎