ロケットニュース24

【視覚障害者の日常】電車内のベストポジションを確保するまでに起こること

約1時間前

4年前、緑内障の悪化で私は目がほぼ見えなくなった

ちなみに、職業はテレビ番組の制作プロデューサー。

「目が見えなくてテレビの仕事?」

自分でもそうツッコミたくなるが、周りの方のおかげでなんとか仕事を続けられている。

たくさんの方に助けてもらう中で、今の自分にできることや気づいたことを少しずつ伝えていければと思うようになった。

今回はその中のひとつ。電車内のベストポジションについてだ。

私は白杖を使って電車に乗っている。そのたび、毎回ひとつだけ強く思うのは……


ドアが開いたとき、ドア脇の左右が空いていると本当に助かるということ。


そう、私にとってのベストポジションとはドア脇

目が見えなくなって、初めて電車の中に安心できる場所があることを知ったと言っても過言ではない。


・いつもの乗車風景

私がよく乗るのは、朝9時半を少し過ぎた電車。

この時間帯は絶妙で、混んでいる日もあれば、意外と空いている日もある。

体感でいうと、ドア脇が空いている確率は50%くらい。

ホームで待ちながら、毎回ちょっとした賭けをしている気分になる。

電車が来て、ドアが開く。

私はすぐには乗らない。

耳に全神経を集中させる

降りる人の足音は聞こえるか。

車内から声は聞こえるか。

空気はザワついているか。

……しかし、結構みんな静かだ。

映画や漫画では、目が見えなくなると他の感覚が研ぎ澄まされる、なんて描写がある。

だが、残念ながらそんな都合のいいことは起きていない。

視覚障害者になって分かったのだが、常に神経を張り続けながら動いている。

足元は大丈夫か。

人や物にぶつからないか。

今の音はなんだ。

そして、自分の現在地はどこか。

気が抜ける瞬間が、ほとんどない

これでもまだ電車に乗る前。今の時点で、私の神経使用率は60%くらい。



・いよいよ乗車

ここからが神経MAXにはね上がる本番である。

意を決して、まず左手を伸ばす。

……誰かの手に当たった。

「あ、今日もダメか」

左に人がいるということは、高確率で右にもいる。

皆さんご存じのように、ドア脇は人気スポットだ。

結果、私はドアの真正面に立つことになる。

そのため、目的の駅に着くまで、私は駅に止まるたび、一度降りて、また乗るという行動を繰り返している。

本当は奥に行ければいいのだが、正直かなり怖い。

私が動けば動くほど誰かにぶつかるし、何より気を遣わせる人が増えていく

実際、手すりのところまで連れて行ってもらったり、席を譲ってもらったことも何度もあった。

本当にありがたい。

ただ、その優しさに頼り続ける状態になるのも、かなりしんどい。

奥に行けば行くほど、 “すみませんゲーム” が始まる。

ぶつかる。

謝る。

またぶつかる。

このゲームの恐ろしさは、降りる時にも待っているということだ。

外から見れば平和なワンシーンかもしれない。

だが実際は、感謝しながら、謝りながら、ビビりながら進んでいる

もう、おじさん大パニックである。


たまに、誰かが気を利かせてくれて「どうぞ」とドア脇を譲ってくれることがある。

その時は心の底からありがたく、「ありがとうございます」と言って使わせてもらう。

ドア脇に立てた瞬間、メンタルHPがグングン回復していく

ドアの場所と距離が把握できる。

他の方の乗り降りの時も、背筋を伸ばして邪魔にならないようにするだけでいい。

余計なことを考えず、 “降りること” だけに集中できる。

そこが、数少ない安心できる場所になる。


・気を遣わせないようにしたら…

あと、こんなことも試している。

「運動不足なので立っています」という、なんとも個人的な理由である。

だが、これが思った以上に効果があった。

どうやら周りの方も、「この人は座りたい人ではない」と判断してくれているようで、ドア脇にいる時がさらに快適になった。

しかし、これには落とし穴もあった

月に数回、地元に戻る用があるのだが、1時間半ほど電車に乗る。

当然、途中で座りたくなる。

だが、どれだけ車内が空いていても、誰も声をかけてくれない。

そりゃそうである。

「運動不足なので立っています」と、自ら宣言しているのだから。

しかも、一度これを掲げてしまうと、謎のプライドが邪魔をして、こちらから「やっぱり座りたいです」とも言えない。

人は時に、自分で作った設定に苦しめられる……。



別にルールを変えてほしいわけではない。

ただ、ドア脇が空いていると、その日1日の移動が少しだけ楽になる。

私は今日も、ドアが開く音を聞きながら、そっと手を伸ばしている。

執筆:緑(RYOKU)
Photo:RocketNews24.
イラスト:Gemini

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