
国内旅行のバイブルといえば、ガイドブック『るるぶ』。
誌面に「これでもか!」と詰め込まれたスポットの写真や、編集部員が実際に現地を歩いて集めた情報を眺めていると、旅のイメージが膨らむよね。
そんなるるぶが、ホラーという新たなジャンルを開拓し始めたのをご存じだろうか。記念すべきその第1冊目を読み終えたので、率直な感想をお伝えしたい。
・るるぶ■■版 蓋ヶ瀬
一見すると普通のガイドブックのように見える、こちらが『るるぶ■■版 蓋ヶ瀬(ふたがせ)』(税込1760円)。
ピンクや黄色の縁取りで飾られたタイトルや、アウトドアや工場見学といった非日常のアクティビティ写真が表紙に並び、旅への期待感がくすぐられる。
──しかし、同時に妙な違和感も覚える。
表紙の左側には「螳梧」、下側には「縺ゅj縺後→縺」といった文字化けのような意味のわからない単語(?)が記載され、いくつかの写真にはモザイクもかけられている。
全体をぼんやり見ると明るく賑やかなのに、心に小さな棘がチクチク引っかかるようなデザインなのだ。
・ガイドブックに潜む違和感
ここからは内容に触れるが、ネタバレは避けて紹介していこう。
るるぶ蓋ヶ瀬は前半のガイドブックパートと、後半の読み物パートに分かれている。
前半は通常のるるぶと同じフォーマットで、写真をメインにスポットの解説が添えられている。
ハッキリ言ってしまうと、蓋ヶ瀬という地域には 観光地らしい見どころが少ないようだ。紹介されているスポットはただの公園や学校、果てはトンネルなど、生活の一部ではあっても旅の目的地とは言い難い場所ばかり。
「ふーん」と流し読みしていたのだが、やはり表紙と同様、小さな違和感が積み重なっていく。
それはちょっとした写真に写り込む盛り塩であったり、トンネルにまつわる地元住民の「まっすぐなのはあれが追いかけてきやすくするため」といったコメントなど。
ひとつひとつはささいなのに、じわじわと禍々しさが増していく。なんだ、このガイドブックは。この土地は。
・読み物パートで畳み掛ける
後半の読み物パートでは、様々な証言や噂をもとに蓋ヶ瀬という土地の正体へと迫っていく。
掲載される話の形式はバラバラで、ネット掲示板、ホラー雑誌の読者投稿、手紙、録音の書き起こしなどが混在。最近よく見かけるようになった、モキュメンタリー的な手法で構成されている。
主なストーリーは、なぜ蓋ヶ瀬のガイドブックが作られることになったのかという、るるぶ編集部員の視点の取材記。つい先ほどまで見ていた誌面とリンクしているため、妙にリアリティがある。
結末や怪異の真相などは詳しく言えないのだが、徐々に様子がおかしくなる登場人物たちや物語の後味の悪さから、日本ホラーらしいじっとりとした恐怖が味わえた。
どこまでが本当で、どこからが嘘なのか。境界が曖昧で今晩は窓の外を見るのが嫌になりそうだ。
・秋の夜長におすすめです
全80ページだが、短いストーリーを繋ぎ合わせて怪異を追う構成なので サクッとライトに読み進められるのはメリットであろう。秋の夜長に 少しだけいや〜な気分になりながらホラーの世界へ浸るのも、きっと悪くないハズだ。
ただし、個人的には少し残念な部分もある。
せっかく「るるぶ」という媒体を使っているのに、ガイドブックパートがすぐに終わり、ほとんどを普通のホラー小説として構成してしまったのは勿体ないような気がする。
ガイドブックパートの違和感が新鮮で面白かっただけに、もっとこの世界観を味わいたかったというのが本音だ。
──とはいえ、本書はるるぶにとってもおそらく手探りの試み。ガイドブック×ホラーという新ジャンルは完全にブルーオーシャンであり、伸びしろしかないはずだ。
もしも今後『るるぶ■■版』としてシリーズ化されるのならば、ガイドブックホラーとしてのさらなる境地に期待をしたい。
参考リンク:JTBパブリッシング 『るるぶ■■版 蓋ヶ瀬』発売のお知らせ、PR TIMES
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.