
日本最南端のリゾート地である石垣島といえば、美しい海と独自の文化で知られる沖縄の離島だ。そんな石垣島と、約1600km離れた愛知県田原市の渥美半島が、あるユニークな方法で友好関係を結んでいることをご存じだろうか?
その名も『やしの実投流』。なんと石垣島の沖合からヤシの実を海に流して、黒潮に乗せて渥美半島まで届けようというプロジェクトだ。しかもこれ、1988年から37年も続いているというから驚きである。
聞けば、近々投流が行われるという。「これは追いかけなければ!」と取材を申し込み、その後の経過を追うことにした。そして投流から約4ヶ月後、結果を確認すべく石垣島を訪問。果たして、100個のヤシの実の行方はいかに……?
・きっかけ
私(耕平)がこのプロジェクトを知ったのは、昨年5月に日比谷公園で開催された関東最大級の沖縄フェスの一つ「OKINAWA FES Milafete(ミラフェート)」。沖縄の音楽やグルメが楽しめる大規模なイベントで、会場は多くの来場者で賑わっていた。
私は以前、石垣市役所に取材したこともあり、会場内にあった石垣市のブースを訪ねてみることにした。
ブースには「おーりとーり!八重山諸島」と書かれた大きな垂れ幕が掲げられていて、テーブルの上には見慣れないものが置いてある。よく見ると、それはヤシの実だった。しかも、何やらプレートが付いている。
スタッフの方に話を聞いてみると、これが『やしの実投流』というプロジェクトで使われるヤシの実だという。その横にあるパンフレットには「愛のココナッツメッセージ」と大きく書かれていて、石垣島から渥美半島までの約1600kmの航路が示されている。
……えっ、石垣島から渥美半島まで? その距離、約1600kmあるんですけど。
詳しく聞いてみると、このプロジェクトは島崎藤村の叙情詩「椰子の実」に由来しているらしい。詩の中に登場する「名も知らぬ遠き島」を石垣島に見立て、1988年(昭和63年)から毎年ヤシの実を投流しているとのことだ。
しかも、6月に投流があるとのこと。これは追いかけるしかない。私はその場で取材を申し込んだ。
・ついに投流の瞬間!
2025年6月19日、ついにその日がやってきた。私はその場に立ち会えなかったが、スタッフの方からその様子が撮影された画像が届いた。
当日は愛知県田原市から38名の参加者が石垣島を訪れ、ユーグレナ石垣港離島ターミナルからチャーター船で出発。石垣島の北西沖、黒潮が流れるポイントまで30〜40分ほど進んだところで投流が行われたという。
参加者たちが、一斉にヤシの実を海に投げ入れる。その数、なんと100個!
参加者の手から空中を舞うヤシの実たち。この瞬間、渥美半島までの約1600kmの旅が始まった。
次々と海に投げ込まれるヤシの実の画像を見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。この小さな実が、果たして本当に渥美半島まで届くのか……にわかに信じられない。
ちなみにこのプロジェクト、過去37回の投流で合計4000個近くのヤシの実が海に放たれ、そのうち約156個が発見されている。ただ渥美半島に到着したのは、わずか4個だけとのこと。まさに奇跡的な確率だ。
・奇跡の漂着報告
投流から約4ヶ月後の2025年10月下旬、私は結果を確認すべく石垣島を訪問した。向かった先は、石垣市商工会の近くにある石垣市観光交流協会だ。
協会を訪ねると、日比谷公園で開催された「OKINAWA FES Milafete(ミラフェート)」で対応していただいた事務局長の方が出迎えてくれた。
まず画像を送ってくれたお礼を言い、その後の話も聞かせていただいた。
そして気になる結果はというと……10月末日までに、なんと6個のヤシの実の漂着が確認されたという!
渥美半島観光ビューローから届いた報告書によると、漂着場所と日時は以下の通り。
・No.45:7月28日 高知県四万十市 双海漁港
・No.37:8月1日 大分県速見郡日出町 速水海岸
・No.18:8月4日 鹿児島県肝属郡 内浦漁港
・No.24:8月5日 宮崎県日南市 大堂津海岸
・No.21:8月12日 兵庫県明石市 大蔵海岸
・No.20:8月16日 鹿児島県垂水市新城
100個中6個。回収率は6%だ。「たった6個?」と思うかもしれないが、信じられないような距離を黒潮に乗って漂流し、しかも誰かに発見されて報告されるまでの確率を考えると、これは十分に奇跡的な数字だと思う。
残念ながら今回は渥美半島への直接到達は確認されなかったが、高知から兵庫まで、日本の太平洋沿岸の広範囲に漂着していることが分かる。黒潮の力、恐るべしだ。
ちなみに漂着したヤシの実は、愛知県田原市にある「渥美半島観光ビューロー」に飾られているとのことだ。
──というわけで、37年も続く『やしの実投流』。一見すると荒唐無稽に思えるかもしれないが、実際に参加者の多くはリピーターで、毎年この日を楽しみにしているという。
自然の力を借りて、遠く離れた土地と土地を繋ぐロマンあふれるプロジェクト。もし石垣島や渥美半島を訪れる機会があれば、ぜひこの「愛のココナッツメッセージ」に思いを馳せてみてはいかがだろうか?
参考リンク:石垣市観光交流協会、渥美半島観光ビューロー
執筆:耕平
Photo:RocketNews24.