
ついこの間のこと、高速バスに乗っていたら事故に遭った……と言っても、大事故ではない。幸いケガ人も出ていない接触事故なのだが、私は最後尾の左側座席に座り、イヤホンをつけてスマホを眺めていたため全く気がつかなかった。
バスターミナルを出発してわずか20分ほど。バスが路肩に停車し、マイクを持った運転手さんが口を開いた。「私も10年以上運転手をしておりますが、こんなことは初めてです……」
・事故
言われてみれば、少し前に私の前に座っている女性2人組が「わ、わ、わ!」と驚いていたような気がする。イヤホンを外すと「後方のお客様はお怪我など大丈夫でしょうか?」とマイクで問いかける運転手さんと目が合い、なんとなく事態を把握した。
どうやら事故ったらしい。前の席の女性曰く、乗用車がバスを強引に追い抜こうとしたのか、バスの後方左側にぶつかってきたそうだ。つまり私のすぐ隣に突っ込んできたということになる。マジかよ。
都内の交通量はハンパないし、いつか事故ってもおかしくないとは思っていた。
しかしまさか自分が乗っているバスが事故に遭うとは……動画に夢中になりすぎて衝撃に1ミリも気づかなかったことにもビビる。スマホって怖い。動画さえ見ていなければもう少し状況を把握できただろう。
・盛り上がり始める車内
運転手さんも初めての経験でかなりテンパっている様子。どうやら警察待ちらしい。「急いでいる方はいらっしゃいますか?」と聞かれたが、どうにもならない気がして手は上げなかった。
すると「警察を呼んだのは10年で初めてです」と、運転手さんは少しテンションが上がった様子でアナウンスを続けた。乗客のおばちゃんたちは「バスは悪くないわよね〜」「そうそう、あの車が突っ込んできたんだから」と盛り上がり始める。
・2名が残る
1時間ほど路肩で待ちぼうけしていると、後方から「次のバス」がやってきた。警察の現場検証にもう少し時間がかかるらしく、乗客は次のバスに移ることに。
「お待たせして申し訳ありません、10年以上運転手をしていますが〜」という定番文句の後に「皆さんには次のバスに移ってもらいます」とのアナウンス。前の席から順番に乗り換えが始まったのだが……
運転手さんが人数を確認したところ……2人乗れないらしい。順番的に最後尾の私が乗れないことになる。そこで運転手さんが「このまま残る2名の立候補者」を募った。
なんとなく続きが気になっていたし、もともと最後尾にいたわけだし、私は手を上げて元のバスに戻った。
すると、おばちゃん数名もなぜか同じバスに戻ってきたのである。だったら先に出発するバスに乗りたいんですけど、と思わないでもなかったが、最初に手を上げてしまったのでもう引き返せない。
──こうして、私とおばちゃん精鋭隊が元のバスで目的地を目指すことになった。
・「語るモード」に突入した運転手さん
事故発生から1時間半ほど経ったところで現場検証も終わり、ようやくバスが動き出した。運転手さんがあらためてマイクを握る。
「この度は残っていただいてありがとうございます」「頑張ります」「とにかく安全運転で目的地へ向かいます」
熱い決意表明である。おばちゃんたちが笑顔で拍手喝采を浴びせる。車内はいつの間にか「大衆演劇のステージ」みたいになっていた。もはや「熱く語る運転手さんと苦難を乗り越える観光バスツアー」である。
・目的地へ
目的地に近づくにつれて、運転手さんのアナウンスはさらにヒートアップした。「本当に今日は……」「10年運転していて……」「言葉になってませんね……」「今日の出来事は一生忘れることはないと思います(涙)」と感動の総括。
そんなこんなで2倍以上の所要時間をかけて、バスは目的地に到着した。降りる時、運転手さんと乗客はお互いに「お疲れ様でした」と声を掛け合っていた。
乗客同士、同じ冒険から生還した仲間のような妙な絆で結ばれており、気づけば私も「大変でしたね」と声をかける始末。おばちゃん精鋭隊に至っては、降車後もバスのそばに残り、運転手さんとバス旅の感想を語り合っていたようだ。
・日常に潜む危険
今回は幸いにも軽い事故で済んだから良かったものの、やはり日常の中には危険は潜んでいると思い知らされた。私ももう少し周囲に目を向けた方がいいかも、と反省しました。現場からは以上です!
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.