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消えゆく冬の奇跡。北海道・網走の流氷観光船「おーろら」で見た未来に残したい景色

2026年2月22日

冬の北海道でしかできない特別な体験のひとつに、道東の流氷観光がある。漫画『ゴールデンカムイ』の舞台巡りからはじまり、北海道の厳しくも美しい自然や、独特すぎる歴史的成り立ちにすっかり魅せられた筆者。樺太編のクライマックス、流氷を舞台にした逃走劇は印象的だ。

彼らが渡ったのは宗谷海峡かと思うが、ロシアのアムール川で生まれた流氷はオホーツク海を埋め尽くしながら道東にまで届くサイズに成長→つまり同じ流氷だ! という、やや無理筋な理屈で網走に行ってきた。「船の予約さえ取れたら誰でも見られる」ものだと、つゆほども疑わずに……


・流氷という存在のレアリティ

この日は流氷観光船に乗ることにしていた。1週間以上前に「流氷初観測」のニュースを目にしていたので、筆者はすっかり安心していた。しかし案内してくれた方は、しきりに海岸線に目をやりながら「見られることを祈りましょう」と言い、スマホ検索の手を休めない。空は青く晴れており、岸にはごく普通に波が打ち寄せている。

不勉強ながら、筆者は流氷について「冬になると道東で見られる自然現象」というくらいのぼんやりしたイメージしかなかった。自然のものだから、年によって到達のタイミングが異なるのは理解できる。桜前線のようなものだろう。

難しいのはここからだ。流氷は海に浮かんでいる。風によって陸に近づいたり遠ざかったりするので、毎日同じ場所にあるわけではない。なんなら「1時間前には目視できたけれど、今は影も形もない」というケースもあるくらい、流動的なものらしい。

逆に港内すべてが氷で埋まると、今度は砕氷船といえども出港できなくなる。つまり「観光船が往復できる距離に」「ほどほどの氷がある」という状態でないと、一見客は鑑賞できないのだ。そんなにレアなものだとは知らなかった……。

たとえば観光船なら、第1便では見られたけれど、後続の第2便では見られない、なんてこともあるらしい!! 流氷がないオホーツク海は、言うて「ただ寒い冬の海」であり、それなら地元にもある。にわかに緊張感が高まってきた。


・網走流氷観光砕氷船「おーろら」

乗船場は大変混んでいた。さすが冬の網走観光の目玉、かなり早くから予約必須と思われる。予約済みなら確実に乗られるだろうが、船内は自由席なので早めに乗り場に着いて並んでおくのがおすすめだ。


乗り込むのは450名乗りの網走流氷観光砕氷船「おーろら」(大人5000円~6000円/約60分)だ。

同じく有名な流氷観光船に紋別の「ガリンコ号Ⅱ」もあるが、砕氷方法が少し違う。ドリル状のスクリューで氷を割る「ガリンコ」に対して、「おーろら」は船の自重で砕氷する南極観測船「しらせ」の仲間だそう。


船内は自由着席。別料金の特別室のほか、自由席がたくさんあるが、そもそも満船なので席は争奪戦だった。


船は定刻に出港した。青空が広がっているのは気分爽快ではあるものの、流氷の気配はない。祈るような気持ちで外を眺める。


60分の航行時間のうち、半分ほどが経過した。「おーろら」は常に流氷の位置を確認しながら、見られる可能性が高い方向に針路をとる。外に出てみると、半透明の薄ーい氷がかさぶたのように海を覆っている。乾燥してひび割れた表皮のよう……と気持ち悪い比喩が頭に浮かんだが、お世辞にもきれいとは言えない。

「あとちょっとで見られる」というときには航行時間の延長もあるようだが、残り時間を考えるとこのままUターンかなぁと覚悟を決める。まあ「氷っぽいもの」は見られたし、これが流氷だと言われればそう見えなくもない。かさぶただけど。(※正しくは蓮葉(はすは)というロマンチックな名前をもつ円盤状の氷です)


ところが。


船はほどなく流氷帯に到達した。漫画に出てきたような、人が歩けるほどの厚さではない。けれど一面に氷のかたまりが連なっている。


船はどんどん流氷帯の奥に入っていき、みるみるうちに辺り一面が薄い水色に包まれた。


もとは何もない海だったはずのところに、まるで大地のように平面が広がっている。刻々と形を変える、ほんのひとときしか存在しない幻の雪原。雲間から太陽がさしこみ、周囲をきらきらと照らしている。なんて神々しい……! なんか涙が出てくる……!!


オオワシ? オジロワシ? 野鳥が氷の上で羽を休めていた。


もっと大きく厚く氷が成長する北の方では本当に大地のようになり、氷同士がぶつかることで丘や山脈が現れるのだそう。自然の力、すごい……!!


この頃には外部デッキにたくさんの人が集まり、さっきまで満員だった船内は無人だ。ただし海風は身を切るように冷たく、完全防寒していても長くは同じ場所に留まれない。ときおりファンネル(煙突)の影に隠れて体温を回復しながら左右の景色を楽しむ。


耐えられないくらい寒くなったら船内にも戻れる。船は1階客室、2階客室、展望デッキとあって、それぞれの階に屋外サイドデッキもある。見晴らしのいい上階が人気だけれど、下層階のほうが水面に近く、これはこれで迫力がある。

想像とは違って、氷を砕くような騒音はない。むしろ静かだ。船のエンジンのゴーッという重低音と、控えめに流れる解説アナウンスくらいしか聞こえない。ゆるゆると揺れ動く氷なので、「氷塊をかきわけるようにスーッと船が進んでいく」という表現が近い。念のため酔い止め薬を飲んでいたけれど必要なかった。


港に向けて船が回頭すると、氷のなかに航路が残った。これもすぐに消えてなくなるのだろう。すべてが刹那的で、同じ景色は二度とない。奇跡みたいな時間だった。


・いつまでこの景色を見られるだろうか

筆者はだいぶ前にアラスカの氷河を見に行ったことがある。それももちろん「すごい」とは思ったのだが、ほんの数時間で行ける同じ日本でこんなドラマチックな自然現象が見られることに、かえって強く感動した。

おーろら運航期間は3月末までだが、毎日「流氷あり・流氷なし・確認中」などリアルタイムで状況を発信している。温暖化の影響か、北海道沿岸の流氷面積&流氷期間は100年前に比べて半分近くに減っているという報告もある。過去に訪れたアラスカの氷河も年々後退しているのだと聞いた。

筆者のような観光客はもちろん、次の世代の地元の人々が見られるかもわからない。神は実在するんじゃないかと思うほどきれいで、それでいて地球の未来がちょっとだけ心配になるような、鮮烈な体験となった。


参考リンク:網走流氷観光砕氷船おーろら
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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